大麻の喫煙と食用摂取で心血管疾患のリスク増。思ったよりも安全じゃない説が浮上

Image: Ozun Cagan Altun / Shutterstock

ちょっと雲行きが怪しくなってきましたね…。

健康リスクがほとんどないということで全米レベルの合法化に向かって着実に進んでいる感があった大麻ですが、新たな研究によって、慢性的な大麻使用と心血管疾患のリスク増加との驚くべき関連性が明らかになりました。

大麻を喫煙するか、食用品として摂取するかにかかわらず、関連性が見られたそうです。多くの人が「THC(テトラヒドロカンナビノール: 大麻の主な精神作用の成分)にはそこまで害がない」と認識していて、特に食べる場合は安心だと考えがちなのですが、どうやらそう簡単な話ではないようです。

THCと心血管疾患リスクに驚きの関連性

2025年5月28日にカリフォルニア大学サンフランシスコ校(以下UCSF)の研究チームが医学誌JAMA Cardiologyに発表した研究結果によると、大麻の主成分であるTHCを吸っている人は、そうじゃないに比べて動脈機能の低下が著しかったといいます。

グミやお菓子などでTHCを摂取する人にも似たような影響が見られたそうですが、血管へのダメージはやや軽めだったとのこと。とはいえ、どちらのケースでも血管の機能は非使用者の約半分まで落ちていたと研究チームは声明で述べています。

UCSFの心臓血管研究者であるマット・スプリンガー氏は、データを見たときに、同校の医師で主執筆者のレイラ・モハマディ氏に対し、「科学的には、このTHCの結果は大変興味深いけど、これでは公衆衛生のメッセージを混乱させてしまいますね」と話したそう。大麻は安全なはずでしたものね。

心臓発作や脳卒中のリスクも増加

今回の結果は、大麻を長く使い続けることで心臓や血管がダメージを受け、心臓発作や脳卒中といった命に関わる症状につながる可能性があるという見方を裏づける新たな証拠になったそう。

ただし、こうした影響がどこまで深刻なのかについては、まだ専門家の間でも意見が一致していないみたいです。ちなみに、2024年にJournal of the American Heart Associationに掲載された別の研究では、大麻を毎日摂取している人は、摂取しない人と比較して心臓発作のリスクが25%脳卒中のリスクが42%増加することが示されました。

今回の研究では、大麻が血管の働きに与える影響を調査しました。研究チームは、慢性的な大麻使用の影響を特定するため、ニコチンを一切摂取せず、受動喫煙にも頻繁にさらされていない18歳から50歳までの健康な成人55人を募集しました。

喫煙者と食用摂取で血管拡張機能が大幅に低下

参加者は、大麻喫煙者大麻入り食品摂取者非使用者の3グループに分類されました。大麻を使用する2グループの参加者は、いずれも喫煙か食用のどちらかの方法で、週に3回以上は大麻を摂取していると報告していました。

研究チームは、上腕動脈の拡張能力を測定することで、各参加者の血管機能を評価しました。この検査では、上腕に拡張式の腕帯を巻いて一時的に血流を遮断し、その前後の動脈の直径を超音波で測定しました。

今回の研究を率いたスプリンガー氏は、Live Scienceの取材に対し、この検査は「未来をのぞく窓のようなもの」と話しています。血管が完全に拡張できない場合、心臓発作やその他の心血管系の疾患のリスクが高まるとのこと。

大麻を使用していない参加者における血管拡張(動脈の直径の基準値からの変化率)の平均値は10.4%でした。この値は、大麻を吸ったグループと大麻入り食品を摂取したグループで有意に低下し、それぞれ平均6.0%4.6%でした。

ちなみに、健康な人の上腕動脈の拡張率は、平均で8.0%から15%の範囲なのだそう。なお、スプリンガー氏の研究チームが以前に行なった別の研究でも、電子タバコや紙巻きタバコを吸っている人にも、同様に血管拡張の低下が見られたと報告しています。

THCの血管への影響

THCがこの変化を引き起こすメカニズムをより深く理解するため、研究チームは、血管の内壁を構成し、一酸化窒素を放出して血管拡張を引き起こす内皮細胞が参加者の血液サンプルにどのように反応するかを調べる実験室試験を実施しました。その結果、慢性的な大麻喫煙者の血液が、内皮細胞の一酸化窒素の生成を抑えてしまうことがわかりました。これが参加者の血管拡張が低下した理由のひとつかもしれないといいます。

ところが、THC入りの食品を摂取している参加者の血液では、このような一酸化窒素の生成抑制は確認されませんでした。どうやら、食べるタイプのTHCは喫煙とはまったく異なるメカニズムで動脈機能に影響を及ぼしている可能性があるようです。

ただし、そのメカニズムを解明するためには、さらなる研究が必要とのこと。そして、今回の結果を検証するために、より大規模な集団でこの結果を再現する実証研究も必要なのだそうです。

アメリカ国立衛生研究所傘下にあるアメリカ国立薬物乱用研究所の報告によると、過去数年間でアメリカの成人の大麻使用率は過去最高水準に達しています。

そんな事情もあって、「大麻は高揚感をもたらす無害な物質」という認識を覆す証拠が蓄積されるなかで、THCの健康影響に関する調査がこれまで以上に重要になっています。

医療用に加えて娯楽用大麻の合法化が全米に広がっていっていますが、ちょっとブレーキを踏んだほうがいいかもしれないですね。

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