「何とか助けよう」と入水したら深みに 河川での相次ぐ救助死と〝飛び込まない勇気〟

女子中学生2人と救助に入った男性が溺れる事故があった旭川の現場周辺=6月11日午後、岡山市北区

溺れた人を救助しようと川に入り、命を落とす救助死が後を絶たない。6月には岡山市で、女子中学生を助けようとした男性が亡くなった。流れや深さが急激に変化する川には危険な場所が多く、専門的な知識がないと救助するのは極めて難しい。1人が深みにはまると、一緒にいた人が次々に溺れる「後追い沈水」のリスクもある。夏は水難事故が増える時期。専門家は「溺れている人を見つけても飛び込まない勇気を持つことも大切だ」と呼びかけている。

岡山市の事故は6月11日夕、一級河川の旭川で発生。遊んでいた中学2年の女子生徒2人が流され、発見した通行人の男性(69)が救助しようと川に入った。1人を川岸に引き上げたが、もう1人も助けようとして流されたという。男性と女子生徒1人が死亡。岡山県警によると、女子生徒が溺れたのは水深約3メートルの場所だったという。

こうした救助死は過去にも起きている。大阪府茨木市で平成24年、川遊びをしていた小中学生が流され、ジョギングで通りかかった男性会社員(34)が川に飛び込んだ。小学生は助かったものの中学生と男性は死亡。令和3年には兵庫県たつの市で、川で溺れていた女児を助けようとした男性=当時(73)=が命を落とした。

福岡県宮若市では5年、夏休みに川遊びをしていた小学6年の女子児童3人が溺れて死亡。1人目が川などの深みにはまった後、真後ろにいる2人目、3人目が同じように足を踏み入れ、溺れてしまう「後追い沈水」の可能性が指摘されている。

穏やかな流れは危険

溺れている人を助けたい-。その思いは否定されるべきではないが、水難学会理事で長岡技術科学大大学院の斎藤秀俊教授は「人が溺れている危険な場所は、助けようとする人にとっても危険な場所に変わりはない。『何とか助けよう』と深さを確認せずに入水してしまうことでさらなる事故につながる」と指摘する。

斎藤氏は川の危険性を生じさせる要因として、「洗掘(せんくつ)」と呼ばれる現象を挙げる。雨で水かさが増し、流れが激しくなることで川底が深く削られるというもので、大きな岩の近くや落差がある場所で起きやすい。水が引いた後に近づくと、普段は浅いはずの川底が深くなっており、その深みにはまって溺れる例が多いという。

川底の深さは水流と関係している。河川での水難事故を研究する公益財団法人「河川財団」によると、川では水の流れが速い場所は水深が浅く、流れが緩やかなほど水深が深くなる傾向にある。緩やかな流れの見た目に油断すると、深みにはまってしまう危険がある。

「浮いて待て」が命を守る

水難事故が起きたらどうすべきなのか。

水中での救助活動には着衣のまま浮き具なしに体をコントロールする必要があり、体力や泳力に加え、高い救助の専門知識が求められる。斎藤氏は水難救助員の指導にも携わるが、講習を受けて「最高級の技術」を身に付けて初めて救助できるようになるといい、そうした訓練を積んでいない人は「決して飛び込まず、救助に行かない勇気を持つことも大事だ」と訴える。

斎藤氏が強調するのは「浮いて待て」の考え方だ。呼吸を確保することで生存率が高まるといい、溺れている人を見つけたときは浮き具として使える空のペットボトルを投げ込むなどし、自身が溺れたときは、手を大の字に広げて浮きやすい状況を作ることが重要だと呼びかける。

その上で、まず溺れないように「自分が遊ぶ川はどのような川なのか、その構造を知ることが大切だ」と話している。(木下倫太朗)

令和6年夏の水難事故488件、242人が死亡 半数は海、状況別では「水遊び」がトップ

関連記事: