「勉強しなさい!」は子供への「虐待」か 大人になった中学受験生の回答は 桜井信一の攻める中学受験
毎日自習室で質問対応をしていると、とても不思議に思うのです。「この子たちは、これまでわからない問題をどうしていたのだろう」と。
たまに聞いてみるのですが、塾の先生は結構忙しいという。質問ができる塾もあるようなのです。でも、それが1ページに2問3問となると、先生も対応できないでしょう。
1つしか解決しないのなら、あんまり意味ないか……ということで家に持ち帰っているようなのです。そこには解説冊子か親しかいない。どちらも本人にとっては解決策になっていないのです。
解説を読んで理解できるくらいならとっくに出来るようになっているだろうし、親に聞いて理解できるならそれもとっくにそうしているでしょう。
結局、放置しかないのです。だからといって、「もっと子どもと一緒に勉強してあげてください。勉強を見てあげてください」というのも危険なのです。
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だから父さんも一緒にやってみる
ときに親は暴走することがあるからです。私の本が出版されたときに、「Mr,サンデー」という番組で本が紹介されました。そのとき、再現ドラマのようなものが流れたのです。
それが終わったあと、MCの宮根誠司さんが「これは世のお父さんたち真似しますよ」と前向きな発言をしたのですが、逆にコメンテーターの男性が「これを真似るのは危険でしょう。ひとつ間違えれば……」というニュアンスの言葉を発しました。
「ほらきた!」と思いましたね。「また虐待とでも言うんでしょ。そんなねぇ、薄っぺらい決意じゃないのよ、俺たちは」なんて画面の向こうに向けて言い返しました。
でも、現実は半分当たっているかもしれない。ただ、覚悟がない親もいるかもしれない。親は子どもの将来を考えて「いま頑張らなくてどうするの? あなたのためなのよ! 勉強は大事なの! サッカーでは生活できないのよ!」と言う。
確かに、言っていることは間違っていないでしょう。
私も当時娘に同じことを言いました。「スポーツや芸術、音楽は現実的じゃない。確率が悪すぎる。狙うに値しない」
その先がポイントなのです。「だから勉強しなさい」と続けてしまうと、これは抑えつけてしまうことになる。
「だから一緒にやってみようぜ。父さんも一緒にやってみるよ。もしこりゃとても無理だと判断したら一緒に諦めようぜ。父さんはこういう攻略系が得意なんだ」
そう言って登頂を始めました。本当にテキトーなやつ。攻略系が得意なら自分の人生をとっくに攻略しているはず。それができてないのによく言うよ……心の中でそう思っていました。
確かに大人の方が世間を知っている、こうした方がいいという考えも多分正解でしょう。まだ世の中のことを知らない小学生のその場しのぎの考えを尊重するなんて馬鹿げている。そこで、大人になった娘の書いたエッセイを読んでほしいと思います。
皆さんはどんな感想をお持ちになるでしょうか。
あのとき父が私の意見を尊重していたら
≪子どもの権利と下剋上受験≫
子どもが自分の意見や気持ちを表明できるように支え、その声を大人や社会に届ける「意見表明支援」活動である子どもアドボカシーの資格を取る上で、私は「子どもの権利」に改めて向き合うことになった。
子どもの置かれた状況には、国家・社会との権力関係、大人との権力関係にさらされて生きているという特殊性と、子どもは発達途上の存在で「守られる存在」「導かれる存在」として位置付けられやすく、「よき大人」にその人生を奪われかねないという特殊性がある。
そのため、子どもに固有の「人権」を保障するために、子どもの権利条約4原則が必要となるのだ。
親というものは、「この子を守らなければ」という気持ちから、「お前にとっては、これが一番いいに決まっている」と決めつけ、子どもを叱りつける。けれど、「この子のために」と思って発した言葉が、いつの間にか子どもの声を覆い隠してしまうこともある。
この塩梅がなんとも難しいのである。
ふと思い返せば、私も中学受験の疲れから小学6年生の時に一度だけ、「受験をやめてバトンを習いたい」と父に言ったことがある。
もちろん1年間一度も休むことなく、二人三脚で一発逆転を狙って頑張ってきたのだから、ひどく叱られた。
『子どもの意見の尊重』に、子どもは自身に関係ある事柄について自由に意見を表すことができ、大人はその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮するとある。
父の行動は、もしかしたらこの権利を侵害していたのかもしれない。
もし、あの時父が私の意見を尊重して「いいよ、好きなように生きなさい」と言っていたら、私はどういう人生を歩んでいたのだろうか。
少なくとも、医師の道には進んでいなかっただろう。今とは違い、自分の人生に満足できず、「あの時まだ子どもの私の意見を尊重したからこうなったんだ」と父を恨んでいたかもしれない。なんとも他責思考だが、その世界線もありえたような気がしてならない。
今でこそ父には最大限の感謝をしているが、自身の人生を振り返ると、子どもの未来というのは危なっかしいなと、考えさせられた。
桜井佳織
筆者紹介
桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬渕教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。