カナダ国営放送、政府はグリペンとF
カナダ国営放送のCBCは6日「政府は72機のグリペン購入を模索しているが、グリペン導入を進める場合であっても72機から88機のF-35調達を視野に入れている。カナダ政府が検討しているF-35とグリペンの混成戦力が140機体制になる可能性は十分にある」と報じた。
参考:Ottawa’s mixed fleet of F-35s and Gripens could total more than 100 aircraft, sources say
カナダと米国の二国間関係はトランプ政権のカナダ併合発言や関税問題の影響を受けて大幅に悪化し、New York Times、Defense News、War Zoneなどは「トランプ大統領の併合発言に執着するのではなく取引に集中すべきだ」「どうせトランプ大統領が脅しをかけてきたとしても冗談半分なのだから」「オタワとワシントンの関係がどうであれ装備品調達から米国製を排除するのは賢明ではない」と訴え、F-35A契約の維持や早期警戒機入札へのボーイング参加について楽観視していた。
出典:Mark Carney
しかし、カナダのカーニー首相は「防衛と安全保障上の優先事項」に関する演説の中で「米国の優位性は過去のもの」「現在の米国は覇権的地位を金銭獲得のため利用している」「安全保障分野への追加投資は国内産業を強化して米防衛産業への支払いを少なくすること」「カナダは欧州再軍備計画に参加する」と発言したため、米メディアは「防衛産業がカナダ市場へのアクセスを本当に失うかもしれない」と危惧、ダボス会議での演説でも「もう米国が掲げる秩序やスローガンを支持するのをやめる」と言及して蜜月関係の終焉を宣言。
カナダ政府は2月に発表した防衛産業戦略の中でも「カナダには米国と密接に協力してきた長い歴史があり、今後も強固な米加防衛関係の継続を期待している」と前置きした上で「重要な防衛能力のカナダ化のため国内サプライヤーからの購入を優先する」「共通の目的のためパートナーシップを構築する」「カナダは信頼できる同盟国や多国籍企業との提携を追求して必要な能力を確保する」と言及し、防衛産業協力や装備品調達における米国依存をやめて欧州やインド太平洋地域のパートナーと協力すると打ち出してきた。
出典:The White House
これは「米国と手を切る」という意味ではなく「もう米国への盲目的な追従をやめる」「カナダの国益に合致すると判断された場合のみ協力する」「今後の米国は絶対的ではなく数ある選択肢の中の1つ」となり、トランプ大統領が再三要求するゴールデン・ドーム参加について「カナダの国益に合致するなら参加する」という立場で、この国益とは軍事的合理性のことだけではないため「ゴールデン・ドームはカナダの安全保障に役立つから参加すべき」というのは野暮だ。
F-35A契約の維持や早期警戒機入札へのボーイング参加についても同様で、カーニー首相は5月27日「サーブとグローバルアイ購入に向けた交渉に入った」と明かし、E-7採用を期待していた米防衛産業を落胆させたが、カナダメディアのLa Presseは30日「オタワの政界で最大の関心事は『カーニー首相がロッキード・マーティンのF-35A×88機の調達計画を縮小し、代わりにサーブのグリペンを導入してハイ・ローミックスの戦闘機戦力を構築する決断を下すか否か』という点である」「関係筋は水面下で戦闘機調達に関する決断は事実上決定されている」と報じた。
出典:Saab
カナダは2023年にF-35Aを88機取得する計画を発表し、既に16機分の契約を締結して資金供給を開始しているものの、残り72機分の商業契約が未締結なので「計画された88機取得」には法的強制力はなく「予定通りF-35Aを導入して米国に大きな影響力の行使を許すのか」「F-35Aとグリペンとの2機種体制にして米国の影響力を引き下げるのか」を検討中で、カーニー政権の閣僚らは公の場で「ロッキード・マーティンが契約全体を維持したいのであれば、カナダ国内への投資=オフセット内容を拡大しなければならない」と言及。
メラニー・ジョリー産業相は最近「F-35導入はカナダに対する産業的波及効果が不十分だ」「それ以上でもそれ以下でもない」「我々の目的は国内での雇用創出だ」と述べ、サーブはグリペンを採用した場合「カナダ向け需要とウクライナ向け需要の一部をカナダ国内で製造できる」「これにより約9,000人の新規雇用が創出され重要な防衛分野のサプライチェーン強化が期待できる」と提案し、La Presseは「政府はF-35A×約30機とグリペン×約60機を導入する折衷案を検討しており、残る懸案事項はこれを発表する最適なタイミングの政治的判断で、米国の中間選挙後に決定が下される可能性が高い」と報じた。
出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee
カナダ国営放送のCBCも6日「カナダ政府が検討しているF-35とグリペンの混成戦力は100機を超える可能性がある」「最近発表されたグローバルアイ購入計画もグリペン調達計画での提携交渉における第一歩だった」と報じ、カナダ政府は「トランプ関税でダメージを受けた国内産業を軍事支出によって後押ししなければならない」と考えている。軍は軍事的合理性だけで判断するため、政府の強硬姿勢=グローバルアイ購入計画に懸念を抱く者もいるらしい。
“複数の情報筋によれば政府は72機のグリペン購入を模索しており、これが実現すれば最大9,000人の雇用を創出し、カナダ最大の防衛産業プロジェクトになるという。同時にグリペン導入を進める場合であっても、政府は72機から88機のF-35調達を視野に入れているという。サーブはカナダ国内でのグリペン製造に向けた事業計画を修正し続けており、特にグローバルアイ生産のために構築されるサプライチェーンを活用する方針だという。サーブとカナダ政府間の協議に詳しい情報筋は「140機体制の戦力規模になる可能性は十分にある」と述べている”
出典:The White House
“政府内では「戦闘機調達に関する決定はカーニー首相の専権事項で、米国・メキシコ・カナダ協定(CUSMA)更新交渉の一環としてF-35調達契約を外交カードとして利用する可能性がある」という見方が大勢を占めており、グリペン取得の可能性とグローバルアイ取得の動きにはいくつかの類似点が存在する。どちらのケースでも主要なセールスポイントはカナダ軍だけでなく同盟国でも使用される航空機を国内で生産できるという点だ。それでもグローバルアイ購入計画は軍内部からの反発に直面している”
“政府関係者はグローバルアイ購入計画について「空軍内部ではいくらかの抵抗がある」と語り、業界関係者も「軍はグローバルアイが入手可能な早期警戒機の中で最適な選択肢ではないと考えている」と指摘している。政府は早期警戒機に対する軍の要求要件を公開していない。それでも元空軍副司令官のコリン・キーバー氏は「軍が求めているのは360度のレーダー探知能力を備え、急旋回中も完全な作戦能力を維持し、空中給油が可能な早期警戒機だ」「現在、実戦運用されているバージョンのグローバルアイにはこれらの能力が一つも備わっていない」と指摘する”
出典:L3Harris
“キーバー氏は退役軍人や政府元高官などで構成されるCFNコンサルタンツでロビイストとして働いており、サーブと競合関係にあるロッキード・マーティンやL3テクノロジーズ・カナダ(カナダが調達する早期警戒機候補に挙がっていたエアリスXの供給企業)といった企業とビジネス上の関係がある”
“逆にサーブは「カナダ軍の要求要件を十分に承知しており、それに応える準備ができている。グローバルアイのセンサーは全体的に360度をカバーできるものの、機体上部に搭載されたメインレーダーの探知範囲は300度にとどまる。顧客からの要望があれば前方監視レーダーと後方監視レーダーを搭載できるオプションがあり、空中給油についても同様に対応可能だ」と述べている”
出典:SAAB
“政府関係者は大規模な装備調達計画において3つの目標(カナダ軍のニーズを満たす、地政学的な同盟関係の多様化、産業部門の保護)を達成したいと考えており、カナダはNATO基準でGDP比2.0%の国防支出を昨年達成し、2020年代末までに国防支出をGDP比4.0%まで引き上げることを目指している。カーニー首相もグローバルアイ購入計画を発表した際「我々は単にチェックボックスを埋めるだけの規制的なアプローチから、スピードと規模感をもって防衛産業基盤を構築するアプローチへと移行しつつある」と語った”
“サーブは高まる軍用機需要を満たすための国内製造能力が不足しており、カナダの関心はサーブにとってこれ以上ない完璧なタイミングでもたらされた。業界関係者によるとNATOは7月上旬にグローバルアイをE-3の後継として採用したと公式に発表する可能性があり、もしカナダが先手を打ってグローバルアイ生産パートナーとして名乗りを上げていなかったら、サーブは(NATO採用を追い風にして)欧州内で別の共同生産パートナーを簡単に見つけていたはずだ。同様にカナダが「自国向けとウクライナ向けのグリペンを生産する国内工場設立」を要求するなら、カナダもグリペンE取得を確約しなければならなくなるだろう”
出典:Lockheed Martin
カナダのF-35A調達見直しは軍事的合理性ではなく「政治的要求に基づく同盟関係の多様化」に基づいており、F-35AとグリペンE/Fのスペックを比較して「どちらが強いか」ではなく「カナダが想定する有事の際に外交・安全保障上の主権=独自の選択肢を確保する」を念頭に判断が下され、カナダは2月に発表した防衛産業戦略の中でもBUILD(国内の防衛産業構築)、PARTNER(共通目的のためパートナーシップ)、BUY(海外サプライヤーからの直接調達に対する主権的統制リスクの軽減措置)で構成された方針を打ち出している。
要するに「自国の防衛産業基盤を構築して国内サプライヤーからの購入を優先し、同盟国や多国籍企業とのパートナーシップを通じて回復力の充実やグローバル・サプライチェーンにおけるカナダの役割を強化し、この方法で入手不可能なものについては海外サプライヤーからの直接調達を行うものの、主権的統制に対するリスク軽減措置(ブラックボックス化の回避)を講じ、契約額と同等=100%のオフセット取引を義務づけるITB政策の履行方法(実質的なカナダ国内への投資)についても改善する」という内容だ。
出典:Canadian Armed Forces
さらに防衛産業戦略は「10年以内に防衛契約の70%(現在は43%)をカナダ企業に発注し、防衛輸出を50%増加させ、2035年までに12.5万人の雇用を新たに創出する」「人員増、新しい装備への交換、スペアパーツの調達や改良を通じて艦艇の稼働率を68%→75%、車両の稼働率を51%→80%、航空機の稼働率を42%→85%に引き上げる」「今後10年間で1,800億加ドル=約20兆円を装備調達に、2,900億加ドル=約32兆円を防衛・安全保障関連インフラに投資する」「これらの投資による波及的な経済効果は1,250億加ドルに達し、全体で5,000億加ドルを超える投資が行われる」と説明している。
カナダのGDPは2030年までに3.6兆〜3.8兆加ドル規模に到達すると予測されているため、2030年に国防支出がGDP比4.0%に到達すると約1,400億加ドル〜1,500億加ドル=16兆円~17兆円規模となり、現在の日本が支出している防衛費(NATO基準で1.6%~1.7%)を大きく凌駕するため、グリペンE×72機とF-35A×72機~88機で構成された航空戦力140機規模への資金供給は理屈的に可能だ。
出典:SAAB
これを「そんなことは不可能だ」「そんなに国防費を上げられるわけがない」「日本のように国防費増額要求をのらりくらりかわしてやり過ごすのが賢い方法だ」と考えるのは個人の自由だが、不可能だと思われた3.5%を達成した国、達成に向けた道筋を明確にする国は徐々に増えており、トランプ大統領が退任しても「元の世界に戻る」と予想するアナリストもほとんどおらず、トランプ大統領は最近も禁止されている3期目について口にしている。
欧州地域でもインド太平洋地域でも安全保障環境はダイナミックに変化し続けているため、何が正解かを予測するのも困難な時代だが、個人的にはウクライナ戦争の終結やトランプ大統領の退任で世界が元の状態=2022年以前の世界に戻るとは到底思えない。
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※アイキャッチ画像の出典:SAAB