我々はまだ深海のことをほとんど知らない。探査済みの深海底はわずか0.001%

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 地球の大部分は海に覆われているが、新たな研究によると、これまで人類が探査できた深海底は、全体のほんの0.001%でしかないそうだ。

 深海とは水深200mよりも深い海のこと。我々人類がそこへ潜り、記録をとり始めてから67年が経つが、カメラなどで視覚的に記録された範囲は、大阪府や東京都の2倍程度の面積でしかない。

 本格的な宇宙時代を迎えた今日だが、この地球上にはまだまだ未知の領域が残されているということだ。

 非営利団体「オーシャン・ディスカバリー・リーグ」と、アメリカの名門、スクリップス海洋研究所、ボストン大学の研究者たちは、人類が過去67年間に記録した「深海探査」のデータ、43,000件以上を分析し、これまでに人類が”画像”として記録した「深海底の面積」を算出した。

  その結果、私たちが目にしたのは、全体のわずか0.0006~0.001%でしかないことが判明したのだ。仮にその上限である0.001%だったとしても、ほんの3823km2。大阪府(1905km²)の2倍、東京都(2194km²)の1.7倍程度の面積でしかない。

 深さ200mよりも深い深海への潜航記録は43,000件以上で、排他的経済水域(EEZ)や公海で実施されたものが含まれる。

 石油・ガス関連企業による私的な探査活動はデータに含まれていないが、これを含めたことで実際に記録された範囲が仮に一桁増えるとしても、0.01%を超えることはないという。

 それが意味するのは、人類は深海底でほとんどなにも目にしていないということだ。しかも数少ない記録の約30%は、1980年以前に記録されたモノクロ低解像度の静止画でしかない。

 地球全体の表面積のうち約70%が海洋に覆われているが、浅い沿岸の海を除き、水深200メートルより深い「深海の海底」は66%だ。

 「地球表面の66%を占める生態系である深海底のうち、私たちが視覚的な記録を持つ面積はほんのわずかにすぎない」と、チームは論文で述べている。

この画像を大きなサイズで見るこれまでに画像として記録された深海底の範囲は、アメリカ全土と比較すると4つの黒い〇の程度のものだ/Bell et al., Sci. Adv., 2025

 深海探査については多少の進展も見られる。1960年代から2010年代にかけて、深海へ潜った件数が4倍に増加しているのだ。

 その一方で、潜航するポイントは、沿岸部や浅い水深に偏る傾向が強まっているという。1960年代には、水深2000mより深い潜航は全体の60%を占めていたが、40年後の2000年代には25%に減少している。

 海の4分の3が深さ2000~6000mの領域であることを考えると、海底の全貌解明という点でにおいて、こうした偏りは懸念されるところだ。

 さらにまた別の懸念すべきことがある。1960年代には潜航の約半数が公海で行われたのに対して、2010年代にはその割合が15%まで低下しているのだ。

 現在、深海潜航のほとんどは排他的経済水域(沿岸国の基線から200海里まで範囲。ここにある天然資源は沿岸国が独占的に利用できる)で行われており、そのうち70%超が日本・米国・ニュージーランドの3カ国の水域であるという。

 なおこうした偏りは必ずしも今に始まったことではなく、1958年以降に行われた深海への潜航の97%が、日本・米国・ニュージーランド・フランス・ドイツの5カ国によって行われたものであるそうだ。

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 深海の底など、私たちの暮らしとはほとんど関係がなさそうに感じるが、そんなことはない。

 オーシャン・ディスカバリー・リーグのキャサリン・ベル氏は、ニュースリリースで次のように語っている。

気候変動から深海採掘にいたるまで、深海に対する脅威が急速に深刻化する現在、これほど広大な領域の探索が進んでいないことは、科学と政治両面にとって大きな問題です(キャサリン・ベル氏)

 深海底の資源をいかに管理・保全するのか適切に判断するためには、深海の生態系(そこはこの世のものとは思えない、奇想天外な世界だ)についてきちんとした理解がなければならない。

 だがベル氏らの推定によれば、たとえ世界中に新たに1000台以上の探査プラットフォームを設置したとしても、深海底全体をカメラで記録するには10万年もかかるという。

 つまり、今のやり方ではまったく埒が明かないということだ。

 それゆえに今回の研究は、「深海を探索・研究する方法を根本から変える必要がある」ことを示したものであるそうだ。

 この研究は『Science Advances』(2025年5月7日付)に掲載された。

References: Only 0.001% of the Deep Seafloor Visually Observed In Seventy Years Revealing Gaps and Bias In Ocean Exploration and Global Biodiversity Understanding / How little we’ve seen: A visual coverage estimate of the deep seafloor

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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