横浜・山中市長に再び“落選運動”も 悪性リンパ腫でICU入院、完全寛解した郷原信郎弁護士「生かされた使命がある」
5年前の警告は、第三者調査で裏づけられたのか。山中竹春・横浜市長の言動がパワハラと認定された。山中市長が初当選した2021年の市長選で落選運動を展開した郷原信郎弁護士は、25年7月、悪性リンパ腫でICUへ緊急入院したが、今年4月に完全寛解した。「生かされたという使命がある」。再び“落選運動”にも挑むという郷原氏に、その真意を聞いた。
【写真】パワハラ認定後、山中竹春・横浜市長が報道陣に見せた表情
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実名告発の衝撃、192人が見聞きしたと回答
――郷原さんは17~21年、横浜市のコンプライアンス顧問を務めました。今年1月、久保田淳・人事部長(当時)が実名、顔出しで山中市長の言動を告発しました。横浜市政に関わってきた立場から、どう受け止めましたか。
現職の人事部長が実名、顔出しで告発したことには驚きましたし、よく思い切ったと思います。人事部長はハラスメント相談窓口の実務責任者です。公式ルートで内部通報しても、自分が受け付けることになる。まずは「週刊文春」を通じて外部に明らかにするしかなかった。それほど深刻だったということです。
――第三者調査の報告書は、山中市長が久保田さんとの会話などで職員を「ポンコツ」「ダチョウ」「おばさん」と呼んだほか、特定の幹部職員を事実上、市長室への「出禁」とした行為もパワハラと認定しました。市長の権限で相手を排除し、追い詰める構造をどう見ますか。
そうした言葉は相手に直接言ったものではなく、久保田さんとの会話で出たものです。他者をそう呼ぶのは、相手を見下して接しているからです。そのような言葉に本音が出るのです。幹部を市長室への「出入り禁止」として、報告すらできない状況に置いたのも、絶大な権力で相手の立場を奪い、プライドを傷つけ、じわじわと精神的に追い詰めるという狡猾な手段です。
――調査では、アンケートに回答した294人のうち192人が、パワハラと疑われる言動を見聞きしたと答えました。全職員と課長級以上の退職者向けの情報提供窓口にも244人から情報が寄せられ、150人がこうした言動を見聞きしたと回答しています。この結果をどう見ますか。
第三者調査で認定された事実は、久保田さんが告発した内容を中心とするものでした。それは山中市長がやってきたパワハラのごく一部、氷山の一角でしょう。さらに時間と労力をかけて調べれば、もっと出てくるはずです。
――業務上の指導が行き過ぎたケースとは違い、相手を追い詰めること自体が問題だと。
そうです。指導や叱責が行き過ぎて相手に心理的な負担を与えるパワハラというのは、どこの職場でも起き得るもので、本人の認識不足からくる、ある意味で“単純なパワハラ”です。しかし、山中市長のは違う。指導ではなく、「人を追い詰めるパワハラ」です。乱暴な言葉や、書類を机に投げつける行為だけでなく、人事権を振りかざして相手を追い詰める。まともに対話し、共感を得るマネジメント能力がないから、権限で押さえつけるしかない。認識を改め、気をつければ済む問題ではなく、本人のものの見方や、人との接し方、マネジメント能力に深く根差した問題だと思います。絶大な権力を持つ市長などにしてはいけない人間です。
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――山中市長は8月13日の市議会で謝罪し、「生まれ変われるよう、信頼を回復できるよう努力したい」と述べる一方、続投への意欲を示しました。
彼のパワハラ体質が簡単に直るとは思えません。「生まれ変わる」というけれど、人格や人との接し方までは変わらないでしょう。仮に、それができたとしたら別の人間が市長になるのと同じですから、市長選をやり直すのが当然です。
大学教授時代の言動問題から“失われた5年”へ
――21年の市長選前には、山中氏の横浜市立大学教授時代の言動をめぐり、複数の教職員が退職に追い込まれたとする証言が報じられました。郷原さんのもとにも大学関係者などから情報が寄せられ、落選運動の表明後には、パワハラ行為とされる音声データの提供を受け、公開しました。大学時代の問題と今回、市役所で認定されたパワハラには、どのような共通点がありますか。また、当時はどのように対応しましたか。
山中氏は、横浜市立大学時代にも、今回、市長としての言動で認定されたパワハラと同じように、立場や権限を使って相手を追い詰める陰湿なことをやっていました。市役所でも同じパワハラを繰り返したということです。 私はある週刊誌に情報提供したのですが、当時、立候補者の一人に過ぎなかった山中氏は知名度が低く、「売れない」と判断されたのか、記事にならなかった。あの時、私が入手した音声データが報道されていれば、流れは違ったかもしれません。
――山中氏は大学で医学部教授や大学院データサイエンス研究科長などを務め、データサイエンス教育の制度設計にも携わっていました。21年の市長選では「コロナの専門家」としてアピールし、初当選しました。コロナ研究者としての実績や能力を、郷原さんはどう評価していますか。
コロナに関しては、中和抗体などを調べる研究で、山中氏が研究開発代表者を務めました。臨床統計学の専門家としてデータ解析や研究の取りまとめを担い、関連論文の共著者にも名を連ねています。ただ、研究チームのなかで具体的にどこまで中心的な役割を果たしたのかは、外部からは分かりません。記者会見やテレビ出演で研究成果を発信し、知名度を高めたことが、市長選出馬の足掛かりになったというのが私の見方です。
――こうした情報を調べるなかで、山中氏が初当選した21年の市長選では、ご自身も立候補の意向を表明しながら出馬を取りやめ、落選運動へ転じました。なぜですか。
私は07年の中田宏・市長時代からコンプライアンス外部委員などを務め、横浜市政に関わってきました。21年の市長選では、当初、めぼしい候補者がいなかったため、私が一肌脱ぐしかないとも考えました。ところが、野党系候補として出馬を表明した山中氏について調べると、とんでもない人物だと分かった。横浜市立大学で彼をよく知る人たちから、「絶対に市長にしてはならない人物だ」という真剣な訴えが、私のところに届きました。「候補者同士は、相手候補を悪く言わない」という日本の選挙の慣例の下では、立候補するより、落選運動で山中氏の適格性を横浜市民に訴える方が効果的だと思いました。立候補の意思は撤回して「落選運動」に転じ、パワハラ問題以外にも、経歴詐称疑惑や、出馬表明をめぐって大学理事長らに不当な要求をしたとされる問題を訴えました。
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――山中氏は21年、立憲民主党の推薦と共産、社民両党の支援を受けて初当選しました。25年8月には、自民、公明、立憲民主各党の地方組織の支援を受けて再選。今年7月30日には、郷原さんが21年から指摘してきた問題と重なる言動が第三者調査でも認定されました。警告はなぜ届かなかったのでしょうか。
今回明らかになった山中市長のパワハラは、横浜市立大学時代の山中氏について市大関係者が訴えていた話と全く同じです。山中氏が市長に初当選し、再選まで果たした背景には、地方自治制度の下でメディアが、強大な権限を持つ市長への監視機能を全く果たしていない現実がある。21年の落選運動をメディアがまともに取り上げていれば、山中氏が不適任だと市民も分かったはずです。しかし、メディアは、候補者について重大な問題が指摘されていても、説明責任を求めようとしない。山中氏の市長就任後も、私が落選運動で指摘した問題は、定例会見でフリー記者が追及していましたが、市政クラブ記者は全く反応しなかった。それが横浜市の「失われた5年」を招いたんです。
ICUの病床から立候補予定者へ
――25年8月の横浜市長選を前に、郷原さんは6月、市内で講演しました。市役所内で深刻化しているとみた山中市長のパワハラ問題を指摘し、再選阻止を訴えました。その後、体調が悪化し、7月15日にICUへ緊急入院しました。18日には、入院前から作成を進めていた「横浜市特別コンプライアンス条例案」を事務所を通じて公表し、立候補予定者へ送りました。緊急入院という状況のなかで、なぜ条例案を公表し、立候補予定者へ働きかけたのですか。
悪性リンパ腫の疑いがあると診断された7月9日の時点で、横浜市長選に関して何かしなければという思いは強まるばかりでした。そこで、市長ら特別職による職員へのハラスメントや不当要求を調べる独立した窓口を設け、コンプライアンス特別顧問に調査権限を与える私案を考えました。横浜市のコンプライアンス顧問当時、補佐役だった事務所の調査室長に構想を説明し、「横浜市特別コンプライアンス条例案」を完成させてもらいました。条例案の公表と立候補者への送付を指示した直後に私は緊急入院し、その3日後の18日に条例案を、山中市長を含め、全立候補予定者へ送り、条例案を公約に取り入れるかどうか、検討を求めたんです。反応を示したのは作家の田中康夫氏だけでした。
――今年4月2日、郷原さんは「完全寛解」と診断されました。この回復をどう受け止めていますか。
奇跡の回復と言われています。抗がん剤がよく効き、昨年12月に最後の点滴を終えました。今年3月末のPET-CT検査でリンパ腫が見られず、主治医から「完全寛解」と診断されました。現在は3カ月に1回の診察で経過を観察しています。
神様から「まだお前がやらなくちゃいけないことがある」と生かされたのだと思っています。
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――山中市長は8月26日現在、辞職を表明していません。28日の後援会会合で支援者の意見を聞いたうえで、進退を判断する見通しです。今後をどう予想しますか。
彼は諦めていないと思います。何が何でも市長の椅子にしがみつくはずです。
パワハラ認定を「受け入れる」と言いながら、「市民目線を欠く職員」への指導だったとの当初の説明を、根本的には変えていないように私には見えます。言い方が悪く、相手を傷つけた点は反省するという説明にとどまっています。辞職に追い込まれても、出直し市長選に出て、「市民のためにやった。もう一度やらせてください」と訴えるためではないかと見ています。
――兵庫県の斎藤元彦知事は、パワハラ疑惑や告発文書への対応をめぐって県議会の不信任決議を受けて失職し、24年11月の知事選で再選されました。その後、25年3月には第三者委員会が10件のパワハラを認定しました。こうした例もあるなか、山中市長が辞職または失職し、出直し市長選に立候補した場合、再選の可能性をどう見ますか。また、郷原さんはどうしますか。
山中市長について認定されたパワハラは、市長としての権限を振りかざした悪質なもので、市職員との信頼関係は著しく損なわれており、続投はあり得ません。25年の市長選では、自民、公明、立憲民主各党の地方組織が支援しました。しかし、横浜市議会の自民、公明、立憲民主の3会派は今年8月14日、山中市長に辞職を求めました。出直し市長選に出馬しても、支持する政党はないでしょう。
それでも油断はできない。政党が有力候補を立てられず、候補者が乱立すれば、市長を務めたことによる知名度を生かし、再選される可能性もないとは言えません。
私には、生かされたという使命がある。もし、山中市長が出直し市長選に立候補する状況になったら、再び「落選運動」をやります。万が一、当選する可能性が出てきたら、私が許しません。
(聞き手・構成/AERA編集部・上田耕司)
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