米国オフィスでは「AIをバンバン使ってる」 外資系IT社員が見た日本とアメリカの“決定的な意識の差”
外資系IT企業のアメリカ本社でプロダクト・マネージャーとして働く福原たまねぎさん。日本に一時帰国した際、元同僚から聞いた一言に、日米間のAI活用の"決定的な差"を痛感したという。米国オフィスのリアルな活用事例を聞いた。
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「文章は自分で書かないでください。大事なポイントを箇条書きでまとめて、あとはAIに作らせてください」
ある日、上司からそんな指示が飛んできた――外資系IT企業のアメリカ本社で働く福原たまねぎさんは衝撃を受けたという。
「僕のようなプロダクト・マネージャーをはじめ、営業、ファイナンスなどビジネス系の職種は『文章を書く、整理する』ためにAIをバンバン活用するようになりました。営業資料、マーケティング案、社内報告書、メール、提案書、企画書など、すべてAIに命令して作るスタイルに変わっています」
米国オフィスでは、AIを使うのは個人の工夫というレベルではなく、経営戦略の一環になっているという。たとえば福原さんが勤める会社では、チームごとに毎月「AIでどう生産性を上げたか」を報告する会が開かれ、成功事例は称賛と共に全社に共有される。
エンジニアに至っては、AIツールの利用率が数値化され、利用率が低い場合は「ツールの機能が悪いのか、ツールそのものの周知が足りないのか」という改善の議論に発展するという。
社内メールはAIで自動化
なかでも福原さんが驚いたのは、ファイナンスチームの事例だ。
「以前は、プロダクトチームの僕たちが都度ファイナンスにお願いして、異なるデータベースに散らばる情報を手作業で集計してもらっていました。ところがある日から、彼らは毎月のデータをAIで自動集計し、送信してくるようになりました。メールの末尾には、『Generated by Gen AI(生成AIで生成)』と堂々と書かれています。しかも、それを主導したのはプログラミング経験のない文系出身の同僚だったんです」
そんなAI活用の最前線から、福原さんは2025年の夏、日本に一時帰国した。そこで、日米間の「決定的な意識の差」を目の当たりにする。
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「日本で働く元同僚に、カジュアルに聞いてみたんです。『AIってどのくらい仕事で使ってるの?』と。すると、返ってきたのは『"AIを使おう"という動きはあります』という言葉でした。つまり、『使うモチベーションはあるけど、使ってない』ということです。その温度差に、正直かなり驚きました」
なぜ、こういった差が生まれているのだろうか。福原氏がまず挙げるのは、文化的な違いだ。
「日本は『便利なもの』よりも『慣れているもの』を優先してしまう傾向があるのではないでしょうか。もちろん、新しい技術に対して慎重になるスタンスは素晴らしいので、それが一概に悪いことだとは思いません。
ただアメリカでは、世代や年齢に関係なく、便利で合理的ならそれを使うという考え方が根強い。プライベートでAIを使っている人も多いから、仕事にも活用するという切り替えがスムーズなのかもしれません」
福原たまねぎさん(撮影/写真映像部・上田泰世)多すぎる「検品作業」はどうなる?
もう一つ、日本の職場のAI活用で懸念されるのが「精度」の問題だ。AIが生成したアウトプットは、結局は人間の手で調整する必要があり、かえって「検品作業」が増えるだけなのではないか?
これに対し、福原さんは2つの視点から見解を述べる。
「まず、日本では『資料づくり』に求められるレベルが高いという点があると思います。アメリカでは、クオリティよりもスピードを重視し、正しく伝わるなら7割の完成度でもいいから早くアウトプットしようという意識があります。これは文化的な許容度の差ですね。
もう一つ指摘できるのが、AIの成長スピードは本当に速いという点です。僕も正直、2024年の段階では、AIは『検品作業』が多すぎて使い物にならないと感じていました。しかし、検品にかかる時間はどんどん減っています。日本でも数ヶ月後には、今感じている不満の多くが解消されている可能性が高いと思います」
とはいえ現時点では、まだ社内で活用できるAIがないという人も多いだろう。個人アカウントでのAIの業務利用は「シャドーAI」とも呼ばれ、セキュリティの観点からリスクが指摘されている。そういう人は、AIを使うことはできないのだろうか。
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「会社の機密情報や個人情報などを一切入力しない、という大前提を守れば、公開されているAIも強力な武器になります。例えば競合他社の最新情報をリサーチさせたり、公表されているレポートなどをもとに市場動向を分析させたりする。情報収集は非常に大切な業務の一つですよね。ツールが未整備の環境でも、できることはあると思います」
また思考のパートナーとしての活用も有効だという。
「自分の職務での課題について、会社に関する情報を入れずに、AIと30分ほど“壁打ち”してみてください。自分一人では思いつかなかった視点やアイデアが得られます」
福原たまねぎさん(撮影/写真映像部・上田泰世)今後は、各企業が独自にカスタマイズした「社内特化AI」も主流になっていく、と福原さんは話す。
「僕の会社で使われているAIは、社内の膨大な数のドキュメントを学習しています。これが非常に強い。文体や構成など、我々の文脈に合った、"刺さる"アウトプットを生成してくれるからです」
「捨てる力」がないと「捨てられる」
それでも現在のAI活用は、まだ序章に過ぎないと福原さんは言う。文章生成やデータ整理といったタスクは、やがて当たり前になる。本当のゲームチェンジは、その先にある。
「やはりゲームチェンジャーは、『AIエージェント』(目的達成のために自律的に考え、実行するAI)でしょうね。たとえば、『来月1週間、ロサンゼルスに出張したい』と伝えるだけで、飛行機、ホテル、移動用の車などすべてを自動で手配してくれる。そうなれば、生産性は瞬く間に上がるでしょう。
AIの性能は黙っていても向上します。僕らは、自分たちが作り上げてきたシステムや使い続けてきた道具を捨て去ることに抵抗を感じてしまう。でも、今のやり方を『捨てる力』がなければ、自分が時代に『捨てられる』。そんな緊張感が、日本にはまだないように感じます」
(文/白石圭・朝日新聞出版書籍編集部)
<【後編】「AIを使うか、死ぬか」の残酷な現実 リーマン・ショック級"100万人超え人員削減"を引き起こした「アメリカの再構築」>へ続く
【プロフィール】福原たまねぎ/プロダクト・マネージャー。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、ベンチャー企業を経て、2016年、外資系IT企業の日本支社に入社。webプロデューサー、プロダクト・マネージャーを務め、22年、アメリカ本社に転籍。
■福原さんのnoteはこちら:https://note.com/fukuharatamanegi
■Xはこちら:https://x.com/fukutamanegi
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