見通し実現の確度高まっている、利上げへ春闘の「初動」重要=日銀総裁

日銀の植田和男総裁は10月30日、金融政策決定会合後の記者会見で、金融政策運営は日銀法に定められている通り、常に政府と連絡を密にして十分な意思疎通を図る必要があるとの認識を示した。同日、都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 30日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は30日、金融政策決定会合後の記者会見で、経済・物価見通しが実現する確度は少しずつ高まっているとする一方、政策調整に向けては来年の春闘の「初動のモメンタム」が重要になると述べ、もう少しデータをみたいと語った。

<ビハインド・ザ・カーブの懸念、高まっていない>

金融政策運営について植田総裁は「現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、日銀の経済・物価の見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになる」との方針を改めて示した。

展望リポートの経済・物価の見通しは前回から大きく変わっておらず「中心的な見通しが実現する確度は少しずつ高まってきている」と指摘。そうした中で政策金利を維持したことについて、米関税の影響や食品価格の動向、来年の春闘に向けた動きなどを確認したいと語った。ただ、米経済の下振れリスクについては、関税分の価格転嫁がゆっくり進むとみられるとして、7月時点に比べ「やや低下した」と話した。

総裁は基調的物価上昇率が緩やかに上昇するという中心的見通しに沿って推移しており、「現状、ビハインド・ザ・カーブに陥る懸念が高まっているとは認識していない」と語った。利上げの是非やタイミングについて予断を持っておらず、毎回の決定会合で適切に判断していくと述べた。

判断材料の一つとなる賃金動向に関連し、米国の15%関税を前提にした収益計画のもとで今後固まってくる企業の賃金設定スタンスなどを分析したいと説明。春闘の最終妥結の姿を知るまで待ちたいというわけではなく、初動のモメンタムがどうなるかもう少し情報集めたいと語った。

<高田委員・田村委員、展望リポートの記述修正を提案>

今回の決定会合では、政策金利の現状維持を賛成多数で決定した。9月会合に続き、高田創審議委員、田村直樹審議委員の2人が利上げを提案したが、反対多数で否決された。

植田総裁は会見で、両委員が展望リポートの記述の修正も提案したが、否決されたことを明らかにした。高田委員は消費者物価はすでに「おおむね物価目標に達する水準」と指摘したほか、田村委員は、基調的な物価上昇率は「見通し期間の半ば以降に物価目標とおおむね整合的な水準で推移する」ことなどを記述する案を示したが、それぞれ否決されたという。

高田委員や田村委員以外の政策委員が利上げに対してどういうスタンスなのか、植田総裁は明言を避け、今後発表される決定会合の「主な意見」や議事要旨を参照するよう求めた。

<今後も政府と十分な意思疎通図る>

高市早苗政権が発足して初の金融政策決定会合となったが、植田総裁は「政府との間ではこれまでと同様、十分な意思疎通を図っていきたい」と語った。

高市政権は日銀法第4条に言及し、日銀の金融政策が政府の基本方針と整合的になるよう求めている。植田総裁は「これまでもさまざまな場を通じ、さまざまなレベルで政府と意思疎通を図ってきている」と説明。自身も、機会を捉えて首相と会い、意見交換させてもらっていると語った。

植田総裁は、高市首相が金融政策の方向性を決める責任は政府にあると発言していることや高市首相との会談予定についてはコメントを控えるとした。一方で「予算編成の途中であっても、政策を変更することも可能」と述べたほか、「われわれが納得すれば、政治状況に関わらず金利を調整することになる」と語り、金融政策の判断は予算編成や政治情勢に縛られないとの姿勢を示した。

米国のベセント財務長官の金融政策に関する一連の発言にもコメントを控えた。

<12月の利上げ織り込みが上昇、「12月は無理」の声も>

決定会合の結果を受け、市場は来年3月までの利上げ再開の可能性を織り込んだ。東短リサーチ/東短ICAPによれば、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む来年3月会合までの利上げ確率は合計で97%。12月が57%で最も高い。

ただ、総裁が来年の春闘の「初動」が重要になると話したことで、12月利上げが実現するか、慎重な見方が聞かれる。SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは1月会合での利上げが濃厚とみる。労使の動向や地方への広がりを見極めるには、年明けに明らかになってくる大企業の賃上げの動向や1月の日銀支店長会議まで見る必要があると話す。

関西みらい銀行の石田武ストラテジストは「来年3月になる可能性も意識せざるを得ない」と述べた。1月の支店長会議やさくらリポート(地域経済報告)で春闘の最初の動きがある程度見えて利上げということもあり得るが、「12月は無理ではないか」と話している。

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