付帯決議は否決「後」に採択された──副首都法案の時系列と「国会の意思」の読み方。そして同日選は?(西田亮介)
上述のように、番組出演(ABCテレビ『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(2026/08/01放送))をめぐって、「参議院でも同日選挙実施禁止法案は否決されている、副首都法案と付帯決議が採決され、その後に禁止法案が否決されたのではないか」という趣旨の指摘を以下の通りいただいた。
だが、むしろ2つの別の法案を混同し、時系列を無視してしまっていることを指摘する。
とはいえ、当方のXでの記述もやや大雑把なので、改めて解像度を高めて時系列を確認し、付帯決議についての理解を深めるきっかけとしたい。
※先日も下記の通り解説記事を書いたので、合わせて参照してほしい
維新悲願の副首都法案を2票差で成立させた影の主役「付帯決議」とは何か──「法的拘束力なき合意」の機能(西田亮介)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f8602ceb53bfaf5debbff85162e51336e0a2ef02
まず時系列の順序が逆である点だ。参議院公報の委員会経過によれば、2026年7月24日の参議院沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会は、副首都法案(衆第27号)と同日選実施禁止法案(参第18号)の両案について討論を行ったうえで、前者を可決し、後者を否決した。
そのうえで「なお」として、副首都法案について付帯決議を行っている。付帯決議は禁止法案の否決を受けたあとの議決なのである(詳細、下記参議院公報参照のこと)。
第221回国会(特別会) 沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会経過
【第107号 (1) 令和8年7月24日(金)】
開会年月日 令和8年7月24日
沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会(第九回) 国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進 に関する法律案(衆第二七号)(衆議院提出) 大都市地域における特別区の設置に関する法律の一部を改正する 法律案(参第一八号) 特別市の設置に係る制度の整備の推進に関する法律案(参第二〇号)
右三案について発議者衆議院議員岩谷良平君、同高見亮君、同 簗和生君、同宮下一郎君及び政府参考人に対し質疑を行い、 国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進 に関する法律案(衆第二七号)(衆議院提出) 大都市地域における特別区の設置に関する法律の一部を改正する 法律案(参第一八号)
右両案について討論の後、 国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進 に関する法律案(衆第二七号)(衆議院提出)を可決し、大都市地域における特別区の設置に関する法律の一部を改正する 法律案(参第一八号)を否決した。
なお、国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案(衆第二七号)(衆議院提出)について附帯決議を行った。
理事の補欠選任を行った。
沖縄・北方問題及び地方の活性化等に関しての総合的な対策樹立 に関する調査の継続調査要求書を提出することを決定した。 閉会中に委員派遣を行うことを決定した。
参議院『沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会経過(第221回国会)』https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/koho/221/keika/ke2700437.htm
(強調は引用者による)
次に、決定の場所が混同されている。
付帯決議は委員会の議決であって、本会議の議決ではない。本会議で採決されたのは法案そのもので、副首都法は賛成123票、反対121票で成立した。なお地方選と住民投票の選挙期間が重複しないよう「最大限、調整する」との付帯決議が可決されたのは、本会議に先立つ特別委員会である。
産経新聞『「副首都」関連法が参院本会議で2票差で可決、成立 与党など賛成 特別国会は事実上閉幕』(2026年7月24日)https://news.yahoo.co.jp/articles/08e894b3debcfa16026dac26014d539ab77514c3
付帯決議は法律の条文ではなく、国会法に明文の根拠を持つ制度でもない。慣行にすぎないからこそ、どの機関がいつ、どの順番で決めたのかも読むべきだ。
なお衆議院でも同じ法案は否決されている。国民民主党が6月24日に提出したもの(衆第25号)が7月15日の衆議院本会議で否決され、同じ日に、施行期日等を修正したうえで公明党との共同提出として参議院に出し直された(参第18号)。念の為だが、両者は別の法律である。
したがって「参議院でも否決された」という理解自体は誤っていない。むしろ重要なのは、二度の否決を踏まえてなお、与党が「最大限調整する」という文言を受け入れて付帯決議が採択された、という順序である。禁止を退けたことを最終的な意思とするのであれば、その後にわざわざ付帯決議に同意する理由がないのだ。
参議院『議案経過表(第221回国会)』https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/koho/221/koho/ko479202607251081.htm
以上の説明を図解すると以下のようになる。
2026年7月24日の採決の順序(参議院公報の委員会経過をもとに作成)チームみらいを除く参院野党6党は、特別区設置の住民投票と関係地方選挙の同時実施禁止を答弁と付帯決議で確約するよう求め、自民党と維新が最終的に受け入れを決めたことで、当初反対していた採決を容認した格好だ。
禁止法案は否決されたが、その引き換えに「最大限調整する」という文言が与党の同意のもとで採択された。国会が示したのは「法律で一律に禁止することまではしないが、重複しないよう最大限調整せよ」という一体の判断であろう。前半だけを取り出して「国会の意思は同日実施の容認だ」と読むのは一面的だ。
同じ委員会で、同じく自民党と維新が、禁止法案に反対しつつ付帯決議には賛成しているからだ。法案の否決を「国会の意思」と呼ぶのであれば、同じ日に同じ委員会が採択した付帯決議も、筆者が番組中に言及した「妥協のセレモニー」と見るとしても、「国会の意思」である。
そもそも法案の否決から積極的な意思を読み取るのは難しい。同法案は、前述の通りの経緯で、実質的な審議は会期末の数日に限られた。
同時に付託された特別市設置制度整備推進法案に至っては、質疑は行われたが採決そのものが行われておらず廃案になった。積極的な立法意思を読み込むのは無理がある。
国民民主党『【法案提出】議員立法「同日選実施禁止法案」を提出』(2026年7月15日)https://new-kokumin.jp/news/business/20260715_1
もっとも、付帯決議に法的拘束力はない。
先にも述べたように、政党間の信義則であり、いわば「紳士協定」だからだ。
特に参議院における少数与党状態のもとで、付帯決議は国会の議事を前に進めるための数少ない道具である。
そしてその道具を軽んじれば、次に困るのは野党だけではない。与党の側も同じかそれ以上だ。秋の臨時国会以後も国会は続くからだ。
冒頭の指摘は順序と場所を取り違えている点で誤っているが、同時に、吉村氏の論法がどこで無理をしているのかを、かえって浮かび上がらせているともいえる。なお「同日選禁止法案」という通称が、衆参同日選の禁止と誤解されている例も見かけるが、むろん無関係である。
博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。