戦時体制続くロシア、経済失速の兆し-高インフレ・高金利でほころび

ロシアのプーチン大統領が2022年2月にウクライナ侵攻を始めると、政府の景気対策で国内経済が活況に沸いた。それから3年がたとうとする今、その反動が起きつつある兆しが表れ始めている。

  モスクワなどの都市では、レストランは満席で高級品を扱う店舗も人気で、依然として景気は上向きだが、記録的水準の高金利と根強いインフレが相まって、戦時体制に伴う景気浮揚効果は薄れつつある。

  元ロシア銀行(中央銀行)幹部でエコノミストのオレグ・ビューギン氏は、「従来から蓄積されていたリソースを基盤とするロシア経済の比較的良い時期は終わった」と指摘。「高インフレが、短命に見える成功をすべて食いつぶしてしまう」と述べた。

  ロシアはさらに、欧米が発動している制裁やこのところ値下がりしているルーブル、不透明な原油価格の見通しにも直面。そして最大の貿易相手国で関係を一段と深めている中国が、自国の深刻な経済問題を克服できていない状況も重しになっている。

  ロシア中銀は、25年の成長率が最悪で0.5%に低下すると予想。24年の推定成長率(3.5-4%)から大きく落ち込む。インフレ率が目標の4%に戻るのは26年になるとみている。

  経済発展省の見通しでは、25年の経済成長率は2.5%と中銀より楽観的だが、プーチン氏は先月、景気が冷え込んでいるのはインフレを「安定化」させるという政府の計画の一環だと説明した。

痛み

  労働力不足による賃金上昇の影響もあり、インフレの痛みは国民の間で一様ではない。

  モスクワのIT専門家セルゲイ・ドミトリエフ氏は「中流階級について言えば、今は悪くないが、それほど裕福でない人々はより強いストレスを感じている」と言う。

  高水準の政策金利にもかかわらず、インフレ率は目標の倍を超える水準となっている。 それでもロシア中銀は先月、政策金利を21%に据え置いた。これは、ウクライナでの戦争開始後よりも高い。

  利上げ見送りの背景にあるのは、インフレそのものより、物価高抑制を図る金融引き締めが有害で、金利上昇で経営破綻が増えると産業界からの批判が高まったことがある。

  確かに記録的な金利水準の影響が広がりつつある。調査グループのオートスタットによると、ロシアの自動車ディーラーは破産の波に直面する可能性がある。

  農業セクターも同様に圧迫されている。ロシア穀物輸出連合の代表を務めたエドゥアルド・ゼルニン氏は「破綻リスクが政策金利と共に高まっている」と述べ、農家が春に種まきをするための資金が必要になった際、それらのリスクが現実のものとなるかどうかが分かる」と警戒感を示した。

Russia has sought to rein in overheating with tight monetary policy

Source: Federal Statistics Service, Economy Ministry, Bloomberg

  大手企業は、戦略の見直しを迫られている。ロシア鉄道と国営パイプライン運営会社トランスネフチは借り入れコストの負担を理由に投資計画を大幅に削減した。

  鉄鋼メーカーのセべルスタリや鉱業のMMCノリリスク・ニッケルといった民間企業も支出を減らし、大手アルミニウムメーカーのルサールは経済状況などを理由に生産量を10%余り削減することを検討している。

未知数

  Tインベストメンツのエコノミスト、ソフィア・ドネツ氏は「緊縮の年になる」と分析。「債権者が勝ち組となり、借り手は今後どうやって生活していくか想像もつかないだろう」と話した。

  同氏によれば、25年のロシア経済にとって、原油価格急落が最大級のリスクだ。原油がさらに値下がりすれば、国家が犠牲を払わなければならなくなるという。

  ロシアが続けている戦争そのものも未知数だ。

  プロムスビアズバンクのアナリストは、トランプ次期米大統領が公約しているように戦争が早期に終結すれば、ルーブル高につながり、外国からの投資と輸出収入がロシアに戻ってくる可能性があると想定するが、戦争を巡る交渉が長引けばインフレと緊縮政策が続き、成長が鈍る公算が大きいとみている。

  大幅なルーブル安と、米制裁の脅威が絡む国際決済を巡る問題も打撃だ。

  決済の混乱で石炭やアルミなどの商品の輸送が滞っており、経済発展省の幹部だったアレクセイ・ベデフ氏によると、「ロシアの主なリスクは支払い」だという。

  支払いの問題と外貨不足でロシア企業にとって比較的安価な借り入れの選択肢である人民元建て債の利用が難しくなっており、元建て債発行は24年7-12月(下期)に鈍化した。

原題:Putin’s Booming War Economy Poised for Soft, Bumpy Landing  (抜粋)

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