頭に当たり脳挫傷、背中に無数の黒い痣…真っ暗闇に“新幹線の速さ”で噴石が降り注いだ「御嶽山噴火」 生死を分けた一瞬の判断
秋の行楽シーズンといえば、主役は山。山歩きから本格的な登山まで、その場で受ける爽快感は何ものにも代えがたい。だが、近年は山での遭難や事故のニュースが増加の一途にあることも事実だ。体力の過信や下調べなしの軽装備などは「ありえないこと」と、改めて認識する必要がある。加えて、自然現象による災害も忘れてはならない。
【写真】積もった火山灰の上を担架で運搬…警察・消防・自衛隊が連携した救助・救出活動、実際の様子
2014(平成26)年9月27日午前11時52分、長野と岐阜の県境に位置する御岳山で突然の水蒸気噴火が発生した。推定噴煙高度は火口から最大7000メートル、推定噴出物は噴火当日だけで約50万トン。結果、死者は58名、行方不明者は5名に上り、戦後の噴火災害における最悪の犠牲者数となった。
2014年9月27日、複数の場所から噴煙を上げる御嶽山当時の噴火警戒レベルは5段階のうち1「平常」。だが、この表現では危険性の判断に影響する可能性もあり、御嶽山噴火後は「活火山であることに留意」に改められた。このレベル設定を巡っては2017年、遺族が国と長野県を相手取って損害賠償訴訟を起こしている。1審、2審で棄却となり、最高裁での上告棄却が決定したのは2026年1月のことだった。
自然はコントロールできないという事実を改めて伝え、多数の貴重な教訓をもたらした御嶽山噴火。救助・救出に従事した機関や自治体は丹念な活動記録を取り、現在の備えに生かしている。登山者の側も、過去に学ぶことは山を愛する者の常識といえよう。「週刊新潮」のバックナンバーから、被災者たちが語った噴火当時の災害現場と“生死の分かれ目”を振り返る。
(以下、「週刊新潮」2014年10月16日号掲載「『御嶽山』死者の検視で判明した逆説的『九死に一生』」を再編集しました。文中の肩書き等は掲載当時のものです)
***
噴石の直撃でショック状態
想像していただきたい。視界ゼロの暗闇の中、大小の噴石がもの凄い勢いで降って来る状況を。噴火直後、山頂付近にいた登山者たちは、死を覚悟せざるを得なかったに違いない。まさに、この世の地獄である。
今度の噴火では、火口から北東方向に噴石が飛び散った。その飛距離は約1kmで、特に500メートル以内に噴石による多数の穴が発見されている。
死者は計51名(編集部注:2026年9月時点で58人、行方不明者5人)。ほとんどが、噴石による「損傷死」だった。警察関係者が解説する。
「このうち、半数以上の方は噴石が体の複数の部位を直撃。ショック状態を起こすことによる『多発外傷』で亡くなっています。次に、噴石が頭に当たって脳挫傷や脳挫滅で死亡した人が多い。また、首に当たって致命傷になったというケースもあったそうです」
後頭部にソフトボール大の噴石
検視を行った奥村佐(たすく)医師によれば、
「私が診たご遺体は、主に背中に無数の黒い痣ができていました。大きさは小石くらいでした。それ以外に、アイロンを押し付けられたような火傷を脚のあたりにしていた方もいた。恐らく、熱を帯びた噴石が掠ったか、熱風によって温度が上がった場所に長時間皮膚が触れていたのでしょう。一番激しい傷は、太ももにありました。鋭利な噴石が当たったらしく、太ももは抉れ、筋肉が露出し、骨が見えそうなくらい深い傷を負っていました」
さらに酷いダメージを受けたケースもあって、
「後頭部にソフトボール大の噴石が当たったためと思われる、陥没骨折をしていた人。眼のあたりに噴石が直撃して、半分くらい顔の形がはっきりしない方もいました」
噴石は新幹線の速度で降り注ぐ
死者の約7割が頂上付近で発見された。元地震予知連会長の大竹政和氏(東北大名誉教授)によれば、
「噴石は、落下する際、空気抵抗を加味しても時速340~350kmくらい出ることもあります。報道を見る限り、今回も300km以上は出ているでしょう。また噴石1ccは、重さ3g。拳大くらいの噴石の場合、重さは約1kgになる。硬さは、河原に落ちている石と同じと考えればよい。それが、新幹線くらいのスピードで雨のように降り注ぐわけですから、避けることはまず不可能です。まともに当たれば、小さな噴石でも十分致命傷になります」
噴石を浴びながら生き延びた登山客もいる。御嶽山が噴火したのは午前11時52分。頂上から約1kmの地点にある避難小屋、その代表者が証言する。
「噴火直後、登山客は頂上付近からこの山小屋に避難してきた。12時10分までの間に50名ほどは来たでしょう。噴石でケガした人がたくさんいました。ただし、噴石で足を骨折するなど身動きが取れなくなり、山小屋に避難できない人もいた。その後、12時15分くらいから噴煙が立ち込め、30~40分間、辺りは真っ暗になりました。この間、噴石が大量に降り注いだ。山小屋にいた我々は無事でしたが、逃げ遅れた人が亡くなったというわけです」
階段に救われた命
50代男性は、山の南側にいた。11時52分、左手に灰色の噴煙が上がるのを目撃する。
「左手ということは、西側。そこで慌てて、東側に走りました。運よく近くに山小屋があったものの、ドアが開かなかった。仕方なく東側に回り込むと、木製の階段を発見。その下に潜り込みました」
男女合わせ7人ほどが階段下に避難したそうだが、
「熱風が来て真っ暗になりました。と同時に、空から噴石がバラバラ落ちて来るのが分かった。周囲は真っ暗。息苦しくて口を手で押さえるのが精一杯で、ザックで頭を隠す余裕もありませんでした。しかし、階段の下に隠れたおかげで、全員無事でした」
外が明るくなって、バルコニーを見ると、驚くべき光景が目に入ったという。
「噴石が当たって、木の手すりは砕け散っていた。さらに下を見ると、胴体が灰まみれの遺体が2体横たわっていました。そこには、庇(ひさし)などの遮蔽物がなく、噴石が直撃したようでした」(同)
リュックを盾にして身を屈めた
身を隠す山小屋も岩場もなかった60代男性の場合は、
「噴煙に巻き込まれてから直ぐ登山リュックを火口側に向け、それを盾に右半身が全て収まるようにして地面に身を屈めていました。リュックは登山用で、高さ70cm、幅は30cmほど。中には着替えなど、荷物が8kgほど詰まっていた。背中部分には、プラスチックの板が入っています。バチバチと噴石が当たる音がしたものの、おかげで右半身は無事。噴石から隠すことのできなかった左肩甲骨を骨折してしまいましたが」
先の大竹氏は、こう警鐘を鳴らす。
「噴火に直面した場合、まずは、火口近くから逃げること。逃げ切れず、視界も悪い場合は、物陰に隠れることが重要です。そして何より大事なのは、今回のような事態が自然界では起こり得る、という心構えをもって山に登ること。そうすれば、自分が登る山の情報を事前に調べたり、ヘルメットを持って行くといった準備も怠らないでしょう」
デイリー新潮編集部