蚊はビールを飲む人が好き? 科学者が音楽フェス会場で最大規模の調査を実施、結果は?

 多くの人が集まる音楽フェスは、蚊にとっては食べ放題のビュッフェだが、8月に論文投稿サーバー「bioRxiv」に発表された「血と汗とビール:騒音と酩酊の真っ只中で蚊が刺す好みについての大規模音楽フェスティバルにおける横断的コホート研究」という論文によると、ビールを飲む、日焼け止めを塗らないといった行動が蚊を引きつけている可能性があるという。論文はまだ査読を受けていないものの、衛生状態や酔った状態などの要因が、蚊の食事の選択に及ぼす影響を調べた研究としてはこれまでで最大規模だ。 ギャラリー:驚き!電子顕微鏡で見た昆虫、寄生虫 写真18点  獲物を探す蚊は、最初に人間が吐く息の二酸化炭素を嗅ぎつける。体温や体臭も蚊を引き寄せることがある。  これまでの研究から、皮膚常在菌の多様性が低い人は蚊に刺されやすいことや、蚊の引きつけやすさ(誘因性)は遺伝する可能性があることなどが示唆されている。血液型との関連に関する他の分析からは、一貫性のある結果は得られていない。蚊に好かれる不運な体質を作るレシピは、いまだに謎に包まれている。  蚊が引き寄せられるしくみを理解することが重要なのは、米国疾病対策センター(CDC)によれば、蚊は世界で最も多くの死をもたらしている動物だからだ。マラリア、デング熱、ジカ熱などの病原体を媒介する蚊は、世界の多くの地域で人間の健康に対する重大な脅威になっている。 「マラリアや、マラリアを媒介する蚊の研究をしていると言うと、『ああ、私はしょっちゅう蚊に刺されます。どういうわけですか?』と聞かれることがあります。多くの人が、特に夏の間は、このことを疑問に思っているのです」と、オランダ、ラドバウド大学医療センターの生物学者で、論文の共著者であるサラ・リン・ブランケン氏は言う。

 蚊を引きつける要因を解明するため、科学者たちは、世界で最も非衛生的で、最も混沌とした環境の1つに注目した。音楽フェスティバルだ。  オランダのビディングハイゼンという農村地帯で開催されるロウランズ音楽祭には、3日間のイベント期間中に研究者が実験を行えるプログラムがある。  ブランケン氏らは2023年8月に、このフェス会場で輸送用コンテナに仮設の実験室を用意し、実験への参加を呼びかけた。実験の参加者たちは、イベント期間中の睡眠、シャワー、食事、血液型、薬物やアルコールの使用に関するアンケートに回答した。  研究者たちはアルコールチェッカーで参加者の血中アルコール濃度を測定し、綿棒で皮膚をぬぐって検体を採取した。最後に参加者はメスのステフェンスハマダラカ(Anopheles stephensi)が入ったプラスチックケージの側面に腕をかざし、カメラがケージ内の蚊の動きを撮影した。ケージには格子状の微小な穴が開いていて、蚊は人間のにおいを嗅げるが、刺すことはできないようになっていた。 「多くの人が友人やパートナーと一緒に来ていて、『この人はしょっちゅう蚊に刺されている』などの先入観を持っていました。ですから、その考えを検証できる機会を与えられたことを、本当に喜んでいました」と、ラドバウド大学医療センターの生物物理学者で、この論文の共著者であるフェリックス・ホル氏は語る。  研究者たちはその後、映像をアルゴリズムにより解析して蚊の関心を1匹ずつ分析し、それぞれが実験参加者の腕に何回とまったかを数値化した。フェスらしく、コンテナの外には人々が集まり、外のスクリーンに各参加者の誘引性スコアが表示されるたびに歓声を上げていた。「あの熱狂ぶりには、いい意味で本当に驚きました」とホル氏。  465人の参加者のデータを分析した結果、蚊がとまる回数が最も多かったのは、過去12時間以内にビールやワインを飲んだ人、過去48時間以内に大麻を摂取した人、日焼け止めをつけていない人、誰かと一緒に寝た人であることが分かった。最近シャワーを浴びていない人は、日焼け止めをつけていても蚊に刺されやすく、香水はなんの影響も及ぼさなかった。  レンサ球菌は、以前の研究でも蚊の誘引性と関連づけられていたが、今回の研究でも、誘引性スコアの高い人の皮膚にわずかに多く見られた。

ナショナル ジオグラフィック日本版

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