拘禁刑は「甘やかし」なのか 北の「農場」で見た近未来の刑務所
雪が残る雄大な日高山脈を遠くに望む畑の一角で5月初旬、緑色の作業着に長靴を履いた男性6人が農作業に励んでいた。
「芋の向きはこれでいいですか?」
手順を確認しながら、等間隔で種芋を土に落としていく。
何の変哲もない農作業の光景は、6人の手首に目を向けると事情が変わる。逃走防止用のGPS(全地球測位システム)が付けられていた。
<主な内容> ・野菜作りで責任感 ・服役9回、懲役は「ロボット」
・刑事政策の大転換
「野菜担任」自主的に
北海道帯広市にある約6万8000平方メートルの農場は、帯広刑務所から5分ほどの場所にある。
カボチャや小豆が栽培され、この日はジャガイモが植え付けられていた。作業に当たるのは受刑者たちだ。
「自分で選んだ野菜を作ることでモチベーションが上がる」。30代の受刑者は帯広が3回目の刑務所生活となる。
これまでは工場での刑務作業をこなしてきたが、農作業に取り組むのは初めてだ。
野菜の知識を学び、栽培計画も自ら立て、植え付けから収穫までに責任を持つ。
「野菜担任制」と呼ばれる仕組みで、受刑者の自主性を促すことに主眼が置かれる。
この受刑者は計画性がない生活を続けては金に困ると盗みを繰り返してきたが、「根本から間違えている面があったのではないか」と感じるようになったという。
「かんごくマルシェ」で販売も
帯広刑務所が刑務作業の一環として「農業モデル」を始めたのは2019年度。農場には高さ1メートルの柵があるだけ。
高さ4・5メートルの塀に囲まれている刑務所とは対照的だ。できるだけ社会に近い開放的な環境での実習を通じ、農業の知識や技術を身に付けて出所後の就農を目指す。
農業モデルは誰もが参加できるわけではなく、一定の条件下で選抜して3段階に分けて処遇する。
まず、農業用機械の操作方法や対人関係のスキルを学ぶ講義を受ける。
次に刑務所内の畑で野菜の栽培に取り組み、トラクターなどの大型特殊自動車免許の取得もできる。
それぞれの段階で3~4カ月ほどかけて適性を見極め、最終的に刑務所の外にある農場での作業や近隣農家の収穫の手伝いへと至る。
さらに、収穫した野菜を週1回、「かんごくマルシェ」と名付けて地元のスーパーで販売。売り上げや買い物客の反応も受刑者側に伝えられる。
「出荷して全部売れたと聞くと、誰かのためにな…