参議院選挙:九州・山口の1人区、自民は「牙城」のはずが…逆風続きに農相更迭が追い打ちで戦々恐々 : 読売新聞

 夏の参院選は、有力視されている公示日(7月3日)まで残り1か月あまりとなった。九州・山口の改選定数1の「1人区」では、3年前の前回選で自民党が全議席を獲得するなど、「牙城」とされてきた。しかし、「政治とカネ」の問題などで自民が大敗した昨秋の衆院選以降も、石破内閣の支持率は低迷。「令和の米騒動」を巡る対応や農相の更迭など逆風は収まらず、自民関係者の間に危機感が広がっている。一方、野党側は議席の確保を目指し、攻勢を強めている。(波多江航、小園雅寛、小林未南)

「大変厳しい選挙になる」

 「農業を守らないといけない機運が高まっている。食卓をしっかりと守ることに取り組んでいく」。1日、宮崎市で開かれた立憲民主党衆院議員の集会で、宮崎選挙区に出馬を予定している同党新人の山内佳菜子氏(44)は支援者に訴えた。

 農畜産業が盛んで、保守地盤が厚いとされる宮崎県だが、県都・宮崎市を含む衆院の選挙区では2021年と24年に立民候補が自民候補を破った。地元紙の記者から政治家に転身した山内氏も23年の県議選宮崎市選挙区でトップ当選した。

 22年の参院選で候補を立て、立民と競合した国民民主党も今回は擁立を見送り、社民党や連合宮崎も協力して候補を一本化。野党県連幹部は「期待の若手県議を擁立し、立民の本気度がうかがえる人選」とする。

自民党宮崎県連の定期大会で農相更迭について謝罪する江藤前農相(5月24日、宮崎市内で)

 敵失による追い風も吹く。米価が高騰し、国民の生活に影響が出る中、地元選出で農相を務めていた江藤拓氏が「コメは買ったことがない」などと発言し、更迭された。「『売るほどある』は、宮崎弁的な言い方」などと釈明し、県内の有権者の不評を買った。立民県連幹部は「県民の気持ちを逆なでする発言で影響はある」とみる。

 これに対し、県内で人口が2番目に多い都城市の市長から国政に転じ、過去2回の選挙では圧勝した自民現職の長峯誠氏(55)は焦りを募らせる。「選挙が迫り、はっきり言って怖い」。5月24日、宮崎市で開かれた党県連大会でのあいさつでは、そう口にした。

 旧安倍派に所属し、政治資金収支報告書の不記載で謝罪に追われた。そして、今回の江藤氏の「更迭劇」が追い打ちをかける。党県連幹部は「党自体への批判が大きすぎる」とため息を漏らす。

 JAグループ宮崎の政治団体、県農民連盟は同月28日、長峯氏の推薦を決めた。連盟の栗原俊朗委員長は「自民党に対して色々な不満が出ており、大変厳しい選挙になる」と述べた。

 長峯氏は同月31日、地元・都城市でJA関係者らの前でマイクを握った。政府備蓄米の随意契約による放出など小泉農相に交代して急激に変化する状況に戸惑う農家らに、国政の場で対応していくことを約束した。

 宮崎選挙区では、参政党新人の滋井邦晃氏(42)も立候補を予定している。

自民重鎮の娘が対立候補に

九州・山口の1人区の立候補予定者の状況

 鹿児島選挙区では、自民党前議員の園田修光氏(68)と無所属新人で立憲民主党の支援を受ける尾辻朋実氏(44)が激しい前哨戦を繰り広げている。尾辻氏は今期で引退する自民の秀久前参院議長(84)の三女で、保守票の取り込みも狙う。自民は昨秋の衆院選で鹿児島県内でも現職農相が落選するなどしており、危機感を強めている。

 尾辻氏は秀久氏の後任を決める自民の公募で敗れた後、候補者擁立が難航していた立民県連幹部から声をかけられて入党し、立候補を表明した。立民は「公認候補並みの支援体制」(大串博志党代表代行)をとり、4月以降、党幹部が相次いで来援している。

 鹿児島市で5月25日にあった事務所開きには立民、社民党、連合鹿児島の関係者のほか、秀久氏を支援してきた元自民県議らも駆け付けた。尾辻氏は「超党派を活動の軸としてきた父も見ることのできなかった景色を見ながら歩んでいる。政治は変えられないと諦めることは終わりにしたい」と訴えた。

 党重鎮の娘が対立候補となり、自民関係者は戸惑いを隠さない。鹿児島選挙区が現在の定数となった01年以降、自民が議席を独占しており、森山幹事長(衆院鹿児島4区)は「鹿児島らしくない選挙になる」と厳しい表情で語る。同党の県議は「自民を出て立民に入った相手(尾辻氏)を勝たせるわけにはいかない」と語気を強める。

 園田氏は支持団体へのあいさつ回りなどを通じ、組織票固めに奔走する。5月17日には同県屋久島町での集会に出席し、「政権が交代すると都会重視の政策になる。自民は地方を守る政党だ」と支持を求めた。

 同選挙区では、共産党新人の松崎真琴氏(67)と参政党新人の牧野俊一氏(39)も立候補を表明している。

前回22年は自民「全勝」

 保守地盤が厚いとされる九州・山口の1人区だが、民主党が参院の第1党となった2007年は、佐賀、長崎、熊本で民主が議席を獲得し、宮崎でも無所属候補が自民現職を破った。

九州・山口の1人区での当選者(政党)の推移

 民主党政権下で行われた10年は、大分以外で自民が勝利した。自民が政権に復帰後は同党が議席を獲得するケースが目立ち、13年と22年は全7選挙区を独占した。

 選挙区別では07年以降、自民は鹿児島のほか、山口でも全て勝利してきた。一方、大分では自民と非自民が議席を奪い合ってきた。

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