超加工食品の摂取がフレイルリスクに関連 イタリアで16年以上の追跡期間を通してリスクが継続
超加工食品の摂取量の多さとフレイルリスクの高さとの間に有意な関連があり、この関連は一時点のみでなく、16年以上追跡しても有意性が維持されていたとする研究結果が報告された。著者らは、超加工食品の摂取が全身性炎症を惹起するといった経路で、フレイルにつながるのではないかと考察するとともに、ガイドライン策定の必要性、および超加工食品の定義付けの必要性にも言及している。
安価で美味なことの多いが炎症惹起性のある超加工食品は、フレイルのリスクも高める?
加齢による諸機能の低下のうち、可逆性のある段階はフレイルとされ、その早期介入により要介護状態への進展を抑制可能とされている。フレイルには運動不足や社会参加の欠如など、さまざまなリスク因子があり、その中でも食習慣は重要な修正可能な因子として位置付けられている。健康的な食習慣がフレイルリスクの低さと関連していることを示した観察研究は少なくない。この関連の機序として最も妥当な解釈の一つは、健康的な食生活とされる植物性食品は抗酸化作用や抗炎症作用を有しており、全身の慢性炎症を抑制することなどの影響が考えられる。
一方で、工業的に高度な加工を経て作られる超加工食品(ultra-processed foods;UPF)は、人々の嗜好にあわせて食べやすいように製品化され、かつ一般的に安価で流通しており、消費量が増大してきている。超加工食品は脂質含有量が高いがこと多く、またエネルギー密度も高いことから、肥満や2型糖尿病などの心血管代謝疾患のリスクを押し上げることが知られている。さらに横断研究からは、超加工食品の摂取がフレイルリスクと関連のあることも示されてきている。ただし、フレイルリスクに関して縦断的デザインで関連を明らかにした研究はなく、因果関係のエビデンスは限られている。
今回取り上げる論文の研究では、研究登録時のデータを用いた横断的解析に加え、経時的な変化も考慮した解析がなされており、超加工食品とフレイルリスクの関連の存在を支持する、より強力な知見と言える。
約千人の高齢者を16年間追跡し、超加工食品の摂取量とフレイルリスクの関連を検討
この研究は、イタリアで実施された、高齢者の歩行能力に影響を及ぼすリスク因子を前向きに検討した研究(InCHIANTI研究)の一環として行われた。解析対象は年齢65歳以上の高齢者938人(74±6.6歳、女性55.2%)で、摂取エネルギー量が極端な人(600kcal/日以下または4,000kcal/日以上)は除外されている。
超加工食品の摂取量は、ベースライン時に行った食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)を用いた調査結果とNOVA食品分類に基づいて推定した。またフレイルリスクについては、フレイル指数(frailty index;FI)を利用して評価した。なお、フレイル指数(FI)は、意図しない体重減少、座位行動、握力、歩行速度などから算出され、スコア範囲は0~1で、値が大きいほど高リスクであることを意味する。
横断的解析だけでなく、経時的な変化を考慮した解析でも、有意な関連が示される
InCHIANTI研究の参加者には、3年ごとに採血や採尿、FIの評価を含む詳細な検査が行われ追跡された。今回の研究では、そのベースラインデータを用いた横断的検討と、追跡中のフレイル指数(FI)の変化とベースラインでの超加工食品摂取量との関連を解析するという経時的な視点での検討が行われた。
ベースラインの横断的解析:超加工食品の摂取量が多いほどフレイルリスクが高い
ベースラインの超加工食品摂取量の四分位数に基づき、全体を4群に分類して比較すると、BMIと喫煙状況には有意差がなかったが、摂取量が多いほど高齢で男性が多く、また摂取エネルギー量が多くて教育歴が短いという有意差が認められた。フレイル指数(FI)は、全体平均が0.133で、第1四分位群(超加工食品の摂取量が少ない下位25%)は0.108、第2四分位群は0.140、第3四分位群0.138、第4四分位群(超加工食品の摂取量が多い上位25%)は0.146であり、群間に有意差がみられた。
社会人口学的因子や健康関連因子を調整後にも、FIの群間差は有意だった。具体的には第1四分位群を基準として、第2四分位群は0.022高値であり(p=0.004)、第3四分位群は0.014(p=0.071)、第4四分位群は0.026高値であって(p=0.001)、第3四分位群を除いて有意差がみられた。
経時的な解析:ベースラインの超加工食品摂取量は16年後のフレイルリスクとも関連
次に、ベースライン時点の超加工食品摂取量と、16.14年(中央値)後のフレイル指数(FI)との関連を検討。その結果、ベースラインデータの横断的解析と同様に、超加工食品の摂取量が多い群ほど、社会人口学的因子や健康関連因子を調整後にも、FIが有意に高いという関連が確認された。
具体的には第1四分位群を基準として、第2四分位群は0.015高く(p=0.045)、第3四分位群は0.010(p=0.197)、第4四分位群は0.022高値であって(p=0.006)、第3四分位群を除いて有意差がみられた。なお、超加工食品の摂取量と追跡期間の交互作用は有意でなかったことから、FIスコアの変化の幅は超加工食品の摂取量に基づく4群間で差がないと考えられた。
超加工食品に関するガイドライン策定と、超加工食品の定義の確立が急がれる
まとめると、横断的および経時的な変化を考慮した解析によって、超加工食品の摂取量が高齢者のフレイルリスクの増大に寄与する可能性が示唆された。
著者らは、「本研究結果は、超加工食品の摂取量を減らし、より栄養価の高い食品の選択を促す公衆衛生戦略の重要性を強調している。ただし、現時点で超加工食品の標準化された定義がないため、食品の誤分類が発生する可能性があることに注意を要する。また、食品の加工技術は、食品の安全性と食用性を確保するために必要なものであり、すべての加工食品を排除しようとするべきではない」と結論。また、「高齢者向けのより明確な栄養ガイドラインを策定するとともに、超加工食品の摂取による広範な健康への影響に関する研究を進めるために不可欠な、一貫性のある実用的な超加工食品の定義づけが喫緊の課題と言える」と付言している。
文献情報
原題のタイトルは、「Association Between Ultra-Processed Food Consumption Frequency and Frailty: Findings from the InCHIANTI Study of Aging」。〔Geriatrics (Basel). 2025 Sep 11;10(5):123〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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非感染性疾患(NCD)のリスク抑制に有用な、栄養バランスの良い食事、朝食欠食の少なさ、野菜摂取という3要素で規定される「健康的な食生活」が、適正体重の維持につながる生活習慣や、米飯の摂取頻度の高さと関連していることが報告された。園田学園大学人間健康学部の木林悦子氏、兵庫県立大学環境人間学部の中出麻紀子氏が、兵庫県内の一般住民の食行動の調査結果を詳細に解析した結果であり、論文が「Nutrients」に掲載された。
中年の日本人の「健康的な食生活」は、どのような生活習慣に左右されている?
非感染性疾患(non-communicable disease;NCD)が世界各国で増加しており、国内においてもとくに中年期の成人にNCD罹患者が多く、個人の健康だけでなく医療経済への影響も増大している。NCDの多くは肥満が関連しており、肥満のリスクは食習慣が大きく関与している。例えば、栄養バランスの偏り、朝食欠食のほか、外食の利用、中食と呼ばれる調理済み食品の利用なども、一般的には肥満等につながる非健康的な食習慣とされる。実際、それら個々の習慣と肥満リスクとの関連を示した先行研究は少なくない。ただし、それらの習慣を統合して「健康的な食生活」か否かを評価したうえで、肥満リスクなどとの関連をモデル化して検討した研究は、これまでなされていない。
他方、アジア人は伝統的に米飯を主食としてきており、国内でも米飯を主食に主菜と副菜がそろっている食事スタイルの維持が「健康的な食生活」の典型的なパターンとされている。さらに、アジア以外でも例えば米国から、米の摂取量の多さが野菜摂取量の豊富なこと、脂質食品の摂取量が過剰でないことと関連しているというデータも報告されている。
これらを背景として木林氏らは、NCDのリスクの抑制につながると考えられる健康的な食生活と適正体重の維持の関連を、米飯摂取の役割を考慮に入れながら包括的に把握することを試みた。
仮説モデルとその検討手法について
研究ではまず、「健康的な食生活」に対して正の関連(好ましい関連)があると考えられる因子として、適正体重の維持にふさわしい生活習慣と米飯摂取という2項目を選定。また、健康的な食生活に対して負の関連(好ましくない関連)があると考えられる因子として、外食習慣と中食習慣という2項目を選定。これらの関連性を統合した仮説モデルを構築した(図1)。
このモデルの検証のため、平成28年度の兵庫県「ひょうご食生活実態調査」のデータが用いられた。健康的な食生活、適正体重の維持、米飯摂取、外食習慣、中食習慣は、上記の調査時の質問票への回答を基に、以下のようにスコア化して判定した。
健康的な食生活
バランスのとれた食事(主食〈穀類〉、主菜〈タンパク質〉、副菜〈野菜〉で構成されている食事)を1日に2回以上摂取する頻度が、週に6日以上は4点、週4~5日は3点、2~3日は2点、週1日以下は1点。
朝食摂取頻度が、週に6日以上は4点、週4~5日は3点、2~3日は2点、週1日以下は1点。
1日の野菜料理の摂取量が、5品以上は5点、4品は4点、3品は3点、2品は2点、1品以下は1点。
適正体重の維持
食事の際に、エネルギー量を調整する頻度が、「常に実践している」は4点、「(常にではないが)実践している」は3点、「あまり実践していない」は2点、「全く実践していない」は1点。
同様に、塩分を取り過ぎないようにする頻度、脂肪分の量と質を調整する頻度、甘いもの(糖分)を取り過ぎないようにする頻度、栄養成分表示ラベルの利用頻度、および、習慣的な運動の実施状況について、それぞれ1~4点の範囲で評価。なお、著者らの先行研究(詳細はこちら)では、減塩習慣がBMI抑制につながる可能性が示唆されている。
その他の関連が想定される因子
朝食、昼食、夕食それぞれにおける米飯の摂取頻度を、週7日は5点、5~6日は4点、3~4日は3点、1~2日は2点、0日は1点。
外食および中食の利用頻度をそれぞれ、1日2回以上は7点、1日1回は6点、週4~6回は5点、週2~3回は4点、週1回は3点、月1~3回は2点、0回は1点。
女性のほうが健康的な食生活だが、米飯の摂取頻度は男性のほうが高い
兵庫県内32地区から無作為に抽出された1,919世帯、4,747人のうち、中年の食習慣を調査するという本研究の目的から、40~59歳の649人を抽出。そのうちデータ欠落のない577人(男性44.2%)を解析対象とした。
性別で比較すると、肥満は男性に多く低体重は女性に多いという有意差があったが、年齢層や居住形態は差がなかった。
健康的な食生活のスコアは、性別の比較では女性が有意に高く(p<0.001)、年齢層での比較(40代>
米飯の摂取頻度のスコアは、男性のほうが高く(p=0.020)、年齢層での比較に関しては有意差がなかった。同様に外食頻度のスコアも、男性のほうが高く(p<0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。<>
中食の摂取頻度のスコアに関しては、性別および年齢層別の比較のいずれも有意差がみられなかった。
なお、いずれのスコアについても、性別と年齢層との間に有意な交互作用は認められなかった。
中年の日本人のNCD予防に、適正体重の維持と米飯摂取が寄与している可能性
予め、適正体重の維持と米飯摂取頻度に有意な相関がないことを確認後、GFI(Goodness of Fit Index)、RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)、AIC(Akaike’s Information Criterion)などのモデル適合指標を用いた検討の結果、健康的な食生活に有意な関連が示されなかった外食の頻度を除外することで、許容範囲の適合度が確認された。(図2)。
著者らは本研究が兵庫県内のみの横断調査の結果に基づく検証であること、米飯の精製度を考慮していないこと、教育歴や世帯収入などの交絡要因の存在が考えられることなどを限界点として挙げている。
そのうえで、得られた結果を「適正体重の維持のスコアと米飯摂取頻度のスコアは、男性・女性ともに、健康的な食生活のスコアと正の関連が認められ、男性においてのみ、中食の摂取頻度のスコアが健康的な食生活のスコアと負の関連が認められた」と総括。論文の結論には、「中年の日本人において、NCD予防のための適正体重維持が健康的な食生活に寄与する可能性があり、米飯の摂取がその役割の一部を担っている可能性が示唆された」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Healthy Diets Are Associated with Weight Control in Middle-Aged Japanese」。〔Nutrients. 2025 Oct 8;17(19):3174〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。<>0.001)、年齢層での比較(40代>Page 3
血圧管理のための「減塩習慣の推進」は心血管疾患(CVD)リスク抑制を目的とする公衆衛生対策の柱と言える。その減塩習慣が、CVDのもう一つの主要なリスク因子である肥満の抑制にも役立っている可能性が報告された。園田学園大学人間健康学部の木林悦子氏、兵庫県立大学環境人間学部の中出麻紀子氏の研究によるもので、論文が「Nutrients」に掲載された。
減塩でCVDリスクを元から絶てる?
高血圧は脳卒中をはじめとする心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の重大なリスク因子であり、血圧管理には減塩が重要であることは広く知られている。また近年では、減塩(ナトリウムの制限)に加えてカリウムを積極的に摂ることも重視されるようになってきた。本年改訂された日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」でもその点が強調され、尿中ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)のモニタリングが提案されている。
カリウムが多い食品として、野菜や果物が挙げられる。野菜や果物は、ビタミンやミネラルが豊富ということだけでなく、エネルギー密度が低く摂取により満腹感を得られやすいことから、過食を防ぐにように働き肥満予防につながるという点でも、健康の維持・増進に資する食品と位置づけられている。肥満リスクが抑制されることで、肥満を介した高血圧および高血糖、脂質異常の併存という、いわゆるメタボリックシンドロームのリスクが低下するという経路でも、CVDイベント抑止につながると期待される。
しかし、一般住民において、ナトリウムを減らしカリウムを増やすといった高血圧予防のための食習慣が、肥満の予防にもつながるものであるか否かという点は十分に検証されていない。また、外食の頻度や調理済み食品(中食)の利用頻度なども肥満リスク(BMIの増大)に影響を及ぼす食習慣であると考えられ、それらが互いにどのような関連があるのかという視点での研究は不足している。
以上を背景として木林氏らは、兵庫県在住の一般住民を対象に行われた横断調査のデータを用いた以下の検討を行った。
減塩習慣と食品Na/K比、BMIとの関連の仮説モデルを検証
研究に際してまず、BMIに影響を及ぼし得る因子として、食塩摂取量、減塩習慣、食品中のナトカリ比(食品Na/K比)、外食習慣、中食習慣を選定した図1の仮説モデルを構築。この仮説モデルを令和3年度「ひょうご栄養・食生活実態調査」のデータに外挿できるかを統計学的に検討し、最適な適合度を得られるように修正していき最終モデルを確立するという手法で検討が進められた。
ひょうご栄養・食生活実態調査では、自記式の食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)や食事に関する質問票によって、食品摂取量や食行動が把握されている。本研究ではその結果から、肥満有病率の高い世代である40~69歳の成人418人(男性45.5%)のデータを二次利用した。なお、兵庫県では「ひょうご“食の健康”運動」などの食事に関する公衆衛生対策が推進されており、とくに減塩に力が入れられている。
減塩習慣や外食・中食頻度のスコア化
仮説モデルの検証にあたり、減塩習慣や外食・中食習慣などの数値で把握されないパラメーターは、それぞれの行動の頻度に基づいて分類またはスコア化して解析に用いた。
例えば減塩習慣については「生活習慣病の予防や改善のため、塩分を取り過ぎないようにする(減塩をする)ことを、どの程度実践しているか」という質問に対し、「いつも実践している」「実践している」「あまり実践していない」「全く実践していない」の四者択一で回答を得て、前二者を減塩の「実践群」、後二者を「非実践群」と分類した。
また、外食や中食、間食の頻度、就寝2時間前以降に食事をする頻度などは、週あたりの回数が多いほど高得点となるようにスコア化した。
ひょうご栄養・食生活実態調査にみる減塩習慣とBMI
解析対象全体における肥満(BMI25以上)の有病率は23.4%であり、性別の比較では男性のほうが有意に高値だった(29.5 vs 18.4%、p=0.004)。また、野菜・果物の摂取量は女性のほうが多かった(いずれもp<0.001)。<>
減塩の実践群の割合は、男性42.6%、女性68.0%だった。
減塩実践群と非実践群を比較すると、BMIについては男性・女性ともに有意差がなく、エネルギー摂取量も有意差がなかった。また、ナトリウム摂取量についても、性別にかかわらず、実践群と非実践群の間に有意差はなかった。
一方、カリウム摂取量については男性・女性ともに実践群のほうが有意に多く、結果として食品Na/K比は、男性(実践群2.40 vs 非実践群2.47、p=0.008)、女性(同順に2.14 vs 2.19、p=0.002)であり、いずれも実践群のほうが有意に低かった。
このほか、男性においてたんぱく質(15.0 vs 14.7%エネルギー、p=0.033)、女性において野菜摂取量(183.2 vs 176.5g/1,000kcal、p=0.007)に有意差があり、いずれも減塩実践群が高かった。
肥満の有無での食行動・運動習慣の比較:肥満の男性は外食、女性は中食が多い傾向
次に、肥満の有無で食行動を比較すると、男性・女性ともに間食・夜食・外食・中食・飲酒の頻度に有意差はなかった。また、運動の頻度にも有意差はなかった。
ただし、男性において外食の頻度が肥満群で高い傾向があり(p=0.064)、女性においては中食の頻度が肥満群で高い傾向がみられた(p=0.061)。
仮説モデルの検証と最適モデルの構築
スコア化されたパラメーターの性別・年齢層での比較
減塩習慣のスコアを性別で比較すると女性のほうが有意に高く、年齢層(40代 vs 50代 vs 60代)で比較した場合、60代は他の2群より有意に高かった(いずれもp<0.001)。<>
1,000kcalあたりの食塩摂取量は女性が多く(p<0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。一方、食品na>
外食頻度のスコアについては男性が高く(p=0.012)、年齢層での比較では有意差がなかった。BMIも同様に、男性が高く(p<0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。<>
なお、これらのスコアはいずれについても、性別と年齢層との間に有意な交互作用が認められなかった。
減塩は肥満リスクを抑制する可能性が示される
以上の結果に基づき、本研究の主題である前記の仮説モデルの検証を実施。GFI(Goodness of Fit Index)、RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)、AIC(Akaike’s Information Criterion)などのモデル適合指標を用いて、有意でないパスを削除するなどの修正を繰り返した結果、最適な適合モデルとして図2が構築された。
0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。<>0.001)、年齢層での比較では有意差がなかった。一方、食品na>0.001)。<>0.001)。<>Page 4
国内の大学生アスリート1万人以上を対象に行った横断調査により、突然心停止(SCA)の関連因子が明らかになった。本人の失神の既往歴と、血縁者に心不全罹患者がいることが、それぞれ独立して(SCA)に関連しているという。慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの勝俣良紀氏らの研究によるもので、論文が「Cardiology Research and Practice」に掲載された。
めったに起こらないが、まれに起こるアスリートのSCAリスク因子の探索
突然心停止(sudden cardiac arrest;SCA)は突然死につながることが多く、またアスリートは突然死の発生頻度が一般人口の2~4倍に上ると米国から報告されている。さらに、スポーツ関連の突然死の4割は18歳未満に発生するというデータもある。アスリート、とくに若年のアスリートの突然死は、周囲に計り知れない衝撃を与える。
アスリートの突然死を防ぐために、スポーツ関連施設への自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)の設置推進など、SCA発生後の蘇生率向上の努力が続けられている。一方でSCAの発生を未然に防ぐ努力も重要であり、具体的には、SCAリスクの高いアスリートをSCA発生前に特定し、適切な治療介入へと結び付け得る体制の確立が期待される。
しかし、アスリートのSCAリスクが一般人口よりも高いとは言え、発生頻度自体は非常に低く、全アスリートを対象に詳細なスクリーニングを行うことは現実的でない。そのため、詳細なスクリーニングの前段階として、SCAリスクが高い可能性のあるアスリートをある程度、絞り込む必要があり、その絞り込みのため、SCAのリスク因子を明らかにしなければならない。
以上を背景として勝俣氏らは、アスリートの中でも年齢的にSCAリスクが高いとみなされる大学生アスリートを対象とする横断調査を実施し、SCAリスク因子の特定を試みた。
UNIVAS加盟の全大学を対象に横断調査
この調査は、2022年6~10月にwebアンケートとして実施された。調査対象は一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)に加盟している219大学、36競技団体の所属アスリートで、各チームのマネージャーやトレーナーを通じて回答を呼びかけた。
質問内容は、回答者本人の特性(年齢、性別、身長、体重、競技歴など)と、SCAや失神、不整脈、心不全などの既往歴、および、それらの疾患の家族歴であり、すべて本人の自己申告により把握した。なお、これらの質問内容は、国際オリンピック委員会のコンセンサスステートメントに基づき素案を作成後、15人の専門家(医師、トレーナー、疫学者などで構成される11人の研究者と、4人の外部専門家)によるデルファイ法によって妥当性を確保した。
本人の失神の既往と心不全の家族歴が、SCAの既往と独立して関連
前記の期間中に1万998人のアスリートから回答が寄せられ、回答内容に不備のあった137人を除外し、1万861人(20±1歳、男子62%)を解析対象とした。このうち6人(男子と女子が各3人)が、突然心停止(SCA)の既往を報告した。
SCA既往のある学生は、不整脈や失神の既往と、心不全や不整脈、失神の家族歴が多い
SCAの既往の有無で比較すると、年齢、学年、身長、体重、および性別の分布に有意差はなかったが、以下のように、本人の既往歴や家族歴の一部に有意差が認められた。
本人の既往歴
SCA既往のある6人のうち、2人(33%)が不整脈、4人(67%)が失神を経験していた。除細動器などのデバイス装着者、および心不全の既往者はいなかった。それに対してSCA既往のない1万855人のうち、不整脈は314人(3%)、失神は329人(3%)、心不全は11人が報告し、デバイス装着者が5人存在した。
これらのうち、不整脈と失神の既往者の割合は、いずれもSCA既往のある群が高く有意差が認められた(いずれもp<0.01)。<>
SCA既往のある6人のうち、心不全の家族歴のある学生が2人(33%)、不整脈の家族歴は3人(50%)、失神の家族歴は2人(33%)であり、デバイス装着の家族歴がある学生はいなかった。それに対してSCA既往のない1万855人のうち、心不全の家族歴のある学生が239人(2%)、不整脈の家族歴は492人(4%)、失神の家族歴は101人(1%)、デバイス装着の家族歴は266人だった。
これらのうち、心不全、不整脈、失神の家族歴のある割合は、いずれもSCA既往のある群が高く有意差が認められた(いずれもp<0.01)。<>
次に、前記の解析で有意な関連がみられた因子を用いてロジスティック回帰分析を行い、SCA既往と独立した関連のある因子を検討。その結果、有意な関連因子として、本人の失神の既往(OR41.98〈95%CI;5.99~293.83〉)、心不全の家族歴(OR10.74〈1.03~111.19〉)という二つの因子が特定された。本人の不整脈の既往、および、不整脈と失神の家族歴は有意性が消失した。
標準化されたスクリーニングプロトコルの確立に期待
著者らは本研究について、SCAを含めて既往歴をすべて本人の自己申告に基づき判断していること、web調査の特性からサンプリングバイアスや想起バイアスなどの影響が否定できないこと、および、SCA既往者がわずかであるためにオッズ比の信頼区間が広く不確実性が高いことなどの限界点を挙げている。
そのうえで、「日本の大学生アスリートでは、失神の既往歴と心不全の家族歴がSCAのリスクの高さと有意に関連していることが明らかになった。すべてのアスリートを対象として、SCAの徹底的なスクリーニングを行うことは困難だが、このような情報に基づきハイリスク者に絞り込んで精査することは検討する価値がある。さらなる研究により、リスクを層別化し、標準化されたスクリーニングプロトコルの確立が望まれる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Characteristics of Sudden Cardiac Arrest in Young Athletes: A Web-Based Survey of Athletes in Japanese College Sports」。〔Cardiol Res Pract. 2025 Oct 10:2025:1265728〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)
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夕食を遅い時間帯に摂る習慣が、腎臓病でない人の蛋白尿の有病率と関連していることが報告された。有意な関連は、とくにBMIが高くない男性に認められるという。りんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)腎臓内科の村津淳氏らが行った横断研究の結果であり、「Frontiers in Endocrinology」に論文が掲載された。
夕食を遅く食べる習慣が腎臓に及ぼす影響は、BMIによって異なる?
夕食を摂取する時間が遅いという生活習慣が、肥満や2型糖尿病などのリスクと関連していることが知られている。肥満や2型糖尿病は蛋白尿のリスク因子であるが、遅い時間の夕食は、肥満や2型糖尿病を介さずに蛋白尿リスクを高める可能性も示されている。
一方、BMIと蛋白尿リスクとの関連はJ字型であり、BMIが高いことと低いことの双方が、そのリスクを高めるという報告がある。さらに、村津氏らの先行研究では、遅い時間の夕食摂取と並ぶ非健康的な食習慣とされる「朝食欠食」と蛋白尿リスクとの関連が、BMIが低いほど強固であることが示されている。これらから、食習慣による蛋白尿リスクへの影響は、BMIの高低によって異なる可能性が想定される。
以上を背景として村津氏らは今回、腎疾患のない集団において、遅い時間に夕食を摂取するという習慣と蛋白尿の有病率との関連を、BMIを考慮に入れて検討を行った。
2,000人強の健診受診者のデータを横断的に解析
解析対象は、2019年10月~2024年4月にりんくう総合医療センターで健診受診者から、腎機能低下(eGFR60mL/分/1.73m2未満)、腎疾患の既往、およびデータ欠落のある人を除外した2,127人(男性48.3%)を対象とした。
生活習慣に関する質問票の回答を基に、就寝前2時間以内に夕食を摂取する頻度が週3日以上の場合を「遅い時間の夕食摂取習慣あり」と定義した。蛋白尿については試験紙法で±以上と定義した。なお、試験紙法で±となる状態は、腎疾患および心血管疾患のリスクが上昇し始める、微量アルブミン尿レベル以上と考えられる。
解析は性別に行った。
男性の非肥満者では、遅い時間の夕食が蛋白尿のリスクの可能性
男性は平均年齢55±14歳で、BMIに基づき、22.3未満(32.4%)、22.3~24.9(30.4%)、24.9超(31.3%)の3群に層別化した。それら各群において、遅い時間の夕食摂取習慣がある割合は、24.9%、25.6%、36.3%だった。また、尿蛋白が±以上の割合は同順に、6.2%、6.7%、7.6%だった。なお、eGFRは各群の平均が約74~76mL/分/1.73m2の範囲であり、有意差はなかった。
遅い時間の夕食摂取習慣と蛋白尿の有病率との関連は、交絡因子(年齢、体重、喫煙・飲酒習慣、睡眠満足度、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心血管疾患の既往歴など)を調整後、BMIを考慮しない場合はオッズ比(OR)2.39(95%CI;1.42~4.03)と有意であり、夕食を就寝間際に摂取することが蛋白尿のリスクであることが示唆された。
次に、これを上記のBMIカテゴリー別にみると、BMI22.3未満ではOR3.57(1.34~9.48)、BMI22.3~24.9ではOR3.15(1.22~8.13)であり、この2群はいずれも、夕食を就寝間際に摂取することが蛋白尿のリスクとなっている可能性が示された。それに対してBMIが24.9超の群はOR1.75(0.74~4.15)であり、関連が非有意だった。
以上から、肥満でない(BMI25未満)男性が、遅い時間に夕食を摂取することは蛋白尿のリスクであると考えられた。
女性はBMIにかかわらず有意な関連なし
女性は平均年齢54±14歳で、BMIに基づき、20.3未満(34.9%)、20.3~23.0(31.0%)、23.0超(34.1%)の3群に層別化した。それら各群において、遅い時間の夕食摂取習慣がある割合は、13.3%、15.8%、18.9%だった。また、尿蛋白が±以上の割合は同順に、3.9%、1.8%、4.5%だった。eGFRは各群の平均が約76~78mL/分/1.73m2であり、有意差はなかった。
遅い時間の夕食摂取習慣と蛋白尿の有病率との関連は交絡因子を調整後、BMIを考慮しない場合、OR1.65(0.76~3.57)と非有意だった。さらにBMIカテゴリー別にみても、すべての群で有意な関連は観察されなかった。
以上から、女性はBMIにかかわらず、夕食を就寝間際に摂取する習慣と蛋白尿リスクとの関連はみられなかった。
BMIが基準値以下の男性の心腎疾患予防には、遅い時間の夕食の是正を
これらの結果について論文では先行研究からの知見を参照し、以下のような考察が述べられている。
まず、遅い時間の夕食摂取が蛋白尿リスクとなるメカニズムについては、就寝前の摂食により夜間睡眠中、血糖値が高い状態が続き、高血糖に伴う酸化ストレスなどを介した腎臓への負荷増大が考えられるという。また、女性ではこの影響が有意でない点については、本研究の対象において女性は夕食を遅い時間に摂取する習慣のある割合、および蛋白尿有病率が低く、関連性を見いだすには検出力が不十分であった可能性があること、加えて閉経前女性ではエストロゲンによりインスリン感受性が保たれ夜間の高血糖が抑制され、腎臓に対して保護的に働くというメカニズムも想定されるとしている。
そして、男性においてBMIがおおむね基準範囲以下の群でこの関連が有意であり、肥満者では有意でないことについては、肥満者で認められる腎機能への影響とは異なるメカニズムの関与が示唆されるとして、例えば、非肥満者の中には肥満者よりもβ細胞機能が低下していて食後の血糖変動が激しい一群が含まれているのではないかと述べられている。
本研究により、BMIが高くなく腎疾患のない男性では、遅い時間に夕食を摂るという習慣が、微量アルブミン尿以上の尿蛋白が現れている状態と有意な関連のあることが明らかになった。横断研究のため因果関係は不明だが、BMIが高くない男性は、夕食摂取時間に注意を要することが示唆された。
微量アルブミン尿は、腎機能低下や心血管疾患の早期マーカーと位置づけられている。著者らは、本研究が単施設のデータに基づく解析であること、蛋白尿リスクに影響を及ぼし得る薬剤、栄養素摂取量、夜間シフト勤務などを考慮していないことなどを限界点として挙げたうえで、「非肥満男性の遅い時間の夕食摂取習慣と蛋白尿の関連を示すエビデンスであり、腎疾患・心血管疾患予防のための公衆衛生戦略の策定に有用な知見が得られた」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Lower body mass index potentiates the association between late-night dinner and the prevalence of proteinuria」。〔Front Endocrinol (Lausanne). 2025 Nov 10: 16:1683354.〕 原文はこちら(Frontiers Media)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 6
炎症を促進する食事摂取パターンを有する高齢女性は、慢性疼痛を抱えている割合が高いことが明らかになった。東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループによる論文が「Archives of Gerontology and Geriatrics」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、とくに女性においては炎症を促進する可能性のある食品摂取を管理することが、慢性疼痛の予防に有効である可能性があるとしている。
研究背景:長引く痛みの一因として、炎症を促す食事バターンは関連があるのか?
近年、食生活と慢性疼痛※1の関連性に注目が集まっている。最近の報告では、不健全な食事摂取パターンと慢性疼痛の発症リスクは関連している可能性が示されている。また、慢性疼痛の背景には慢性炎症(軽度な炎症反応が長期間続く状態)が関与していると考えられている。炎症が持続すると炎症性の物質が神経を刺激して、痛みの感じ方を強めたり痛みを長引かせたりする可能性がある。
こうした知見から、体に炎症を起こしにくい抗炎症性の食事摂取パターンが慢性疼痛の予防に重要ではないかと考えられている。例えば炎症を促進する食事には、糖分や飽和脂肪酸を多く含むもの・炭水化物・加工肉などが挙げられる。一方、野菜や果物、食物繊維などは炎症を抑制する食材とされ、こうした食品を多く摂ることは炎症リスクが低い「抗炎症性の食事」といわれている。
食生活が身体の炎症に与える影響を客観的に評価する指標として、食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index;DII)※2が開発されている。DIIは各食品や栄養素の炎症への影響度を点数化したもので、食事全体が炎症をどの程度促すか(あるいは抑えるか)を示す尺度。DIIスコアの値が高いほどその食事は炎症を促す傾向が強く、逆に低い値ほど炎症を抑える傾向が強いことを意味する。
これまで、DIIスコアと各種疾患との関連が数多く研究されているが、高齢者において「炎症誘発性の食事パターン」と「慢性疼痛」の関連を調べた研究は限られていた。
本研究の目的と方法:DIIスコアと慢性疼痛、抑うつ傾向との関連を横断的に検討
本研究では、上述の背景を踏まえ、高齢者における炎症誘発性の食事と慢性疼痛の関連を明らかにすることを目的とした。とくに、性別や年齢層の違い、および抑うつ傾向の有無によって、その関連に違いがあるかを検討している。
研究方法は、地域在住高齢者を対象とした横断研究。対象となった高齢者に普段の食事内容をアンケートで回答してもらい、摂取している食品群や栄養素の情報から一人ひとりのDIIスコアを算出した。DIIスコアが高いほど炎症誘発性の食事パターン、低いほど抗炎症性の食事パターンとなる。併せて、各参加者の慢性疼痛の有無も調査した。慢性疼痛は肩、腰、膝のいずれかの部位に3カ月以上続く疼痛がある場合を「慢性疼痛がある」と定義した。また、対象者の性別、年齢のほか、抑うつ傾向について評価する質問紙(Geriatric Depression Scale;GDS)を用い、抑うつ傾向の有無も聴取した。
これらのデータの統計解析を行い、DIIスコアと慢性疼痛に関連がみられるかどうか、さらにその関連が性別や年齢層の違い、抑うつの有無によってどのように異なるかを検討した。
研究結果:DIIスコアの高い高齢女性は慢性疼痛が多く、うつ傾向との関連も
炎症誘発性の食事パターン(高いDIIスコア)である女性は男性よりも慢性疼痛を有する割合が高いことがわかった。また、80歳以上の女性グループでは、炎症誘発性の食事摂取パターンとなることで慢性疼痛を持つ割合が高くなることが明らかになった(図1)。
図1 女性の慢性疼痛の該当リスク
(出典:東京都健康長寿医療センター研究所)
さらに、抑うつ傾向のある高齢女性においても炎症誘発性の食事摂取パターンであることで、慢性疼痛の保有割合が高くなることが明らかになった(図2)。
図2 サブグループ解析
(出典:東京都健康長寿医療センター研究所)
研究成果の意義:栄養介入が長引く痛みの改善につながる可能性
本研究の成果は、高齢者の慢性疼痛に対する新たな予防策として「食事」に注目すべきことを示唆している。これまで、慢性疼痛へのアプローチとして、薬物療法、心理的介入、リハビリテーション、運動療法などが挙げられていた。しかし、本研究によって、日々の食生活が慢性疼痛に関連し得ることが示され、栄養・食事面からの新たな介入が慢性疼痛の予防や軽減に有効となる可能性がある。
プレスリリース
炎症を促す食事を多く摂る高齢女性は、慢性的な痛みを抱えている割合が高いことが明らかに(東京都健康長寿医療センター研究所)
文献情報
原題のタイトルは、「Association between pro-inflammatory dietary patterns and chronic pain in community-dwelling older」。〔Arch Gerontol Geriatr. 2026 Jan:140:106035〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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女性が妊娠中に高タンパク/低GIの食事を摂っていると、生まれた子どもが18歳に成長した時点でのBMIが有意に高くなる可能性が報告された。デンマークの出生コホートの大規模データを用いて行ったエミュレーションターゲット研究によるもの。これまでは、低GI食により妊娠中の体重増加が適正化され、出生した子どもの幼少期には好ましい影響を与えることを示唆する報告が散見されていたが、本研究ではそれが支持されず、子どもが成人する時期に至ると、逆に負の影響が現れることが示唆されている。
妊娠中の栄養素摂取と体重増加の関係と、子どもの健康への影響
妊娠前の過体重や肥満、および妊娠中の体重増加(gestational weight gain;GWG)の過剰は、胎児が在胎期間に比べて大きく(large-for-gestational-age;LGA)なることや巨大児出産のリスクにつながり、また生まれた子どもが後年、肥満傾向になりやすくなる可能性があると報告されている。
一方、グリセミックインデックス(glycemic index;GI)の低い食事は、糖負荷とインスリン分泌の刺激を抑えることなどにより、体重増加のリスクを抑制する。また、過体重または肥満の妊婦を対象に、高タンパク/低GIの食事介入を行った「APPROACH研究」では、GWGの抑制効果が認められ、またGWGと児の出生時のBMIのzスコアに正相関が認められた。しかしAPPROACH研究では、介入群では児が3~5歳に成長した時点での血清脂質マーカーに好ましくない影響も認められた。
このように、妊娠中の栄養素摂取量やGI値と児の体重変化や疾患リスクとの関連は不明点が多い。とくに、児の幼少期ではなく、一定程度成長した後の健康指標との関連は、研究に要する時間の長さなどの課題もあり、いっそう知見が乏しい。
これらを背景として、今回取り上げる論文の研究は、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)する研究手法で、観察研究でありながら介入効果を予測し得るターゲット試験エミュレーション研究として実施され、妊娠中の高タンパク/低GI食と、児が18歳に成長するまでの体重変化との関連が検討された。
ターゲット試験エミュレーション研究による検討
このターゲット試験エミュレーション研究は、デンマークで1996~2003年に約9万5,000組の母児を登録して行われている前向きコホート研究(Danish National Birth Cohort;DNBC)のデータを用いて行われた。DNBCにおいて妊婦は妊娠25週において、360項目の食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)による調査がされ、6万9,807人の妊婦が回答していた。
前述の先行研究であるAPPROACH研究の適格基準・除外基準に基づき、18歳以上の単胎出産で、アルコールや薬物を摂取しておらず、摂取エネルギー量が極端でない(この条件により除外されたのは約1%)、BMI25~45の女性1万7,551人(25.1%)のサブコホートを作成した。なお、APPROACH研究ではBMIの下限が28とされていたが、本研究では解析に必要な統計的検出力を得るため下限を下げており、また糖尿病や妊娠糖尿病を除外しないといった変更を行っている。
FFQに基づき、タンパク質摂取量が摂取エネルギー量の18%以上であり、かつ食事のGIが55以下の妊婦を高タンパク/低GI(high-protein, low-glycemic-index;HPLGI)群とし、タンパク質摂取量が摂取エネルギー量の18%未満かつ食事のGIが55を超える妊婦を中等度のタンパク質摂取量/中等度のGI(moderate-protein, moderate-glycemic-index;MPMGI)群として定義したところ、HPLGI群として372組、MPMGI群として6,643組のペアが該当した。
子どもの体重は出生から最長18歳になるまで追跡され、全体の約46%が18歳まで追跡可能だった。
14歳までは有意差はないが、18歳になると高タンパク/低GI群の児が高BMIに
結果について、まず母親の特徴をHPLGI群とMPMGI群で比較すると、前者は妊娠前体重、BMI、妊娠中の摂取エネルギー量が有意に高かった。出産時年齢、妊娠期間、妊娠中の体重増加(GWG)は有意差がなかった。
児の体重変化との関連については、調整する交絡因子により3種類のモデルで解析された。ここでは、最も多くの因子を調整しているモデル3の結果を紹介する。モデル3では、妊娠前のBMI、GWG、妊娠週数、社会経済的地位、出産回数、児の性別が調整されている。
解析の結果、出生時、5カ月後、1年、7年、11年、14年後までは、HPLGI群とMPMGI群の児の体重に有意差はなかった。しかし、18歳時点では、MPMGI群の児が73.5±0.14kgであるのに対して、HPLGI群の児は76.1±0.64kgであって、HPLGI群の児のほうが有意に重くなっていた(p<0.0001)。<>
BMIについても出生から14年後までは有意差がなかったが、18歳時点ではMPMGI群の児が23.92±0.05であるのに対して、HPLGI群の児は24.64±0.21kgであって、HPLGI群の児のほうが有意に高値だった(p=0.001)。BMIのzスコアも同様に、14年後までは有意差がなく、18歳時点でHPLGI群の児のほうが高い(0.54±0.02 vs 0.75±0.10)という有意差が生じていた(p=0.040)。
高タンパク食が低GIのメリットを相殺する?
著者らは本研究、およびAPPROACH研究で報告されていた幼児期の血清脂質への負の影響とあわせた考察として、「妊娠中の高タンパク/低GI食は母体の転帰にはプラスの影響を与える可能性があるものの、児の長期的な転帰には好ましくない影響を及ぼす可能性が示唆される」と述べている。
また、その理由としてさまざまな考察が加えられているが、その一つとして、タンパク質食品の摂取量が多いことにより食事としてのGI値は下がるが、高タンパクであることがそのメリットを相殺してしまう可能性もあるという。その根拠として、胎児期にタンパク質への曝露が多いと、出生後の食欲に影響が生じ、より多くのタンパク質を摂取しようとしてカロリー過剰になるという仮説、およびその仮説を部分的に支持する報告があるとしている。
ただし一方でタンパク質は胎児の成長に重要であり、さらにタンパク質や炭水化物以外の栄養素の多価の影響も考慮する必要があることから、論文の末尾は、「これらの知見を検証し、妊娠中の母親の食生活が児の健康状態に及ぼす潜在的なメカニズムと影響を明らかにするため、さらなる研究が必要」と結ばれている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association of a high-protein and low-glycemic-index diet during pregnancy with offspring growth and obesity until the age of 18 years – a target trial emulation」。〔Eur J Clin Nutr. 2025 Sep 25〕 原文はこちら(Springer Nature)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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どなたでも無料で参加可能な報告会を12月13日(土)に開催 子どもの体力・睡眠・食習慣など最新データで現状と未来を知る
神奈川県立保健福祉大学、横須賀市教育委員会、味の素株式会社は、横須賀市の児童生徒の健康と体力向上を目的とした産学官連携協定のもと、2024年度の成果を市民に公開する「公開成果報告会2025」を開催します。
開催日は 2025年12月13日(土)13時~15時30分、会場は神奈川県立保健福祉大学 横須賀キャンパス講堂です。参加費は無料で、地域住民の皆さまも参加できます。
この連携協定は、2024年4月1日に締結され、横須賀市内の小・中学生を対象に、体力や睡眠、生活習慣、味覚などに関する調査研究を継続的に実施し、その結果を分析して学校へ課題や改善点を提示する取り組みです。さらに、味の素株式会社が行っている食育事業も組み合わせることで、子どもの健康づくりをより包括的に支援しています。
子どもたちの健康に関心のある方は、ぜひご参加ください。
主な内容
今回の成果報告会では、以下のテーマで専門家による発表が行われます。地域の皆さまとともに学び、子どもたちの未来を考える場として、多くの方のご参加をお待ちしています。
- 研究の概要説明 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学研究科長 鈴木志保子 先生
- 体力と生活習慣との関係 鈴木志保子 先生
- 睡眠と生活習慣との関係 神奈川県立保健福祉大学実践教育センター専任教員兼保健福祉学部講師 中西朋子 先生
- 「お口ぽかん(口唇閉鎖不全)」の現状と課題 神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科講師 久保田 悠 先生
- 「5基本味体験キット」を用いた「味覚」の認識に関する現状 中西朋子 先生
- 今後の進め方 鈴木志保子 先生
- 主催者総括 味の素株式会社執行理事グローバルコミュニケーション部長 小笠原和子 氏
- 名称横須賀市児童生徒体力向上・健康増進に係る産学官連携協定 公開成果報告会2025
- 主催神奈川県立保健福祉大学、横須賀市教育委員会、味の素株式会社
- 日時2025年12月13日(土)13:00〜15:30
- 会場神奈川県立保健福祉大学 横須賀キャンパス講堂(横須賀市平成町1-10-1) アクセス
- 対象関係者および地域住民(参加無料)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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2025年8月23日(土)・24日(日)の2日間、東京・中央区立築地社会教育会館を会場に、小学校3~6年生とその保護者を対象にした、スポーツ栄養学&料理教室ワークショップ「パラアスリートと料理教室 おいしく食べて強くなろう!」が開催されました。
本イベントは、パラスポーツを応援する東京都のプロジェクト「TEAM BEYOND」が主催、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科の鈴木志保子研究科長が監修、味の素株式会社が協力。世界で活躍するパラ水泳の鈴木孝幸選手とブラインドサッカーの鳥居健人選手をゲストに、それぞれの選手の栄養サポートを行う公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生と秋葉美佳先生とともに、座学と料理教室で「パワー回復」や「強い身体作り」の秘訣を学びました。
参加したのは抽選で選ばれた約100名の親子で、1日目午前の回も夏休みの思い出や自由研究にと15組の親子が集いました。初日はパラ水泳の鈴木孝幸選手(以下、タカ選手)と公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(以下、志保子先生)のコンビが登壇。冒頭、ずっしりと大きな金・銀・銅メダルを見せてもらってから講義がスタートです。
食事と休養で、日々の回復を丁寧に行う
タカ選手は、6大会連続でパラリンピックに出場し、パリ2024パラリンピックでは4つのメダルを獲得しました。通算メダル獲得数は「14」。先天性四肢欠損症で、右腕の肘から先がなく、左手は指が二本と短い指が1本、右足は根本付近からなく、左足は膝下からありません。38歳となる現在も、さらなる肉体進化のために科学的なトレーニングと栄養学が欠かせないと言います。
「僕は1回の練習で約4km泳いでいます。こうした練習を継続するためには、栄養をしっかりとって、十分に睡眠を確保することが欠かせません。僕の場合は身体を大きくしたいというよりも、できるだけ疲労の少ない状態でトレーニングに取り組めるよう、日々の回復を丁寧に行う。疲れを癒し、食事と休養で体を整えることを意識しています」(タカ選手)
疲れた時、何を食べる?
日本パラリンピック委員会強化本部委員であり、車いすバスケットボールなど多くのパラアスリートの栄養サポートを長年行っている公認スポーツ栄養士・鈴木志保子先生(SNDJ理事長)から、「疲れた時に何を食べる?」という問いが投げかけられ、パワー回復メニューを子どもたちに発表してもらいました。
「まず給食を思い出して!身体のエネルギーとなるご飯やパン、麺類を“主食”と言います。次はおかず!肉や魚、卵、豆・豆製品を使ったおかずを“主菜”と言います。そして“副菜”と言われる野菜のおかず。それに果物や牛乳、ヨーグルトをつける。献立は、この5つのグループの食品をまんべんなくとるように考えます。では、カレーライスはどのグループ? ご飯があって、カレーには肉と野菜が入ってるから、1皿で主食・主菜・副菜がとれる。これにサラダと牛乳と果物をつけると栄養バランスのよい食事になります」(志保子先生)
食材シールを使って、パワー回復できる最強ごはんプレートを子どもたちに考えてもらいました
「疲れている時には何を食べるか? すごく疲れているときは胃腸も疲れているので、消化の負担になるようなメニューをなるべく避けること。脂っこくなくて消化吸収が早いものを選び、脂っぽいものは練習がない日に食べて消化吸収を促します。ふつうは、練習をしてない日は動いてないから脂っぽいものは食べないようにしようと思うものですが、トップアスリートになると、その日の運動量と自分の身体と相談して、消化吸収の状態を見ながらメニューを考えます。
でも、一番大切なのは“おいしく食べること!”。では、なんで“おいしく食べる”のがいいかわかる? おいしく食べると胃腸の消化吸収がよくなるんです。お母さんとかに怒られながら食べると消化吸収が悪くなるから気をつけて(笑)」と志保子先生。
器用にトマトを切るタカ選手!
後半は、「パワー回復レシピ」として、タカ選手が大好きな麻婆豆腐をつくります。まず、タカ選手が作り方をレクチャー。車いすに立ったまま慣れた手つきで豆腐を切り、フライパンでひき肉を炒め、豆腐やネギ、調味液を絡めて仕上げていきます。会場に漂うおいしそうな香り!そしてもう一品、トマトとブロッコリーのサラダを作ります。どうやって片手でトマトを切るの? とみんなが見守ります。タカ選手はここでも器用にトマトをスライスして盛り付けました。できあがあったら、参加者も料理スタート。親子で仲良く麻婆豆腐をつくり、試食タイムへ。
成長期はしっかり食べよう!
食後は質問タイム。あるお母さんから、子どもでも太らないように意識したほうがよいのか、という問いかけに志保子先生は答えます。
「文部科学省のデータでは、女子は小学校5~6年生の時期に身長が最も伸びやすいとされ、個人差はあるものの早い子は4年生ごろから、遅い子は6年生から中学1年生ごろにかけて成長のスパートが始まります。一方、男子は中学でスパートがかかることが多い。この重要な時期には、過度に運動量を増やすのではなく、まず「しっかり食べる」ことが不可欠です。身長が伸びれば体重が増えるのは自然なことで、身長だけが伸びて体重が増えないのは、いわば中身の伴わない成長と同じ。成長に必要なエネルギーが不足すると、身長の伸びが抑えられてしまう可能性もあります。したがって、「少し太ってしまうかも」と感じる程度であっても、成長期には十分な量を食べることが望ましいのです。特に主食(ご飯)を中心に、どれくらい食べるかの目安を決めてとってください。成長曲線をつけて成長スパートを把握することも大切です」
成長曲線分析・予測ツール
最後に、志保子先生とタカ選手からのメッセージです。
志保子先生「みんな、自分は何kgで生まれたかお母さんに聞いてみてください。いま何倍になっていますか? どうやって大きくなった? そう、栄養のあるものを食べたから。食べないと大きくならないんですよ。その食べ物を自分のためにどれだけ入れるか入れないかで自分の一生が変わってくる。身体は自分が食べたものでできているんです。美味しく食べて、しっかり大きくなって、自分のやりたいことを思い切りやってください!」
タカ選手「みなさんと2時間楽しく過ごすことができました。今日得た栄養の学びをぜひ、日々の生活に生かしてもらいたいと思います。僕もこれから、9月は世界選手権(シンガポール)がありますし、来年は日本(名古屋)でアジアパラ競技大会も開催されるので、がんばります!みんな応援よろしくお願いします!」
世界で活躍するパラアスリートとスポーツ栄養士から、最新のスポーツ栄養学に基づいた食や栄養摂取の考え方を学び、一緒に料理を作れて楽しかったと参加者たちは嬉しそうに帰っていきました。
「TEAM BEYOND」とは
「TEAM BEYOND」はパラスポーツへの関心を高め、応援する人を増やす東京都のプロジェクトで、2016年からスタートし今年で10年を迎えます。東京2020パラリンピック以降も、ダイバーシティ実現を目標に様々な活動が展開されています。「TEAM BEYOND」を通じたパラスポーツへの理解を広める活動は今後も続きますので、機会があれば皆さんもご参加を!
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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オリンピックに出場経験のあるアスリートの引退後の健康状態を、一般住民と比較検討した結果が英国から報告された。元アスリートは、肥満、糖尿病、狭心症、脳卒中などが少なく、また女性の元アスリートで骨粗鬆症の有病率の低下なども認められた。その一方で、メラノーマ(黒色腫)を含む皮膚癌と変形性関節症の有病率は一般人口よりも高いという。
高強度のトレーニングを続けていたアスリートの引退後の健康状態は?
運動が健康増進に有益であることは疑いないものの、トップアスリートが行う高強度・高負荷のトレーニングも、健康増進のための運動と同様の効果があるのかという点は興味深い疑問であり、死亡リスクからこの疑問について検討した研究結果がいくつか報告されている。しかし、疾患の有病率を一般住民と比較した研究の報告は限られている。
英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態を比較
この研究では、英国の元オリンピアンと一般住民の健康状態が、横断的に比較された。 英国オリンピック協会を通じて、過去の夏季および冬季オリンピックで国家代表選手となった経歴のあるアスリートのうち連絡先が明らかな2,742人に、郵送またはメールにてアプローチし、健康状態に関する質問への回答を依頼。743人(27.1%)から回答を得られ、引退していない選手および50歳未満の元選手を除外し、493人を解析対象とした。
一方、一般住民については、英国で実施されている50歳以上の地域住民対象の加齢に関する前向きコホート研究である「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」の第6波の参加者10万601人から、元アスリート集団と比較する項目に含めた関節の状態などに関するデータに欠落のない8,024人を解析対象とした。
元アスリートは一般住民に比べて疾患を有する割合は低いが薬剤使用中の割合は高い
解析対象者は合計8,517人で、おもな特徴は、年齢67.1±9.7歳、女性54.0%、BMI28.1±5.2、何らかの疾患を有している割合76.5%、何らかの薬剤を使用している割合49.8%、多剤併用(5剤以上)中の割合1.0%だった。 これを元アスリートと一般住民とで比較すると、年齢には有意差がなく、女性の割合は一般住民のほうが高く(35.7 vs 55.2%)、BMIは元アスリートのほうが低かった(25.0±4.0 vs 28.3±5.3)。また、何らかの疾患を有している割合は一般住民のほうが高い一方で(66.1 vs 77.1%)、何らかの薬剤を使用している割合(56.0 vs 49.4%)や多剤併用中の割合(6.5 vs 0.7%)は、いずれも元アスリートのほうが高かった。
アスリートは引退後の皮膚癌リスクが高い可能性
疾患の有病率については、アスリートにおける有病率が1%以上の疾患について、一般住民と比較した。 年齢と性別を調整した標準化罹患率比(standardized morbidity ratios;SMR〈研究デザイン上は「有病率比」と解釈されるが論文に従い表記〉)を算出。その結果、主として心血管代謝疾患については元アスリートで少なく、皮膚癌と変形性関節症については元アスリートに多くみられた。詳細は以下のとおり。
なお、統計学的有意性は、一般的な95%信頼区間ではなく99%信頼区間により判定されている。
元アスリートのほうがSMRの低い疾患
- 肥満
- SMR0.35(99%信頼区間0.23~0.50)。性別の解析ではいずれも有意。
- 糖尿病
- SMR0.43(同0.22~0.74)。性別の解析ではいずれも有意。
- 脳卒中
- SMR0.39(0.12~0.90)。性別の解析ではいずれも有意。
- 狭心症
- SMR0.18(0.05~0.46)。性別にみると男性はSMR0.23(0.06~0.60)、女性は元アスリートでの発症がわずかであるため解析されていない。
- 不整脈
- 性別の解析で女性はSMR0.45(0.40~0.54)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
- 喘息
- SMR0.29(0.12~0.59)。性別の解析ではいずれも有意。
- 慢性閉塞性肺疾患
- SMR0.29(0.06~0.81)。性別の解析では女性はSMR0.21(同0.13~0.36)、男性は非有意。
- 骨粗鬆症
- 性別の解析で女性はSMR0.46(0.42~0.51)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
- 関節リウマチ
- 性別の解析で女性はSMR0.24(0.03~0.88)。全体解析および男性のみの解析では非有意。
- 緑内障
- SMR0.06(0.01~0.18)。性別の解析ではいずれも有意。
元アスリートのほうがSMRの高い疾患
- メラノーマを含む皮膚癌
- SMR5.64(2.80~10.06)。性別の解析ではいずれも有意。
- 癌(皮膚癌、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌のいずれか)
- SMR2.14(1.52~2.91)。性別の解析ではいずれも有意。
- 変形性関節症
- SMR1.44(1.18~1.75)。性別の解析ではいずれも有意。
このほか、高血圧、心筋梗塞、大腸癌・膀胱癌、前立腺癌、乳癌、不安、うつに関しては、SMRの99%信頼区間が1をまたぎ、一般住民との有病率に有意差がなかった。著者らは、「引退後の元アスリートの皮膚癌と変形性関節症のリスクを抑制するために、的を絞った予防戦略の実施が望まれる」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Health among Retired Great Britain’s Olympic Athletes: A cross-sectional Study of Disease and Multimorbidity」。〔Sports Med Open. 2025 Aug 7;11(1):93〕 原文はこちら(Springer Nature)
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代表的なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷※1の際に起きる細胞老化※2および炎症を促進する作用とその分子機構が解明された。エライジン酸を摂取したマウスでは、代謝関連脂肪肝疾患(MASLD)※3の発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進するという。東北大学などの研究グループの研究によるもので、「iScience」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、「動脈硬化症やMASLDをはじめとした、トランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながることが期待される」としている。
研究の概要:トランス脂肪酸がDNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進する
一部の加工食品に含まれるエライジン酸などのトランス脂肪酸の摂取は、過去の疫学的知見から、動脈硬化症や生活習慣病(MASLDなど)をはじめとした、加齢や炎症が関連する疾患のリスク因子とされてきたが、炎症誘導の詳細な分子機構は不明だった。東北大学大学院薬学研究科、帝京大学薬学部、静岡県立大学薬学部、岩手医科大学薬学部の共同研究グループは、最も主要なトランス脂肪酸であるエライジン酸が、DNA損傷の際に起きる細胞老化および炎症を促進することを発見した。
エライジン酸は細胞膜上の脂質ラフト※4と呼ばれる膜上の微少領域に取り込まれ、この領域内にサイトカインIL-1受容体を集積させることで、受容体下流における炎症誘導シグナルの活性化を増強し、細胞老化や炎症反応を増幅することが明らかになった。エライジン酸を摂取させたマウスでは、心血管疾患や肝がんの引き金となるMASLDの発症時に、肝臓の細胞老化および炎症が亢進した。動脈硬化症やMASLDなどのトランス脂肪酸関連疾患の画期的な予防・治療戦略の開発につながる重要な研究成果といえる。
詳細な説明:代表的な人工型であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有している
研究の背景:人工型でなく、天然型のトランス脂肪酸の分子機構は未解明
トランス脂肪酸は、トランス型の炭素-炭素間二重結合を一つ以上含む脂肪酸の総称。食用油脂の製造・加工過程で副産物として産生され、一部の加工食品に含有されるエライジン酸などの「人工型」トランス脂肪酸は、過去の疫学調査を中心とした知見から、動脈硬化症、神経変性疾患、生活習慣病(糖尿病、MASLD)などの加齢や炎症が関連する諸疾患のリスクファクターとなることが示唆されている。欧米諸国ではこれまでに、食品中含有量の制限等の規制も導入されてきた。
一方、主にウシなどの反芻動物の胃の中の微生物によって産生され、乳製品や牛肉などに多く含まれるトランスバクセン酸などの「天然型」トランス脂肪酸については、上記疾患との疫学的関連性は低いものの、実際の毒性の有無については科学的根拠が乏しいのが現状。その主な要因は、トランス脂肪酸摂取に伴う関連疾患の発症・増悪の詳細な分子機構についての理解が十分に進んでいないことにある。
研究の概要:エライジン酸が細胞老化・炎症を促す分子機構を解明
研究グループは、トランス脂肪酸関連疾患全般に細胞老化および炎症が共通して密接に関与することに着目して、U2OS(ヒト骨肉腫)などの細胞株にエライジン酸を前処置して、予め細胞内に取り込ませたうえでDNA損傷を与え、細胞老化を誘導した。その結果、エライジン酸存在下では、細胞老化およびそれに伴うIL-1α、IL-6、IL-8などの炎症促進因子の産生が亢進した。本作用は、エライジン酸の幾何異性体にあたるオレイン酸(天然に豊富に存在するシス型二重結合を有する脂肪酸)、あるいは食品中に含まれるエライジン酸以外の主要なトランス脂肪酸4種類ではいずれも認められなかったことから、エライジン酸特有の作用であることが判明した。
詳細な解析から、DNA損傷時に、エライジン酸が炎症関連因子の発現誘導に主要に寄与する転写因子NF-κBの活性化を促進すること、その上流で働くキナーゼ分子群TAK1、IKKの活性化が増強することを見いだした。そこで、TAK1/IKK/NF-κB経路※5の最上流にあたるIL-1受容体の関与を想定し、その活性化に重要とされる細胞膜上の脂質ラフトと呼ばれる膜上の微少領域に着目した。
エライジン酸存在下では、IL-1αによるリガンド刺激時のIL-6/8の発現が上昇したこと、メチル-β-シクロデキストリン処置による薬理的な脂質ラフトの除去によって、IKKやNF-κBの活性化が抑制されたことから、IL-1受容体および脂質ラフトの寄与が確認できた。さらに、脂質ラフト画分を生化学的に分離して脂質解析を行ったところ、細胞に添加したエライジン酸が実際に脂質ラフト画分に効率よく取り込まれることが確認され、エライジン酸存在下では、同画分中におけるIL-1受容体の存在量が有意に増加していた。
以上の結果から、エライジン酸は脂質ラフトに取り込まれることで、IL-1受容体を同領域内に集積させ、IL-1リガンド刺激に伴うNFκBの活性化を増強することでIL-1α/6/8の産生を促進することが明らかとなり、細胞老化および炎症を正のフィードバック機構によって促進する一連の分子機構が解明された(図1)。
図1 エライジン酸による細胞老化および炎症の促進機構
(出典:東北大学)
さらに、野生型マウス(C57BL/6J)に12週間高脂肪食を与えることでMASLDを誘導した際の餌中のエライジン酸の有無が本病態に与える影響を解析したところ、エライジン酸摂取時には、肝臓における老化細胞数、およびIL-1βやcol1a1などの炎症や肝臓線維化にかかわる遺伝子群の発現の有意な増加が認められた。したがって、エライジン酸の摂取に伴い、MASLD発症時に、実際に肝臓における細胞老化および炎症が亢進することが、マウス個体レベルでの実験でも確認できた。
社会的意義と今後の展望:関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案に期待
トランス脂肪酸関連疾患には細胞死も深く関与するが、同研究グループを中心に、エライジン酸などの人工型トランス脂肪酸が細胞死を促進することが示され、その分子機構について解明が進んできた。その一方で、トランス脂肪酸摂取と全身性炎症(血中の炎症マーカーCRPの増加)の関連性を示した知見や、トランス脂肪酸が実際に炎症を誘導・促進することを示した細胞・個体レベルでの知見は存在するが、その背景にある具体的な分子機構については謎に包まれていた。
本研究成果は、トランス脂肪酸による炎症誘導・促進メカニズム、および老化や関連疾患の発症・増悪機構の全容解明につながる重要な基礎的知見として位置付けられる。また、トランス脂肪酸の中でも、代表的な「人工型」であるエライジン酸のみが炎症促進作用を有していたことから、乳製品や牛肉に含まれる天然型のトランス脂肪酸については過度に注意する必要はない一方で、人工型トランス脂肪酸の食品中含有量や摂取量について引き続き注視していく必要があると考えられる。
なお、本研究成果は、あくまでもがん細胞株を利用した分子メカニズムの解析、マウスを利用した個体レベルでの解析の結果に基づくもの。したがって、実際の生理的な条件、具体的には、正常な細胞やヒトの体内において、本知見によって得られた分子機構や現象が同様に認められるか否かについては、今後のさらなる調査や検証が必要であり、今回得られた知見に関しては、そのような観点から、慎重な解釈が必要。今後、トランス脂肪酸による細胞老化や炎症の誘導・促進作用に関する研究や解明が進むことで、関連疾患の予防・治療戦略の開発や提案につながることが期待される。
プレスリリース
トランス脂肪酸が老化・炎症を促進する分子メカニズムを発見 -生活習慣病の発症予防・治療戦略の開発に期待-(東北大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Elaidic acid drives cellular senescence and inflammation via lipid raft-mediated IL-1R signaling」。〔iScience. 2025 Aug 6;28(9):113305〕 原文はこちら(Elsevier)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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神経性過食症の女性患者を対象とする、全国6大学の付属病院とナショナルセンター1施設による多施設共同ランダム化比較試験の結果、治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性をアジアで初めて、また世界で2例目として実証された。「JAMA Network Open」に論文が掲載されるとともに、関係機関のサイトにプレスリリースが発表された。この介入により、過食や代償行動のエピソードが減少し、寛解率も向上することが明らかにされたという。著者らは「病院に通う負担を軽減し、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の広い活用が期待される」としている。
研究の概要:治療アクセスが限られている過食症患者にオンラインで専門治療を提供
神経性過食症は、深刻な健康障害を伴う精神疾患だが、科学的根拠のある認知行動療法を提供可能な施設は都市部に偏在しており、専門家も少ないため、専門的な治療を受ける機会のない患者が多数存在する。このような問題を解決するため、日本文化に合わせた治療者誘導型オンライン認知行動療法が開発され、その有効性が全国6大学病院、1ナショナルセンターによる多施設共同ランダム化比較試験で検証された。
外来診療中の神経性過食症と診断された女性61人を対象とする研究の結果、通常治療のみのグループ(外来診療のみ)に比べて、治療者誘導型オンライン認知行動療法グループは、過食と代償行動(嘔吐・下剤乱用など)の回数が顕著に減少したことを、アジア圏で初めて実証した。これは2024年7月のドイツの研究チームの報告に次いで、世界で2番目の報告。
これにより、外来通院の負担を減らし、自宅で専門的な治療を受けられる新たな選択肢として、治療者誘導型オンライン認知行動療法の普及が期待される。
研究の背景と経緯:日本の文化を考慮したオンライン認知行動療法の模索
神経性過食症は有病率が増加しつつあり、慢性化や深刻な身体的・心理的な健康障害を引き起こすリスクを伴う。しかし、効果的な治療を受けられる機会は依然として限られている。
とくに日本を含むアジア圏では、神経性過食症の女性を対象とした治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性や受容性が十分に検証されていなかった。そこで本研究では、日本文化に適応させた治療者誘導型オンライン認知行動療法の有効性と受容性を、日本全国の多施設共同研究で科学的に評価した。
研究の内容:通常治療に比べ、過食や代償行動の合計頻度が有意に減少、寛解率向上
本ランダム化比較試験は、スウェーデンのリンショーピング大学の協力を得て、2022年8月~2024年10月まで、日本国内の6大学病院、1ナショナルセンター(福井大学、鹿児島大学、東北大学、千葉大学、徳島大学、獨協医科大学埼玉医療センター、国立精神・神経医療研究センター)で実施した。対象は、DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fifth edition;精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で神経性過食症と診断され、BMIが17.5以上で、インターネット環境があり、過去2年間に同様の治療を受けていない13~65歳の女性。
合計61人が本臨床試験に参加し、治療者誘導型オンライン認知行動療法を加えたグループ(31人)と、通常治療のみのグループ(30人)に分けられた。平均年齢は27.8歳、平均BMIは21.1、平均病歴は9.3年で、約半数が就業者だった。
治療者誘導型オンライン認知行動療法を受けたグループでは、通常治療のみのグループに比べ、過食や代償行動の合計頻度の減少が統計的に有意に大きく(平均約10回減少)、重症度の改善が確認された(図1)。さらに、寛解率も統計的に有意に高くなった(約45~55% vs 約13%、図2)。
図1 過食および代償行動エピソード数の12週間後の変化
(出典:徳島大学)
図2 各グループにおける寛解した患者の割合
摂食障害評価質問票(EDE-Q)の基準値(<2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual class="textR">(出典:徳島大学)2.34および<2.80)に基づき、寛解した患者の割合を示している。治療者誘導型オンライン認知行動療法(icbt)群では、いずれのカットオフでも寛解率が約45~55%と高く、通常治療群(usual>
本研究の結果から、外来診療中の神経性過食症の女性に治療者誘導型オンライン認知行動療法を提供することで、重症度が改善すること、そして寛解者が増えることが示唆された。
この治療法は、自宅で専門的な治療を受けることができる新しい選択肢として、今後の活用が期待される。著者らは、「より幅広い患者への対応や長期的な効果の確認を進めていき、地域による専門治療提供の障壁を取り除き、誰もが適切な治療を受けることのできる社会を目指していく」と述べている。
原題のタイトルは、「Guided Internet-Based Cognitive Behavior Therapy for Women With Bulimia Nervosa: A Randomized Clinical Trial」。〔JAMA Netw Open. 2025 Aug 1;8(8):e2525165.〕 原文はこちら(American Medical Association)
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中国の800人以上のレクリエーションランナーを対象に行われた、レース中の消化器症状に関する調査の結果が報告された。4人に1人以上が消化器症状を来すこと、女性より男性に多いこと、レース前とレース中の食事が症状発現に関係していることなどが示されている。
長距離レースではエネルギー摂取が需要だが、それが消化器症状を招きがち
持久系競技では長時間にわたるレース中にエネルギーを枯渇させないことが結果を大きく左右し、とくに炭水化物の摂り方が重要となる。しかし、食事の摂取がレース中の消化器症状の発現に関与していることも知られている。これは、運動中には筋肉への血流が優先され、消化管の血流が不足することが原因と考えられている。
レース中の消化器症状を抑制し、かつエネルギー需要を満たすための栄養戦略の模索が続けられているが、消化器症状の発現には日常の食習慣も関与している可能性がある。今回取り上げる論文の著者によると、長距離ランナーの消化器症状に関するこれまでの研究の多くは、動物性食品中心で高脂肪食であることの多い欧米で行われてきており、植物性食品中心で高繊維であることの多い中国人での研究は少ないという。
これを背景に著者らは、中国国内の長距離ランナーの食習慣とレース中の消化器症状について、横断的な調査を行った。日本人の食習慣も、調理法という点では炒める・揚げるの多い中国とやや異なるものの伝統的に植物性食品が中心であり、欧米での研究に比べ参考になる点が多いかもしれない。
800人のレクリエーションランナーを対象に調査
この研究は、中国の長距離ランナーの栄養状態を把握する目的で実施されている大規模調査「中国マラソン栄養調査(China Marathon Nutrition Survey;CMNS)」のサブスタディとして、2024年に実施された。研究参加の適格基準は、フルマラソン、ハーフマラソン、10km走、トレイルランニングなどの長距離競技大会に参加経験がある18歳以上のランナー。重度の疾患有病者、代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者、妊婦・授乳中女性などは除外した。
レース中の消化器症状については、精度検証済みの質問票(Gastrointestinal Symptom Rating Scale;GSRS)を用いて評価した。GSRSでは、腹部膨満感、腹痛、便意などの11項目の症状を7段階のリッカート尺度(症状なしは1、最も重度の不快感は7)でスコア化する。
好発症状やその関連因子などが明らかに
オンライン、オフラインにより計929人が回答し、データ欠落等を除外して805人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢39.7±10.0歳、男性74.9%、BMI22.6±4.3で、ふだん参加している競技はマラソンが42.5%、ハーフマラソン64.6%、その他9.3%。トレーニング歴は5年未満が60.7%、1カ月の走行距離は100~200kmが43%、大会参加回数は5回未満が40.4%だった。
性別により好発症状がやや異なる
全体の26.1%のランナーが、レース中に消化器症状を経験したと回答した。最も一般的な症状は、膨満感(18.6%)、便意(17.8%)、および腹痛(16.5%)だった。
症状の出現率は性別によって異なり、男性の上部消化管症状として膨満感(19.6%)と腹痛(18.1%)、下部消化管症状として便意(18.9%)と下痢(16.9%)が多く、女性では上部消化管症状として膨満感(15.8%)と腹痛およびげっぷ(ともに11.9%)、下部消化管症状として便意(14.4%)、脇腹の痛み(12.4%)が多かった。
レースの中盤に最も症状が現れやすい
消化器症状の出現頻度と重症度はレースのステージによって異なっていた。
症状はレース中盤で最も多く現れ(30.0%)、また重症度スコアもレース中盤が最も高かった(2.43±0.22)。レース終盤になると症状の出現頻度は低下したが(16.7%)、症状は引き続き比較的強いと報告された(2.26±0.29)。性別で比較すると、女性は男性よりもレースの序盤での症状発現が多かった。
症状発現との関連因子
消化器症状の発現に関連のある因子を検討すると、複数の有意な因子が特定された。
まず、男性は女性よりも症状を経験している割合が高く(27.9 vs 20.8%、p=0.048)、年齢については34歳以下の場合にその割合が高かった(p=0.014)。最も有意性の強い因子は、胃炎、機能性消化不良、過敏性腸症候群、慢性便秘など、臨床的に診断された状態または自覚症状の既往歴だった(p<0.001)。<>
ランニングの経験年数、トレーニングレベル、レース歴、レース前の睡眠およびストレスレベルとの有意な関連は認められなかった。
栄養戦略との関連
回避する食品
大半のランナーが消化器症状のリスク抑制のため、何らかの食品の摂取を制限していて、制限をしていないとの回答はわずか5.5%だった。摂取を避けるとの回答が多い食品は、魚介類(47.5%)、赤身肉(26.2%)、豆類(25.3%)、乳製品(24.1%)、紅茶/コーヒー(19.4%)であり、一方で、エナジーバー/ジェル(3.1%)、エナジードリンク(3.2%)、スポーツドリンク(4.8%)を回避するとの回答は少数だった。
摂取タイミング
レース前の食事のタイミングも消化器症状の発現に影響を与えていた。レース開始30分以内の食事は、腹部膨満感(p=0.017)、便意(p=0.040)、鼓腸(p=0.011)の増加と有意に関連していた。また、レース中に消化器症状を経験したランナーは、レース後に食欲不振を報告する可能性が高く(p<0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。<>
消化器症状を訴えたランナーの76.2%が、症状がパフォーマンスに悪影響を及ぼしていると回答した。症状出現時の対策として最も一般的なものは、走行ペースを落とすが76.2%、歩くまたは休憩をとるが41.0%であり、53.8%がこれらの対策を効果的と感じていた。症状を経験することのあるランナーの3%は、症状緩和を目的として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用していると回答した。なお著者らは、NSAIDsの使用には腸の健康への潜在的なリスクを示唆する研究があると付記している。
消化器症状に関する情報源については、42.2%がソーシャルメディアに頼っていると回答し、次いで書籍や雑誌が37.8%、友人や家族との会話が31.8%だった。
論文の結論は、「本研究の結果はレクリエーションランナーの消化器症状を軽減するために、個別化された食事計画の重要性を強調している。レース前の食事のタイミングを調整し、特定の食品を避けることで、不快感を軽減できる可能性がある。今後の研究では、持久系競技におけるアスリートの健康とパフォーマンスを向上させるための、個々のランナーに合わせた栄養とトレーニングのアプローチを探求する必要がある」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Gastrointestinal symptoms among recreational long distance runners in China: prevalence, severity, and contributing factors」。〔Front Nutr. 2025 Jul 23:12:1589344〕 原文はこちら(Frontiers Media)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
0.001)、この点は回復への影響という点でも対策を要する事項と考えられた。<>0.001)。<>Page 14
思春期におけるインターネット依存やソーシャルメディア使用障害は、食事の質の低下を介して摂食障害のリスク上昇と関連しているとする研究結果が報告された。トルコの高校生を対象とする横断研究の媒介分析とネットワーク分析からの知見であり、著者らはネット依存をターゲットとする介入が、この世代の食習慣と精神的健康を向上させ得ると述べている。
思春期のネット依存や食習慣の乱れは、後年の健康にも影響を及ぼす可能性がある
思春期は心理社会的発達の重要な時期であり、保護者の影響力の低下、および、感受性の高まりにより仲間から受ける力の上昇によって行動パターンが形成され、それが精神的・および身体的健康を左右する。思春期の行動パターンのうち、乱れた食行動(disordered eating;DE)は、有病率の高さと影響の及ぶ範囲の広さから、とくに重要な懸念事項として浮上している。最近のシステマティックレビューとメタ分析では、思春期の約22%に乱れた食行動(DE)がみられると推定されている。DEはしばしば、食事制限、過食、体型への過度なこだわりと結びつき、摂食障害(eating disorders;ED)のリスクと関連している。
一方、思春期のもう一つの問題として近年、インターネット依存症とソーシャルメディア使用障害の双方を含めた、問題のあるインターネットの使用(problematic internet use;PIU)の重要性が指摘されるようになった。PIUは、感受性とアイデンティティー形成が進む思春期において不適応な行動を増やすと考えられており、かつDEの修正可能な危険因子として報告されている。
他方、健康的な食習慣を含む健康的なライフスタイルは、ストレスや不安を軽減し、感情を安定させることが示されている。よって、健康的な食生活を守ることは、DEとPIU双方のリスクを抑制する可能性がある。
健康的な食習慣のパターンとして、地中海食が世界中で広く知られ実践されている。大うつ病性障害を含む精神疾患の治療における地中海食の有効性に関するエビデンスも存在し、さらに思春期世代の心理的苦痛の軽減や自己管理力との関連の報告もある。
以上を背景として本論文の著者らは、地中海食の実践状況で評価した食事の質が、思春期の子どものPIUの少なさやDEリスクと関連している可能性を想定し、以下の研究を行った。研究仮説として、(1)PIUはDEリスクと正の相関関係にある一方、食事の質は負の相関関係がある、(2)食事の質はPIUとDEリスクの関係を媒介する――という2項目が設定された。
トルコ国内の高校生を対象に横断調査を行い、媒介分析およびネットワーク分析
研究対象は、トルコ国内から無作為に選ばれた高校3校の生徒647人。乱れた食行動(DE)または問題のあるインターネットの使用(PIU)のため治療中の生徒、出席していない生徒、保護者の同意のない生徒は除外されている。なお、事前の統計学的検討で、この仮説の検証に必要なサンプルサイズは631と計算されていた。
PIUやDEのリスク、食事の質などの評価には次項に挙げる、いずれも精度検証済みの評価法を用いた。
解析対象となった高校生の特徴
解析対象者のおもな特徴は、年齢16.0±0.90歳、男子46%で、BMIは20.8±3.0であり、31%が低体重、11%が過体重・肥満だった。
摂食態度調査票(Eating Attitudes Test;EAT-26)は26項目で、それぞれ0~4点のリッカートスコアで回答し、合計20点以上の場合、乱れた食行動(DE)のリスクありと判定する。本研究では平均13.1±11.0点であり、20点以上でDEリスクありとされたのは18.2%だった。
若年者対象インターネット依存度テスト短縮版(Young Internet Addiction Test;YIAT-SF)は、12項目でそれぞれ1~5点のリッカートスコアで回答し、スコアが高いほど依存度が高いと判定する。本研究では平均31.3±9.6点であり、乱れた食行動(DE)リスクの有無で比較すると、DEリスクなし群(30.0±9.0点)に比較しDEリスクあり群(36.0±10.64点)は、スコアが有意に高かった(p<0.001)。<>
ソーシャルメディア障害(Social media disorder;SMD)尺度は、9項目の質問の5項目以上に該当する場合に、ソーシャルメディア障害と判定する。本研究での平均該当項目数は3.1±2.3であり、乱れた食行動(DE)リスクなし群(2.9±2.2)に比較しDEリスクあり群(4.1±2.5)は該当項目数が有意に多かった(p<0.001)。<>
地中海食品質指数(Mediterranean Diet Quality Index;KIDMED)は16項目からなり、3点以下は食事の質が悪い、4~7点は改善が必要、8~12点は食事の質が良いと判定する。本研究では平均4.4±2.3点であり、DEリスクなし群(4.3±2.3点)に比較しDEリスクあり群(5.0±2.4点)は、スコアが有意に高かった(p=0.004)。
このほかに、DEリスクの有無で、性別の分布(女子の割合)、世帯収入、父親の教育歴、および、1日のネット利用が2時間以上の割合については有意差がなかったものの、母親の教育歴に有意差がみられ、DEリスクあり群で大学・大学院以上の割合が有意に高かった(18.0 vs 28.0%、p=0.04)。
ネット依存度と乱れた食行動のリスクとが有意に正相関
前記の各指標の相関を検討すると、若年者対象インターネット依存度(YIAT-SF)とソーシャルメディア障害(SMD)との間に強い正相関が認められた(r=0.679、p<0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>
このほかに媒介分析からは、問題のあるインターネットの使用(PIU)は地中海食品質指数(KIDMED)の低さ(β=-0.12、p=0.002)と関連しており、地中海食の遵守が乱れた食行動(DE)のリスクの上昇(β=0.15、p<0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>
ネットワーク分析から、YIAT-SFはDEリスク、SMD、およびKIDMEDをつなぐ中核的な因子であることが示唆された。
これら一連の結果を基に論文の結論は、「インターネット依存症は、食生活の質を介した乱れた食行動のリスク上昇と関連しており、思春期世代への介入において、この課題への対処が求められる」とされている。また著者らはこのトピックに関する、より長期にわたる研究の必要性を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The interaction between problematic internet use, diet quality, and disordered eating risk in adolescents: a mediation and network analysis」。〔Eat Weight Disord. 2025 Aug 4;30(1):61〕 原文はこちら(Springer Nature)
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0.001)と関連していることが示された。間接効果は有意であり(β=-0.02、p=0.016)、部分的な媒介効果が認められた。<>0.001)。また、乱れた食行動(de)リスクは、yiat-sf(r=0.300)およびsmd(r=0.274)と中程度の正相関があり、地中海食品質指数(kidmed)とは弱い正相関(r=0.153)が認められた(すべてp<0.001)。一方、bmiはすべての行動指標とも有意な相関を示さなかった。<>0.001)。<>0.001)。<>Page 15
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)を用いた肥満治療の社会的な影響を考察した、欧米の研究者によるレビュー論文の要旨を紹介する。GLP-1受容体作動薬使用中止後のリバウンドに対するサポート体制が不備であること、コストの点で治療を受けられる人とそうでない人の格差が生じており、持続可能性に課題があることなどが述べられている。
イントロダクション
世界では約7人に1人が肥満であり、この割合は2035年までに4人に1人へと増加すると予測されている。肥満は2型糖尿病や心血管疾患などのリスク因子であり、医療経済へ多大な負のインパクトを与え、また個人のQOL低下を招く。
この肥満に対して、グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1受容体作動薬)は、初めての極めて有効かつ安全な薬物治療の選択肢として登場した。治験段階では最大15~25%の減量効果が報告され、臨床においても高い減量効果が示されている。しかし、治療適応のあるすべての人が同薬にアクセスできるわけではなく、また補助的な行動療法の最適化に関する知見が限られており、さらに使用中止後のリバウンドへのサポート体制はほとんど確立されていない。
GLP-1受容体作動薬から最良の結果を得るために、GLP-1受容体作動薬がもたらし得る社会的な影響の総括が必要とされている。
GLP-1受容体作動薬は減量に非常に効果的である
GLP-1受容体作動薬による肥満治療により、体重の有意な減少とともに心血管イベントリスクの低下も報告されている。安全性プロファイルは一般に良好であり、高頻度に現れる消化器症状も多は時間の経過とともに軽減する。ただし場合によっては治療中止につながる。この点に関しては、GLP-1受容体作動薬とともに、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌刺激作用をもつGLP-1受容体作動薬/GIPデュアルアゴニストでは、消化器症状の頻度が低く、GIPの制吐作用が影響している可能性がある。
GLP1-RA使用に関連する別の懸念は、減量後の除脂肪体重、特に骨格筋の減少である。除脂肪体重の相対的減少は脂肪量の相対的減少よりも小さいため、身体機能の改善につながる可能性があるものの、この考え方はまだ推測の域を出ない。十分なタンパク質摂取とレジスタンス運動を併用することで、フレイルが懸念される場合の有用な緩和戦略となる可能性がある。
GLP-1受容体作動薬による肥満治療を提供する医療従事者の課題
これらの新薬は、今後数年間で体重管理の基盤となる可能性が非常に高い。米国では、2030年までに全人口の9%がGLP-1受容体作動薬を使用するとする推計もある。しかし、医療システムがそのような急速な普及を妨げる律速因子となるかもしれない。プライマリケア医が患者の体重管理にあてる時間は限られていて、補助的な行動支援をなし得る環境が整っていないことが多い。
今後のGLP-1受容体作動薬治療の成功は、治療提供者である一般開業医、看護師、栄養士、臨床心理士などのサポートが鍵となる。GLP-1受容体作動薬治療の有効性が社会的に認知されるようになり、その治療を求めて受診する患者が増加しているが、その需要に対応できる体制が整っていない医療機関も存在している。また、患者が高い期待を抱く一方で、当然ながら臨床医は処方と継続的なモニタリングの責任を負うことになり、一部の医療者が慎重になる傾向もみられる。
リバウンド
GLP1-RA治療では、その中止後にしばしば比較的大きなリバウンドがみられる。リバウンドの速度は、行動療法による介入で減量を達成後し介入を中止した場合に比べ、より速い傾向が報告されている。例えば、行動療法による介入後のリバウンドは年間0.12~0.32kgというデータがある一方、セマグルチドと補助的な行動支援ではその中止から1年後に、減少した体重の3分の2(約11.5kg)が戻ったという報告がある。
この課題に対する容易な解決策は、GLP-1受容体作動薬を使い続けることである。しかし米国での初期のデータによると、自己負担で治療を継続する患者は稀であり、肥満治療では約半数が1年以内に使用を中止している。将来的にGLP-1受容体作動薬の特許が切れ、より安価な薬剤が利用可能になれば変化することも考えられるものの、現状では減量とリバウンドを繰り返す「ヨーヨーダイエット」の懸念がある。
体重管理における不平等を拡大させるリスク
米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、および欧州の一部など、GLP1-RA療法が最も普及している国では、社会経済的格差がこの治療へのアクセスの差となって表れている。現在、GLP1-RAはわずかなメーカーの寡占状態であり、これが他の医薬品の場合と同様に高コストにつながっている可能性が高い。
特許が切れ始めると価格が下がる可能性があるが、すべての肥満患者がGLP-1受容体作動薬療法を受けられるようになるのは、たとえ高所得国であっても遠い先のことと思われる。低栄養と過栄養という二重不可に直面している国では、肥満治療のためにコストをかけることは困難であることが多いと考えられ、アクセスの不平等が拡大するのではないか。
肥満によるスティグマ
肥満の状態にある人は、体重に関連するスティグマを経験することが多い。GLP-1受容体作動薬治療の普及によって、このようなスティグマが緩和されるのではないかという考え方もある。しかし、減量・代謝改善手術を受けた人を対象とする研究からは、そうはならない可能性が示唆されている。定性的な研究によると、手術によって大幅に減量が達成された後も依然としてスティグマを抱えているという。
さらに、減量・代謝改善手術を受けた人は、「安易な選択肢を選んだ」と批判されていると感じていると報告されている。今後の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量が肥満関連のスティグマにどのような変化を及ぼすのか調査する必要がある。
治療に効果的な反面、予防の妨げになる可能性
GLP-1受容体作動薬という極めて効果的な減量手段が、肥満治療の改善につながるという確かな見通しがある。しかしながらこの治療法が普遍的に利用可能な手段でないことは既に明らかであり、長期的なコストなどから、大半の個人および医療制度にとって持続可能な選択肢にはなり得ず、体重増加の予防は依然として重要である。
肥満の予防と治療は、互いに排他的ではない。これらの新薬を使用している人はより健康的な食習慣を身につける傾向があるという複数のエビデンスが存在し、米国ではGLP-1受容体作動薬の使用が増えるにつれて、食品の売上が減少していると報告されている。ポジティブに捉えれば、このような変化は、保護者がGLP-1受容体作動薬を使用している世帯の子どもを含む他の世帯員の肥満予防につながるかもしれない。しかし一方で、食品業界の行動に一定の規制をかけることで社会全体の肥満リスクを下げようとする公衆衛生戦略を、人々が軽視するような変化を生じさせてしまいかねない。
ここに挙げた課題は、どれも容易に解決できることではない。これらの課題の複雑さは、肥満予防への取り組みをより一層推進する必要性を改めて示している。
文献情報
原題のタイトルは、「The societal implications of using glucagon-like peptide-1 receptor agonists for the treatment of obesity」。〔Med. 2025 Aug 14:100805〕 原文はこちら(Elsevier)
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国内の小学生のSNS利用状況と身体イメージとの関連性を調査した研究結果が報告された。SNSを使っている女児は、自分が実際よりも太っていると考える傾向があることや、性別にかかわらず、SNSを使っている子どもは、身近にいる友達やクラスメートよりもメディア上の人の体型を理想と考えていることが明らかにされている。筑波大学大学院人間総合科学研究科の馬場朝美氏、麻見直美氏らの研究によるもので、論文が「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に掲載された。
研究の背景:SNS利用は小学生の身体イメージにも影響を及ぼしている?
SNS利用の拡大と低年齢化
テレビや雑誌などに登場する人の体型が、若者の身体イメージに影響を及ぼし、痩身願望を強めたり、過度の食事制限、メンタルヘルスの不調、摂食障害などのリスクを高めたりする可能性が指摘されている。さらに今世紀に入って以降、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が台頭し、従来型メディアよりも強い影響力を持ちうることが指摘されるようになった。
ただし、これまでのところ、このトピックに関する研究は若年成人や思春期以降の青年を対象に行われている。その一方でSNSの利用は低年齢化していて、2023年の調査では、日本の小学校高学年の58%がLINEやTikTok、Instagram、XなどのSNSを利用していると報告されている。
若年男子の痩せ問題
他方、従来、メディアによる身体イメージへの影響は、性別で比較した場合、男子よりも女子により強く現れると考えられている。その理由として、女子は男子よりも外見を重視すること、対人関係によって考え方が影響されやすいこと、男子よりも思春期が早く発来し体格が変化してくることなどの関与が想定されている。それらの結果として、若年女性の痩せすぎが、しばしば公衆衛生上の課題として指摘されている。
しかし近年、日本の思春期前の男児の間で痩せが増加していることが報告されるようになってきた。女児と同様に男児にも、過剰な痩身願望が広がっている可能性が考えられる。
これらを背景として馬場氏らは、国内の小学生男児・女児を対象として、SNSの利用状況と身体イメージの調査を実施し、両者の関連性を検討した。
研究の方法:小学校2校の3~6年生を対象として横断的に解析
この研究は、公立小学校2校の3~6年生を対象とする横断研究として行われた。1,525人が参加し、回答内容の不備を除外し1,261人(82.7%)を解析対象とした。解析対象者は平均年齢が9.64±1.15歳、女児52%だった。
SNS利用状況の把握
「自宅で勉強以外の目的で頻繁に利用するメディアを選択してください」という質問と、その選択肢として、通話、テキストメッセージ/チャット(LINE、カカオトークなど)、テレビ視聴、ゲーム、動画視聴(YouTubeなど)、アプリ利用(Instagram、X、Snapchat、Facebookなど)、情報検索、漫画鑑賞、読書などを挙げた。これらのうち、LINE、カカオトーク、Instagram、X、Snapchat、Facebookを選択した子どもを「SNS利用群」とし、それらを選択しなかった子どもを「SNS非利用群」とした。
このほかに、スクリーンタイム(自宅での勉強以外の目的でのテレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などの利用時間)を質問した。
身体イメージの把握
身体イメージは7段階のシルエットチャート(1:非常に痩せている~7:非常に太っている)から、自分自身があてはまるものと、理想と考えるものを選択してもらい、両者の差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型が理想と一致していることを意味し、スコアがプラスの場合は痩せていることを望んでいる、スコアがマイナスの場合は太っていることを望んでいると判定した。
また、自分自身の体型を5段階スケール(痩せすぎ、やや痩せている、標準、やや太っている、太りすぎ)の中から選択してもらい、これを実際の体型(学校保健統計の身長・体重の標準値からの乖離の程度で分類)との差を計算。差がない(スコア0)は、自分の体型を適切に認識していることを意味し、スコアがプラスの場合は実際よりも太っていると考えている、スコアがマイナスの場合は実際よりも痩せていると考えていると判定した。
このほかに、理想的な身体イメージ像を、家族、親しい友人、クラスメート、メディアに登場する人(有名人、モデル、アイドル、アスリート、インフルエンサー、SNS上の人など)、および「該当する人はいない」の中から選択してもらった。
解析結果:SNS利用がメディア中の人の体型賞賛や、女児の体型誤認識に関連
全体として、460人(36.5%)がSNS利用群に該当した。性別で比較すると、男児は29.6%であるのに対して女児は42.9%と、SNSを利用している子どもが有意に多かった(p<0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。<>
自分自身の身体イメージのスコアは、男児が3.89、女児は3.83で有意差はなかった。一方、理想とする身体イメージは同順に3.77、3.45で、女児のほうがより痩せている体型を理想としていた(p<0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。<>
自分自身の体型(肥満または痩せの程度)の認識と実際の体型との乖離は、男児は-0.31、女児は-0.18であり、男児のほうが誤って認識していることが多い(実際より痩せていると考えがち)という差が認められた(p=0.007)。
理想的な身体イメージ像については、「該当する人はいない」が男児は69.7%、女児は60.5%を占めともに最多だったが、具体的に選択された人としては、「メディアに登場する人」が最多であり、男児では19.6%、女児では20.3%を占め、家族や友人、クラスメートを凌駕していた。
SNSを利用している女児は、自分自身の体型の認識と実際の体型の乖離が大きい
SNS利用群とSNS非利用群を性別ごとに比較すると、男児ではスクリーンタイムに有意差が認められた(SNS利用群106.95分 vs 非利用群94.73分、p=0.002)。女児では、スクリーンタイム(同順に106.95 vs 94.73分、p=0.025)のほかに、自分自身の体型の認識の誤りの大きさや(-0.20 vs -0.36、p=0.014〈SNS非利用群のほうが実際より痩せていると考えている〉)、理想的な身体イメージの存在の有無(SNS利用群では「該当する人はいない」が少なく「メディアに登場する人」を理想とする割合が多い)にも有意差があった(p=0.004)。
次に、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離、および、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離を目的変数、SNSの利用を説明変数とする多変量解析を実施。その結果、男児については調整変数にかかわらず、SNSの利用は身体イメージや体型の認識の乖離の有意な説明変数として抽出されなかった。
一方、女児についてはスクリーンタイムと肥満度で調整した場合に、自分自身の体型の認識と実際の体型との乖離の独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(β=0.08〈95%CI;0.00~0.26〉)。β値がプラスのため、SNSの利用が両者の乖離の拡大と関連している(SNSを利用していると自分が実際より太っていると認識しがちである)ことを意味している。なお、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離に関しては、女児においてもSNSの利用との関連は認められなかった。
性別にかかわらず、SNSの利用は「メディアに登場する人」を理想とすることと関連
続いて、理想的な身体イメージの存在を目的変数とする解析を実施。すると、男児・女児ともに、「メディアに登場する人」を理想の身体イメージとすることの独立した説明変数として、SNSの利用が抽出された(スクリーンタイムと肥満度を調整変数とするモデルでのオッズ比が、男児は1.71〈95%CI;1.11~2.65〉、女児は1.87〈1.25~2.78〉)。
思春期前から、SNS利用による誤った身体イメージの形成に注意が求められる
まとめると、日本人小学生のSNS利用は、女児において、自分自身の体型を実際よりも太っているとの誤認と、独立した関連が認められた。また、性別を問わず、身近な友人やクラスメートではなくメディアに登場する人を、理想的な身体イメージとすることと関連していた。
著者らは、「思春期前の子どもたちのSNSの利用は、身体イメージの認識や体型の好みに悪影響を及ぼす可能性がある。思春期前からSNSを使い過ぎないように働きかけることが、思春期以降の子どもたちの健全な身体イメージの形成を促すのではないか」と述べている。また、「SNSの利用が身体イメージにどのように影響するかを理解することが重要であり、その関係の根底にあるメカニズムを明らかにするための研究が、日本ではまだ少ない」と指摘し、今後の研究の発展に期待を表している。
文献情報
原題のタイトルは、「Association Between Social Networking Service Use and Body Image Among Elementary School Children in Japan」。〔Eur J Investig Health Psychol Educ. 2025 Jul 7;15(7):125〕 原文はこちら(MDPI)
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0.001)。その結果、自分自身の身体イメージと理想とする身体イメージとの乖離は、男児の0.12に対して女児は0.38と大きく、有意差があった(p<0.001)。<>0.001)。一方、1日のスクリーンタイムは男児が98.31分、女児は88.02分で、男児のほうが有意に長かった(p<0.001)。<>Page 17
歯周炎に対する通常の治療に、プロバイオティクスを用いることで、歯周ポケットの深さなどの歯周炎の重症度指標の改善が促進されるとする、パイロット研究の結果が報告された。また、プロバイオティクス摂取とともに、抗炎症作用を強化するように個別化された栄養指導を並行して実施すると、改善効果がより高くなることも示されている。トルコからの報告。
抗炎症作用を期した食事やプロバイオティクスは歯周炎治療に有効か?
歯周炎は歯周組織の炎症性破壊を特徴とする慢性感染症で、治療が十分でないと歯槽骨の喪失、審美性の低下、歯の喪失、咀嚼機能低下、QOL低下などを来す。治療の基本は資化的なブリードマンや根面の除染を中心とする原因菌の除去だが、近年では食事性の炎症反応を抑制するというアプローチも注目されてきている。いつくかの微生物は歯周病菌のコロニー形成を阻害することが報告されており、それらの微生物をプロバイオティクスとして利用して、歯周病治療に採り入れるというアイデアが提案されている。
今回紹介する論文は、このような動向を背景として行われたパイロット研究の報告であり、トルコの単施設の歯科医院における無作為化比較試験として実施された。
歯周炎患者を3群に分けて6週間介入して比較
研究参加者は、軽症から中等症の歯周炎(歯周ポケットの深さが3~7mm)と診断された患者のうち、糖尿病などの全身疾患がなく、歯が20本以上残っている20~60歳の女性であり、喫煙者、妊婦・授乳婦は除外された。対象を女性のみとした理由は、ホルモン分泌や代謝の性差が結果に影響を及ぼす可能性があるため。
全員に対して通常の歯科的治療を行ったうえで、プロバイオティクス摂取を行う群、栄養指導を行ったうえでプロバイオティクスを上乗せする群、および対照群(歯科的治療のみ)という3群を設定し、6週間介入した。事前の統計学的検討から、このトピックの検討には各群35人必要と計算され、脱落を見込み各群40人、計120人を登録した。
栄養介入、プロバイオティクス介入の方法と、評価項目
栄養介入は栄養士の監督下で個別化された栄養プランを作成し行われた。このプランは地中海食を基に、食物繊維やプレバイオティクス、およびω3脂肪酸などの抗酸化作用を有する食品、具体的には野菜、全粒穀物、オリーブオイル、豆類、クルミ、ヨーグルトなどが推奨された。プロバイオティクス介入には、Lactobacillus rhamnosusやBifidobacterium animalisを主とするサプリメントを毎朝1カプセル摂取することとされた。
評価項目は、歯周ポケットの深さ(歯肉縁からポケット底まで)と、アタッチメントロス(セメント質とエナメル質の境目からポケット底まで)であり、患者割り付けを知らされていない1人の歯科医が全患者の介入前後に評価した。
栄養介入+プロバイオティクス摂取で最も顕著に改善
ベースライン時点において、年齢、BMI、婚姻状況、教育歴、世帯所得、ウエスト周囲長、および、歯周ポケットの深さ、アタッチメントロスに有意差はなかった。
しかし、6週間の介入後、歯科的治療に加えてプロバイオティクス摂取を行った2群では、歯周ポケットの深さとアタッチメントロスがより有意な改善効果が示された。とくに栄養介入を並行して行った群では改善が顕著だった。詳細は以下のとおり。
歯周ポケットは介入前が、対照群(歯科的治療のみの群)は5.3±1.0mm、プロバイオティクス摂取群は5.2±0.9mm、栄養介入+プロバイオティクス摂取群は5.3±1.1mm(p=0.79)。介入後は同順に、4.4+0.9mm、3.6+0.8mm、3.1+0.7mm(p<0.001)。アタッチメントロスは介入前が、対照群は5.5±1.1mm、プロバイオティクス摂取群は5.6±1.0mm、栄養介入+プロバイオティクス摂取群は5.6±1.0mm(p=0.91)。介入後は同順に、4.8+1.0mm、3.9+0.8mm、3.2+0.7mm(p<0.001)。<>
また、臨床的に治癒と判定された患者割合は、歯周ポケットに関しては対照群17.00%、プロバイオティクス摂取群30.80%、栄養介入+プロバイオティクス摂取群41.50%だった。アタッチメントロスにおいて臨床的に治癒と判定された患者割合は同順に、12.70%、30.40%、42.70%だった。
食物繊維とタンパク質は歯周炎リスクと負の相関、添加糖と炭水化物は正の相関
次に、3日間の食事記録から推計したエネルギー量・栄養素摂取量と、歯周ポケットの深さ、アタッチメントロスとの関連を検討した。
すると、食物繊維とタンパク質に関しては、その摂取量が多いほど、介入後の歯周ポケットの深さ、およびアタッチメントロスが低値という、有意な逆相関が認められた。反対に、添加糖や炭水化物に関しては、その摂取量が多いほど、介入後の歯周ポケットの深さ、およびアタッチメントロスが高値という、有意な正相関が認められた。
摂取エネルギー量、脂質、飽和脂肪、多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸の摂取量に関しては、歯周ポケットの深さやアタッチメントロスとの相関が有意でなかった。
論文の結論は、「プロバイオティクスが歯周病の治癒を促進することが示された。またこの効果は、患者一人ひとりに個別化して立てられた抗炎症食によって、より強化された。歯周炎の治療において、プロバイオティクスとバランスの取れた栄養を組み込むことが推奨される」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「The role of probiotics and dietary interventions in the treatment of periodontitis: a pilot randomized controlled clinical trial」。〔BMC Oral Health. 2025 Jul 31;25(1):1287.〕 原文はこちら(Springer Nature)
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0.001)。アタッチメントロスは介入前が、対照群は5.5±1.1mm、プロバイオティクス摂取群は5.6±1.0mm、栄養介入+プロバイオティクス摂取群は5.6±1.0mm(p=0.91)。介入後は同順に、4.8+1.0mm、3.9+0.8mm、3.2+0.7mm(p<0.001)。<>Page 18
国際テニス連盟(International Tennis Federation;ITF)、女子テニス協会(Women’s Tennis Association;WTA)、プロテニス選手協会(Association of Tennis Professionals;ATP)の3団体からなる専門家グループは、ハイパフォーマンスのテニスにおける栄養の実践的な推奨事項を策定し、国際スポーツ栄養学会の「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に発表した。論文の冒頭に記されているポイントのみを紹介する。
推奨のポイント
- a. 頻繁な海外遠征と過酷な試合スケジュールに直面するプロテニス選手は、高い生理学的および知覚的負荷を経験する。試合時間の不確実性、それに伴う回復に充てられる時間の変化、そして多様な環境条件に対応するため、栄養、水分補給、回復戦略を綿密に管理する必要がある。
- b. 炭水化物の摂取は、トレーニングと試合における主要なエネルギー源となり、トレーニングセッションと試合の間に体内のグリコーゲンを補充することで、プレー中の疲労を防ぐ。テニス選手に推奨される炭水化物摂取量は、トレーニングや試合の負荷(期間・頻度および強度)によって異なる。1日の摂取量は、体重1kgあたり3~10gの範囲が適切。低強度のトレーニングには少量、コートでの高強度セッションやトーナメント中には多めに摂取する。
- c. トーナメント中にグリコーゲン貯蔵量を維持するには、1日あたり6~10g/kgの炭水化物摂取が必要とされ、試合前には1~4g/kgを摂取する必要がある。一方、試合中、とくに長時間の試合では、筋肉へのエネルギー供給と中枢神経系の刺激のために、炭水化物を30~90g/時摂取する必要がある。当然ながら、トーナメントの試合は変動性が高く予測不可能であるため、これらの一般的な戦略は、試合時間、回復の必要性、コートの状態に応じて調整し、個別に調整する必要がある。
- d. プロテニス選手は、筋肉の修復、成長、そして体組成の最適化のために、高タンパク質摂取(1.2~1.8g/kg)を必要とし、状況によってはそれ以上の量の摂取が必要となる場合もある。これらのニーズは、タンパク質の質とタイミングに注意することで、計画的な食事や、場合によってはプロテインサプリメントの摂取によって満たすことが可能。
- e. エネルギー、炭水化物、タンパク質の必要量を満たす適切な食事は、プロテニス選手の微量栄養素の需要増加にも対応する可能性が高い。しかし、鉄分(とくに女性およびベジタリアン/ビーガン)、ビタミンD(カナダ、ロシア、北欧など赤道から極北の地域、またはニュージーランド南部やオーストラリアなど極南の地域に居住する選手)、カルシウム(ジュニア選手および無月経の女性)では、とくに注意を払うべき。特定の選手や状況では、摂取量が最適な値を満たさず、健康状態やパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。こうした欠乏症のリスクが高い選手は、定期的に栄養状態をモニタリングし、必要に応じて監督下でのサプリメント摂取計画を立てる。
- f. 利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)は、トレーニングや試合での運動負荷の増加やエネルギー摂取量の減少により、人体のあらゆる生物学的システムを支えるエネルギーが不足する状態であり、テニス選手にも発生する可能性がある。よくあるシナリオとしては、摂食障害、体重/体脂肪を減らすための誤ったプログラム、トレーニングの激化や激しい競技プログラム、食品の入手困難さや栄養に関する知識の不足などが挙げられる。軽度または短期間の曝露であれば適応可能で可逆的と考えられる。しかし慢性的で極端なシナリオは、さまざまな健康障害やパフォーマンス障害を伴う、スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)の病態の基盤となる。テニスにおいても、このリスクに対する認識を高め、早期介入するための戦略を実施する必要がある。また、リスクの高い選手は、適切な診断と多科による治療を計画・管理できる経験豊富な医師に紹介する必要がある。この分野においては、テニス選手におけるREDsの有病率や転帰に関する具体的な調査を含む、さらなる研究が必要。
- g. テニスでは、試合中(ウォーミングアップ、エンドチェンジやゲームの間など)に水分を摂取する機会が多い。しかし、試合の激しさや環境条件によっては、大量の発汗による損失につながる可能性があり、試合中および次の試合までの期間に計画的な水分補給が必要になる。試合前、試合中、試合間の水分摂取ガイドラインは、試合時間、個人の発汗量、環境条件に応じて調整し、個別に調整する必要がある。
- h. 試合やトレーニング後の回復は、セッションで生じたニーズへの対応に重点を置くべき。運動後の軽食や食事は、エネルギー補給のニーズに応じて炭水化物を、水分補給のニーズに応じて水分と電解質を、そして筋タンパク質の合成と適応のニーズに応じてタンパク質を、それぞれ優先的に摂取する必要がある。次の試合やトレーニングセッションまでにこれらのプロセスが可能な限り実行し、最適な回復とパフォーマンスが得られるよう、実践的な戦略を調整する必要がある。
- i. パフォーマンスサプリメントはテニス選手の間で人気があるが、カフェイン、クレアチン一水和物、重炭酸ナトリウムのみが、テニスのパフォーマンスへの潜在的な効果について信頼できるエビデンスを有している。β-アラニン、クエン酸ナトリウム、シトルリンリンゴ酸塩など、テニス選手にとって有益な可能性のあるサプリメントについては、さらなる研究が必要。いずれの場合も、適切な用法、用量、タイミングを守った場合にのみパフォーマンスが向上する可能性があるため、トレーニングや試合に組み込む前に、徹底的なリスクベネフィット分析を行う必要がある。
- j. サプリメントを使用する選手は、禁止物質の混入リスクを最小限に抑えるため、製品の同一性、純度、組成を保証(バッチテストなど)している評判の良い企業から、製品を購入する必要がある。
- k. 高温多湿の環境では、とくにトーナメントでは、テニスにおける生理的および認知的課題が増大するため、パフォーマンスを最適化し、熱中症を回避するために、熱順応、積極的な水分補給、冷却戦略が必要となる。
- l. プロテニス選手は、頻繁な病気や怪我など、健康面で特有の課題に直面している。適切な栄養摂取は、強力な免疫システムを維持し、効果的な回復をサポートするうえで重要な役割を果たす。これは、パフォーマンスに影響を与える可能性がある怪我や病気の予防にも役立つ。女性テニス選手は、試合の要求や月経周期によるホルモン変動の違いにより、生理学的および栄養学的ニーズが異なる。また、利用可能エネルギー不足(LEA)や鉄欠乏症などの疾患のリスクが高いため、トレーニング、栄養、健康状態のモニタリングにおいて、個別的なアプローチが必要となる。
- n. 高いパフォーマンスを発揮する若手テニス選手は、過酷なトレーニングスケジュール、成長と発達への要求、そしてツアーの不規則性により、深刻な栄養上の課題に直面している。これらの要因により、エネルギーと栄養素の摂取量が推奨量を下回ることが多く、パフォーマンスと長期的な健康に影響を与える可能性がある。若手選手は、適切な食事選択を通じて健康とパフォーマンスを最適化するために、栄養教育と実践的なスキルの両方を必要とする。
- o. 車いすテニス選手は、障害に関連した特有の身体的およびエネルギー要求に直面しており、パフォーマンス、健康、回復を最適化するために個別の栄養および水分補給戦略が必要。
- p. これらのガイドラインの根拠となる研究は、テニスに特化した研究ではなく、さまざまな運動やスポーツのシナリオから得られたものである。ガイドラインは依然として価値があると見なされるが、テニス選手を対象としたさらなる研究や、テニス特有の要求に合わせたプロトコルの策定が明らかに必要。
さらに詳しく
このほか、原文では下記のような項目が詳細にまとめられているので、興味のある方は下記「文献情報」のリンク先をご参照ください。
-
Topic 1:テニス競技の概要
Expert Group Topic 1: Introduction to Tennis
-
Topic2:テニスの身体的負荷
Expert Group Topic 2: Physiological Demands of Tennis Training and Match Play
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Topic 3:トレーニング期の栄養と長期的栄養目標
Expert Group Topic 3: Training-Day Nutrition and Overall Nutritional Goals
-
Topic 4:体組成・LEA・REDsについて
Expert Group Topic 4: Body Composition, LEA, and REDS
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Topic 5:試合期の栄養管理
Expert Group Topic 5: Match-Day Nutrition
-
Topic 6:栄養補助食品(サプリメント)の活用
Expert Group Topic 6: Dietary Supplements for Tennis Performance
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Topic 7:暑熱環境・遠征時の考慮事項
Expert Group Topic 7: Environmental and Travel Considerations
-
Topic 8:病気・怪我のリハビリテーション期の栄養管理
Expert Group Topic 8: Nutrition for Illness and Injury Rehabilitation
-
Topic 9:女性選手、ジュニア選手、車いす選手
Expert Group Topic 9: Special Population Groups
文献情報
原題のタイトルは、「Women’s Tennis Association (WTA), and Association of Tennis Professionals (ATP) Expert Group Statement on Nutrition in High-Performance Tennis. Current Evidence to Inform Practical Recommendations and Guide Future Research」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025 Aug 21:1-38〕 原文はこちら(Human Kinetics)
SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」
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女性を対象に摂食障害関連行動の有無を調査し、アスリートと非アスリートで比較した結果、アスリートのほうがそれを有する割合が低かったという論文がノルウェーから報告された。著者らは、身体活動が摂食障害に対して保護的に働くとする考え方を支持する結果だとしている。
女性アスリートの摂食障害のリスクをさまざまな対象と比較
これまでの一般人口対象研究では、女性は男性よりも摂食障害(eating disorder;ED)や乱れた食事関連行動(disordered eating behaviour;DED)のリスクが高いことが報告されている。またアスリート対象研究からも、女性アスリートは男性アスリートよりもそれらのリスクが高いことが報告されている。その一方で、習慣的な身体活動は自尊心の向上につながり、メンタルヘルスに対して保護的に働くと理解されており、女性アスリートにおけるEDやDEDのリスクを抑制する可能性も考えられる。ただし、これらの関係は、一般女性における身体活動習慣の有無、アスリートにおいては競技レベルの違いによって変化することも想定される。
これらを背景として今回取り上げる論文の研究では、女性アスリートは摂食障害のハイリスク集団であると位置づけるのではなく、比較対象等によってそのリスクは異なるのではないかとの考え方に基づき、さまざまな競技レベにある女性アスリートのDEDを有する割合を、スポーツは行っているが競技レベルではない女性、および運動習慣のない女性との比較が行われた。
ノルウェーの女性を対象にオンラインで横断調査
この研究は、ノルウェー在住の17~40歳の女性を対象に、食行動に関するオンライン横断アンケート調査として実施された。参加者の募集にはソーシャルメディアが用いられたほか、アスリートの回答数を確保するため、同国のスポーツ団体を通じて協力を呼び掛けた。回答はすべて任意で匿名だった。
アンケートの内容は、摂食障害調査票(Eating Disorder Examination Questionnaire;EDE-Q)、および、現在の身体的・精神的健康の主観的な状態に関する質問などで構成されていた。前者のEDE-Qについては2.5点をカットオフ値とし、それを超える場合は摂食障害(ED)のリスクを有する状態と判定した。後者については、7段階のリッカートスケール(極めて悪いが0点、極めて良いが6点)で評価を得た。
回答者の特徴
594人が回答し、妊娠中または妊娠の予定があると回答した29人を除外して、565人を解析対象とした。
このうち、競技会に参加しているアスリートが189人(33.5%)で、レベルは地域レベル(レクリエーションレベル)が72人(アスリート群の38.1%)、国内大会レベルが94人(49.7%)、国際大会レベルが23人(12.2%)だった。行っている競技は、体重管理が重要とされる競技が95人(50.3%)で、その内訳は審美系が5人、持久系が75人、体重別階級のある競技が15人、体重管理がそれほど重視されない競技(球技、短距離、技術系)が94人(49.7%)だった。
非アスリートの一般女性は376人(66.5%)で、そのうち265人(70.5%)は週に2.5時間以上の運動習慣があり、111人(29.5%)は運動習慣がない女性だった。
全体の年齢層は、17~20歳が27.6%、21~25歳が30.8%、26~30歳が27.4%、31~35歳が12.4%、36歳以上が1.8%であり、BMIは全体平均が24.2±4.8、アスリート群のレクリエーションレベルが24.1±3.9、国内レベルが23.3±3.3、国際レベルが22.7±2.3、非アスリート群の運動習慣あり群が24.0±4.9、運動習慣なし群が25.8±6.2だった。
また、自己評価による身体的健康レベルは平均3.6±1.3であり、運動習慣を有する非アスリート群(3.0±1.1)は他の群より有意に低かった。自己評価による精神的健康レベルは平均3.3±1.4であり、レクリエーションレベルのアスリート群が最も高く(3.8±1.3)、最も低いのは運動習慣を有する非アスリート群(3.0±1.4)だった。
アスリートは全体的に摂食障害のリスクが低い
参加者全体でEDE-Qスコアが2.5を超えていた割合は39.3%であり、約4割に摂食障害(ED)のリスクが認められた。各群のその割合をみると、運動習慣のある非アスリート群が45.3%と最も高く、次いで運動習慣のない非アスリート群が44.1%であり、国際レベルのアスリート39.1%、国内レベルのアスリート29.8と続いた。摂食障害リスクを有する割合が最も低かったのは、レクリエーションレベルのアスリートの22.2%だった。
アスリート間での参加競技による比較
アスリートを、体重管理が重要とされる競技とそうでない競技に分けて比較すると、EDE-Qの総合スコアには有意差はなかった。しかしEDE-Qの下位尺度のいくつかに有意差が認められた。具体的には抑制(p=0.046、効果量〈d〉=0.30)、および摂食へのこだわり(p=0.025、d=0.34)は、体重管理が重要とされる競技のアスリートでスコアが高かった。
本研究で明らかになった重要な点として著者らは、まず、ノルウェーの女性の間で乱れた食事関連行動(DED)を有する割合が約4割と、高率にみられたことを挙げている。また、アスリートと非アスリートでの比較では、前者、とくにレクリエーションレベルのアスリートはその割合が低いことが明らかになった。このことは、「身体活動が女性リスクを抑制するとする既存のエビデンスを支持するものである」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Lower Prevalence of Disordered Eating Behaviours Among Norwegian Female Athletes Compared to Non-Athletes: A Cross-Sectional Survey Using the Eating Disorder Examination Questionnaire」。〔Eur J Sport Sci. 2025 Sep;25(9):e70043〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 20
アスリートの体重や体組成を調整するための食事・栄養の摂り方に関する推奨事項が、これまでどのように進化してきたのかという視点で行われた、スコーピングレビュー論文を紹介する。著者らは、脂質、食物繊維、微量栄養素に関する推奨が限られており、また用語の定義が曖昧という課題を指摘している。
体重・体組成の調整のための推奨をスコーピングレビューで総括する研究
時代とともに、さまざまな競技に多くの男性および女性が参加するようになり、またスポーツにおいて栄養が重要であることのエビデンスがより強固になるとともに、多くの団体がアスリートの食事・栄養に関する推奨を策定してきている。それらの推奨を包括的に捉えるため、この論文の研究では、スコーピングレビューという手法が採用された。著者らは、スコーピングレビューは、既存の文献が言及している範囲を特定し、残されている課題を抽出するうえで理想的なツールだとしている。
スコーピングレビューのためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-ScR)に則して、SCOPUS、PubMed、SPORTDiscusなどの文献データベースを用いた検索が2023年5月19日に実施され、2024年8月2日に追加の文献の有無が確認された。
包括基準は、18歳以上のあらゆるレベル(Tier1~5)のアスリートに対して、体重または体組成を調整するための食事に関する推奨事項を示した、専門家集団・団体・組織(競技統括団体、栄養関連学術団体、オリンピック協会など)による文献であり、査読システムのあるジャーナルに英語で発表されたものとされた。除外基準は、パラアスリート、疾患を有するアスリート、兵士、非アスリートや運動不足の集団(Tier0)を対象とする推奨、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)禁止物質の推奨を含む文献、および、著者に連絡をとるなどの手順を踏んでも全文を入手できないものなどとされた。
一次検索で6,068件がヒットし、重複削除後、まずその10%を用いて、2名の研究者が独立してタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。研究者間の採否の判定の信頼性を確認後、残りのすべての文献をスクリーニングした。採否の意見の不一致は、両者の討議または3人目の研究者との討議により解決した。
73件のコンセンサスステートメントなどを特定
全文精査を経て、最終的に73件が適格と判断された。
それらの文献は、14団体(25カ国、328人の専門家)から発表されていた。大半は、世界陸上競技連盟(19件)、国際オリンピック委員会(15件)、国際スポーツ栄養学会(15件)、世界水泳(7件)の4団体により策定されており、種別は合意声明(コンセンサスステートメント)が45件、立場表明(ポジションスタンド)が27件、実践的推奨(プラクティスガイドライン)が1件だった。研究者の国の分布としては、米国が138人と最も多く、次いで英国が43人で、以下、ポルトガル、オーストラリア、カナダ、ドイツ、スイスと続いた。対象とする競技は、陸上19件、水泳7件、団体競技5件であり、その他は少なかった。
策定されていた主な項目は以下の通り。
目標設定について
- 個々のアスリートにあわせて体重と体組成の目標を設定する(12件)
- 体重と体組成の目標を設定する際に、スポーツ/競技の要件を考慮する(8件)
- 男性アスリートでは体脂肪率5%以下、女性アスリートでは12%以下を回避する(7件)
- 体重と体組成の目標を設定する際には遺伝的因子を考慮する(5件)
- 現実的な体重と体組成の目標を設定する(5件)
- 健康的であり、かつパフォーマンスをサポートする体重と体組成の目標を設定する(5件)
- 体重と体組成の目標を設定する際には、年齢を考慮する(5件)
- 除脂肪体重を維持し、脂肪量を減らして体重を減らすことを目指す(5件)
- 体重と体組成の目標を設定する際に、アスリートの性別を考慮する(3件)
- 体重と体組成の目標を設定する際に、選手の競技上のポジションを考慮する(3件)
- 体重と体組成の目標を設定する際に、アスリートにとって最適な値が、安全のために必要な最低値を上回ることもあり得ることを認識する(3件)
- 体脂肪率が、不自然に低い/低すぎる/生物学的にあるべき値より低い、という状態を避ける(3件)
- 体重と体組成の目標を範囲として設定し、特定の目標や絶対値としては設定しない(3件)
- パワーおよびパワー/体重比の上昇を伴わない体重増を避ける(除脂肪体重の増加には上限がある)(3件)
- パワー対体重比の上昇を目指す(3件)
- 競技やイベント固有の体重・体組成データを参照する(3件)
目標到達速度について
- 体重を徐々に減らすことを目指す(9件)
- 体重/脂肪量を0.5~1.0kg/週または1~2ポンド/週の速度で減らすことを目指す(7件)
目標設定のタイミングについて
- シーズンの早い段階、またはシーズンが始まる前に、体重変化を目指す(9件)
- オフシーズンに体重の変化を目指す(8件)
- プレシーズン/準備段階全体で体組成の変化を目指す(8件)
- 季節を通して体組成の周期的な変化を目指す(3件)
これらに基づき、本スコーピングレビューでは、アスリートの体重や体組成を調整するための食事・栄養の摂り方に関する推奨事項の現状と将来について、以下の3点にポイントをまとめている。
- ほとんどの推奨事項は、実践における安全性の重要性を強調している。資格のあるスポーツ栄養士または栄養学者を採用する、結果と食事の目標を個別に設定する、カロリーとタンパク質の摂取量を調整する、ほとんどのサプリメントは不要であると考えられ基本的な食事の原則を遵守する、アスリートの健康をサポートするために30kcal/kg除脂肪体重/日という最小エネルギー利用可用性を目標として確保すること――などが挙げられる。
- 本レビューにより、体組成に関する推奨事項が、何を、誰が、いつ、どこで、どのようにということが具体的に行動的な言葉で示されることは、希少であることが明らかになった。より行動的なアプローチを採り入れることで、推奨事項をアスリートとスタッフの双方にとって、より実用的かつ実行可能なものにする必要性が認められる。
- 体重や体組成の調整に関する推奨事項を策定することは、アスリートが競技目標を達成するための健康的な環境を実現するための一歩に過ぎない。こうした推奨事項がどの程度実践されているか、またどのような要因がその実施に影響を与えるかについて、さらなる研究を行うことで、スポーツおよびスポーツ栄養に関する政策と実践がさらに進歩するだろう。
原題のタイトルは、「Dietary Recommendations for Body Mass and Composition Manipulation in Male and Female Athletes: a Scoping Review of Consensus Statements, Position Stands and Practice Guidelines from International Expert Groups」。〔Sports Med. 2025 Aug 21〕 原文はこちら(Springer Nature)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 21
格闘技において、パフォーマンスを間接的に低下させ得る因子である、睡眠や回復、筋損傷・怪我のリスクに、競技前の急速な減量が及ぼす影響を包括的に検討することを目的とした、スコーピングレビューの結果が報告された。睡眠の質への影響は顕著ではないものの、その他の因子へは負の影響が認められるという。
格闘技の競技前の急速な減量による、直接的なパフォーマンス影響以外の側面
多くの格闘技は体重別階級が設けられていて、選手はより低い階級で戦うために、試合前に急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行っている。RWLのためのエネルギーや水分の摂取制限、トレーニング量の極端な増加がパフォーマンスに及ぼす直接的な影響については多くの知見があり、また、睡眠や回復、筋損傷など、間接的にパフォーマンスに及ぼす影響を個別に検討した研究もみられる。しかし、今回取り上げる論文の著者によると、それらの間接的な影響は相互に関連している可能性があるが、そのような関連性に焦点をあてた研究はみられないという。
文献検索について
スコーピングレビューのためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-ScR)に則して、PubMed、Scopus、Web of Scienceという文献データベースを用いた検索を2025年5月20日に実施。また重要な報告を見逃すリスクを抑制するため、ヒットした論文の参考文献をスノーボール形式で追加しハンドサーチを行った。
包含基準は、格闘技アスリート(全年齢と性別・競技レベル)の急速な減量(RWL)と、睡眠、回復、筋損傷、傷害発生率との関連を、査読付きジャーナルに報告した研究であり、プレプリントであっても入手可能なものは対象に含めた。RWLに用いた手段は制限しなかった。
一次検索で2,784報がヒットし、重複削除後の1,816報を2名の研究者が独立して、論文のタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施。103報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は討議または3人目の研究者の意見によって解決した。
解析対象研究の特徴
最終的に17件の研究報告が適格と判断された。
17件中13件は男性のみを対象、1件は女性のみを対象とし、3件は男性と女性の両方を対象としていた。1件は性別の記載がなかった。参加者の年齢は、最も若いものが17.79±0.75歳、最も高齢の研究が30.1±7.5歳であり、多くは平均19~25歳の範囲だった。
参加競技は、レスリング、柔道、テコンドー、ブラジリアン柔術、総合格闘技、ムエタイなどが多く、競技レベルはナショナルレベルのアスリート対象研究が多かった。研究デザインは多様で、ランダム化比較試験は3件、クロスオーバー試験は2件であり、その他は反復横断研究、横断研究などだった。
RWLの影響の評価は、ベースライン、RWL中、RWL後、競技前計量時点、競技後、回復期など、最長14カ月にわたるさまざまな時点で行われており、筋損傷はクレアチンキナーゼなど、回復は自覚的疲労感などで評価され、そのほかにコルチゾール、睡眠の質、傷害発生報告状況などが報告されていた。
減量法としては主に、食事・水分制限、サウナの利用、発汗スーツ着用、トレーニング量の増加などが記されていた。ただし、多くの報告で方法論については詳細な記載は限られていた。
RWLで筋損傷、疲労、傷害発生などが増加する懸念
急速な減量(RWL)は、筋損傷のマーカーであるクレアチンキナーゼ(ピーク時713.4±194.6U/L)、自覚的疲労感(41.8±0.9~51.3±2.0任意単位〈a.u.〉)、および傷害発生率(女性においては1,000機会あたり45.62件)の増加と関連していた。コルチゾール反応については、RWLにより増加したとする複数の研究(499.9±107.8nmol/L~731.6±80.2nmol/L)と、低下したとする複数の研究(603.2±146.8nmol/L~505.8±118.4nmol/L)が混在していた。
睡眠の質については、軽度悪化(5.15±1.83a.u.~5.52±1.71a.u.)し、RWL後の回復感は低下(101.40±2.52 AU~87.63±2.47AU)することが報告されていた。
格闘技の急速減量が招くリスク
まとめると、格闘技におけるRWLは、睡眠の質への影響はそれほど顕著ではないものの、回復を阻害し、筋肉の損傷と疲労を増加させ、怪我のリスクを高めることが示唆された。ただし、方法論の一貫性の欠如やサンプルサイズが十分でないことによって、解釈が制限された。また、女性および高齢のアスリートについては、よりサンプルサイズが小さく、性特異的な傷害リスク、加齢に伴う回復の遅延などを考慮すると、得られた知見の適用範囲はさらに制限されると考えられた。
著者らは、本スコーピングレビューにより、RWLの影響を評価するというトピックについて、現時点においては減量プロトコル、アウトカム指標、研究デザインのばらつきなど、標準化された方法論が欠如していることが明らかになり、また女性アスリートのより広範な参加、そして長期的な影響を評価するための縦断的研究の必要性のあることが示されたと述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Weight-Cutting Practices on Sleep, Recovery, and Injury in Combat Sports: A Scoping Review」。〔J Funct Morphol Kinesiol. 2025 Aug 18;10(3):319〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
Page 22
サルコペニアに対する栄養介について入新たなエビデンスが報告された。高齢女性に対して、筋トレのみによる介入に比し、ビタミンCとEのサプリメント摂取を上乗せすることで、筋肉量や筋肉の改善幅が大きくなり、これに抗酸化・抗炎症作用が関与していることが示唆されるという、中国で行われたRCTの結果。
サルコペニアに対して抗酸化・抗炎症を目的としたサプリでの栄養介入は有効か
サルコペニアは筋量や筋力の低下を特徴とし、QOLの低下、および、フレイル、転倒、骨折のリスク上昇、さらには死亡リスクの上昇とも関連することが知られている。サルコペニアの治療の中心は筋力トレーニングとされている。筋トレは強い負荷をかけるほど、高い効果を期待できると考えられるが、一方で高強度の筋トレにより酸化ストレスや炎症が亢進し、そのことが体タンパク質の異化につながる可能性も指摘されている。
一方、食事性のビタミンCやEは、フリーラジカルの除去や脂質酸化を阻害することが示唆されている。ただし、食事としてではなくサプリメントとしてそれらを摂取した場合の効果については依然として議論があり、またサルコペニアの改善に資するものか否かも明らかになっていない。今回取り上げる論文の研究では、この点に焦点をあて、二重盲検プラセボ対照試験による検討を行っている。
高齢サルコペニア女性対象に、筋トレ±ビタミンC・Eで12週間介入
研究参加者はポスターやチラシ、ソーシャルメディアを通じて地域の一般住民から募集された60~75歳の、サルコペニアに該当する女性。サルコペニアはアジア・サルコペニアワーキンググループの基準に基づき判定した。体系的な筋トレを行っている女性、管理されていない高血圧、重度の心血管疾患、過去3カ月以内の外科手術、急性の筋骨格系疾患、運動機能に影響のある神経疾患、運動禁忌、介入効果に影響を及ぼし得る薬剤処方やサプリメント利用などの該当者は除外した。
介入方法と評価項目
上記の基準を満たす60人を無作為に2群(各群30人)に分け、両群に筋トレ介入を行い、かつ1群にはビタミンCとEのサプリによる介入を上乗せし、他の1群にはそれらのプラセボによる介入を行った。介入期間は12週間だった。
筋トレは、介入効果の判定に関与していない理学療法士の監督下で、20人未満の小グループごとに週3回、1回50分の弾性バンドを利用した抵抗運動として行われた。サプリ介入はビタミンCを1日あたり1,000mg(500mgを2回)とビタミンEを335mgとし、プラセボは外観から区別できない状態の乳糖とした。
評価項目は、DXA法で測定した筋肉量(上肢・体幹・下肢の除脂肪体重、骨格筋量指数〈skeletal muscle mass index;SMI〉)、筋力(握力、膝伸展筋力)、身体能力(椅子立ち上がりテスト、6m歩行速度など)、および、酸化ストレスや炎症レベルのマーカーとして、還元型グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、その両者の比(GSH/GSSG比)、マロンジアルデヒド、IL-6、TNF-αなどの変化とした。
ベースラインにおいて、年齢、BMI、身体活動量(IPAQスコア)、および、3日間(平日2日と週末1日)の食事記録に基づく摂取エネルギー量やタンパク質摂取量に有意差はなく、またビタミンC・Eの摂取量も有意差がなかった。
ビタミンC・Eで筋量・筋量が大きく上昇し、抗酸化・抗炎症作用の関与が示唆される
サプリ群で筋肉量や筋力がより大きく上昇
12週間後、サプリ群とプラセボ群の両群において、筋肉量、筋力、および身体能力が有意に改善していた(p<0.05)。そして、改善の幅に以下のような有意差が認められた。
上肢の除脂肪体重の変化は、サプリ群、プラセボ群の順に、0.96 vs 0.59kg(p=003,効果量〈d〉=0.74)であり、同様に骨格筋量指数(SMI)の変化は0.71 vs 0.42(p=0.004,d=0.71)、握力の変化は3.66 vs 1.16kg(p=0.047,d=0.51)、膝伸展筋力の変化は2.28 vs. 1.02kg(p<0.001,d=0.89)だった。
身体能力の経時的変化には、群間に有意差は認められなかった。
サプリ群では血液パラメータの多くが改善
血液パラメータに関しては、サプリ群で抗酸化・抗炎症効果を示唆する変化が認められた。
例えば還元型グルタチオン(GSH)はサプリ群でのみ上昇し、2群間に変動幅に有意差があった(p<0.001,d=1.52)。酸化型グルタチオン(GSSG)については反対に、プラセボ群でのみ上昇し、2群間に変動幅に有意差があった(p<0.001,d=0.96)。結果としてGSH/GSSG比の変動にも有意差が認められた(p<0.001,d=1.52)。
マロンジアルデヒドの減少幅もサプリ群のほうが有意に大きかった(p<0.001,d=1.65)。IL-6やTNF-α値の低下にも有意差が認められた。
これらの結果に基づき著者らは、「12週間の筋トレと組み合わせたビタミンCおよびEのサプリ摂取は、筋トレ+プラセボと比較して、筋肉量と筋力に対する優れた変化をもたらした。そのメカニズムの基盤は、酸化ストレスと炎症の抑制に関連している可能性がある」と結論付けている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of vitamins C and E supplementation combined with 12-week resistance training in older women with sarcopenia: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial」。〔Medicine (Baltimore). 2025 Aug 22;104(34):e43976.〕 原文はこちら(Wolters Kluwer Health)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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一般成人を対象とする調査から、水分補給の習慣、および、尿浸透圧などで評価した実際の水分補給状態が、喫煙や飲酒などの健康関連行動、および、ウエスト周囲長や日中の疲労などの健康状態と関連していることが報告された。ポーランドで行われた研究であり、要旨を紹介する。
水分の補給状態も重要な健康指標の一つ
一般的な健康関連指標として、ウエスト周囲長や体脂肪率などの体組成、血圧、あるいは加齢に伴う筋力低下を表す握力などが挙げられる。これら以外に、今回取り上げる論文の著者らは「過小評価されている指標」として水分の補給状態を挙げ、体内の水分は、全身の恒常性の維持、浸透圧の調整、栄養素の輸送、神経系と腎臓の機能に不可欠だと解説している。そのような重要性にもかかわらず、他の健康指標に比べて水分補給状態についての研究はあまり行われていない。
このことから著者らは、血圧、ウエスト周囲長、握力などで評価される健康状態、および、BMI、喫煙・飲酒・身体活動習慣、睡眠時間で評価される健康関連行動と、尿比重・浸透圧・pHとの関連を横断的に検討した。
多様な背景をもつ一般住民の水分補給習慣・状態と健康関連行動・状態との関連を調査
この研究の参加者は、ボーランド国内の幅広い多様性をもつ集団から募集された。具体的には、居住地域(都市部、農村部)、社会経済的地位、教育歴などの偏りを避け、17~66歳の450人を募集。このうち、年齢別該当者数が少ないことから18歳未満と40歳以上は解析から除外。また、急性・慢性腎障害、癌、高血圧、過敏性腸症候群の既往、ステロイド、利尿薬等の処方、過去3日以内の下痢・嘔吐・発熱のエピソード、身体の障害、妊娠・授乳中、およびデータ欠落などの該当者を除外し、最終的に337人(女性67.1%)を解析対象とした。
評価項目について
水分補給習慣と水分補給状態
水分の摂取習慣は、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて、紅茶、コーヒー、ハーブティー、牛乳、発酵乳飲料、ミネラルウォーター(炭酸入り/炭酸なし)、ジュース(フルーツジュース、野菜ジュース、ミックスジュース)、無炭酸フルーツドリンク、加糖炭酸飲料、コーラ、エナジードリンク、アイソトニックドリンク、ノンアルコールビール、ビール、ワイン、ウォッカ、アルコール飲料などの摂取量を把握した。
水分補給状態は、前述のように尿比重、尿浸透圧、尿pHで評価した。
健康関連行動と健康状態
健康関連行動は、国際標準化身体活動質問票(international physical activity questionnaire;IPAQ)を用いた評価した身体活動量、喫煙習慣、飲酒習慣、BMI、睡眠時間で評価し、またこれらの結果に基づき健康指数スコア(health index score;HIS)を算出。HISが0~2点は非健康的な生活習慣、3~5点は健康的な生活習慣と判定した。
健康状態は、血圧、ウエスト周囲長、握力、体組成などで評価した。
生活習慣が健康的か非健康的かで水分摂取習慣と水分補給状態が有意に異なる
健康指数スコア(HIS)に基づき、全体の34.1%が非健康的、65.9%が健康的と判定された。この両群を比較すると、年齢、居住地域、経済状態、健康状態に有意差はなかったが、非健康的な群には男性が多かった(44.4 vs 23.1%、p=0.001)。
9種類の飲料の摂取頻度が健康指数スコアに関連
健康指数スコア(HIS)に基づき生活習慣が非健康的とされた群と健康的とされた群の水分補給習慣を比較すると、食物摂取頻度調査票(FFQ)で評価した22種類の飲料のうち9種類の摂取頻度に有意差が認められた。具体的には、健康的な群は、天然発酵飲料、非炭酸ミネラルウォーターの摂取頻度が高く、非健康的な群は、風味付けられた発酵飲料、非炭酸フルーツ飲料、加糖炭酸飲料、お茶、エナジードリンク、ビール、ウォッカの摂取頻度が高かった。
生活習慣の差で尿比重と尿浸透圧にも有意差
次に、生活習慣が非健康的とされた群と健康的とされた群の尿所見を比較すると、生活習慣が非健康的な群は尿比重が高く(1.024 vs 1.019g/mL、p=0.038)、尿浸透圧も高くて(572 vs 516mOsm/kg、p=0.027)、体内の水分量が少ない傾向のある状態が示唆された。pHは両群ともに6.00だった。
日中の疲労、ウエスト周囲長、尿浸透圧は非健康的な生活習慣と独立した関連
続いて、非健康的な生活習慣を目的変数とし、年齢、性別、居住地、教育歴、経済状態を調整した回帰分析を施行。その結果、日中の疲労(オッズ比〈OR〉1.45〈95%CI;1.11~1.78〉)、ウエスト周囲長(OR1.35〈1.15~1.57〉)とともに、尿浸透圧(OR1.87〈1.33~2.37〉)が独立した正の関連因子として抽出された。反対に、非炭酸ミネラルウォーターの摂取頻度が高いことは、独立した負の関連因子として抽出された(OR0.54〈0.21~0.86〉)。
これら一連の結果に基づき著者らは、「健康指数スコア(HIS)と水分補給関連のパラメーターは、成人の健康状態の評価、および、介入において特別なサポートを必要とする集団の特定に補完的な役割を果たす」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association Between Health-Related Behaviors and Health Status and Hydration Status in Polish Adults」。〔Nutrients. 2025 Aug 9;17(16):2597〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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トップレベルのアスリートの食習慣は、主成分分析により8パターンに分類できるとこと、その食習慣のパターンと栄養状態や体組成が関連していることが報告された。ポーランドのさまざまな競技アスリートを対象に行われた研究。
アスリートの食習慣のパターンは概念的な定義に基づき分類された研究が多い
これまでの複数の研究から、アスリートはタンパク質を十分に摂っているものの、全粒穀物や果物、乳製品の摂取量が少ない傾向が報告されてきている。日常的な食習慣は体組成に影響を及ぼす可能性があり、それを介して間接的に、または栄養素摂取量の多寡が直接的に、アスリートのパフォーマンスを左右する可能性がある。ただし、アスリートの食習慣と体組成や栄養状態との関連に関する知見は十分でない。
加えて本論文の著者らは、このトピックに関する重要なこととして、これまでの研究で用いられている「食事パターン/プロファイル」といった言葉は、ごく一般的な「食事摂取習慣」、「食事の嗜好」といった意味合いで使われており、統計学的手法を用いて特定の食事パターンを定義したうえでそれらの語句を用いていることは希だとしている。これを背景として著者らは、ポーランドのトップアスリートを対象に食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて食習慣を把握し主成分分析を行いいくつかのパターンに特徴づけたうえで、体組成や栄養状態との関連性の有無を検討した。
8パターンの食習慣が特定され、体組成や栄養状態と有意な関連
この研究の参加者は、2017~19年に同国の国立スポーツ連盟、地域スポーツ協会、プロスポーツクラブなどを通じて募集された。エントリーした250人から、適格基準(競技スポーツを3年以上行っている/週に5回、1回1時間超のトレーニングを行っている、国内または国際大会に参加している)と除外基準(16歳未満、39歳以上/喫煙者/習慣的飲酒者)に基づき226人を解析対象とした。
解析対象者は年齢22.8±5.48歳、女性38.5%、BMI22.1±2.5、体脂肪率17.3±6.3%であり、行っている競技は個人競技が74.8%を占め、陸上(31.0%)やバレーボール(12.8%)が多かった。
トップアスリートの食習慣は8パターンに分類できる
主成分分析の結果、アスリートの食習慣は、以下の8パターンに分類された。
- 高脂肪(High-fat)
- 精製度の高いパン、ジャガイモ、コールドカット、ウインナー、ソーセージ、チーズ、バターなどの摂取頻度が高いことが特徴のパターン
- 菓子・飲料(Sweets and beverages)
- 加糖飲料、菓子、アルコール飲料、エナジードリンク、スープなどの摂取頻度が高いことが特徴のパターン
- 合理的(Potentially rational)
- 卵、豆類、白米、全粒粉パスタ、マリネ、漬物野菜、フレークなどの摂取頻度が高いことが特徴のパターン
- 野菜と果物(Vegetables and fruits)
- 野菜と果物の摂取量が多いことが特徴のパターン
- 肉と小麦粉(Meat and flour)
- 白身肉と揚げ物の摂取頻度が高いことが特徴のパターン
- 低脂肪(Low-fat)
- 赤身肉 、魚の摂取頻度が高く、ラード、ファストフードの摂取頻度が低いことが特徴のパターン
- 乳製品(Dairy)
- 発酵乳飲料、牛乳などの摂取頻度が高いことが特徴のパターン
- ジュース(Juices)
- 野菜ジュース、果物ジュースなどの摂取頻度が高いことが特徴のパターン
これらのパターンを性別で比較すると、高脂肪(p=0.001)、肉と小麦粉(p=0.014)、低脂肪(p<0.001)は男性で多くみられ、野菜と果物(p=0.001)、乳製品(p=0.033)は女性に多くみられた。<>
前記の8種類の食習慣パターンと、体組成および栄養状態との関連を、スピアマンのロー検定により検討した結果、以下のような関連が認められた(有意な関連のある因子とそのρ値)。
- 高脂肪
- BMI(-0.17)、痩身指数(slenderness index〈身長を体重の立方根で除した値〉、0.24)、ヘマトクリット(0.16)、赤血球数(0.16)、血清鉄(0.22)、血清尿素(0.19)、血清尿酸(-0.17)、AST(-0.23)、尿比重(0.17)
- 菓子・飲料
- 血小板数(0.18)、トリグリセライド(0.17)、総コレステロール(0.18)、血清アルブミン(0.17)、血清尿酸(0.19)、AST(-0.17)
- 合理的
- BMI(0.17)、痩身指数(-0.16)、好塩基球(0.18)、血清クロール(-0.25)、尿ケトン(-0.17)
- 野菜と果物
- BMI(-0.14)、上腕筋周囲長(-0.25)、ヘモグロビン(-0.26)、ヘマトクリット(-0.27)、赤血球数(-0.27)、血清カルシウム(-0.19)、血清尿酸(-0.18)、尿比重(-0.23)
- 肉と小麦粉
- 体脂肪率(-0.16)、ヘモグロビン(0.16)、ヘマトクリット(0.18)、赤血球数(0.18)、総コレステロール(0.17)、HDL-C(0.21)、血清フェリチン(0.18)、血清尿酸(0.25)、尿比重(0.22)
- 低脂肪
- BMI(0.15)、ウエストヒップ比(0.22)、体脂肪率(-0.16)、ヘマトクリット(0.18)、赤血球数(0.18)、血清無機リン(0.21)、血清フェリチン(0.23)、血清ビタミンB12(0.25)、血清総蛋白(-0.20)、血清尿素(0.32)、ALT(0.19)、γ-GTP(0.24)、尿比重(0.18)
- 乳製品
- 血清クレアチニン(-0.20)
- ジュース
- BMI(-0.18)、血清クロール(-0.28)、血清マグネシウム(0.20)、血清鉄(0.22)、血清総蛋白(-0.21)、血清尿素(0.17)、血清クレアチニン(-0.20)、血清尿酸(-0.29)
個々のアスリートにあわせた栄養指導・介入に役立つ知見
論文の結論は以下のように総括されている。
本研究では、ポーランドのトップアスリートにおいて8種類の異なる食習慣パターンが特定され、そのうち2パターン(高脂肪、菓子と飲料)は、加工肉、脂肪、糖質製品の過剰摂取により非健康的と考えられる。男女差は顕著で、男性アスリートは高脂肪、肉、小麦粉中心の食事をより頻繁に摂取するのに対し、女性アスリートは野菜や乳製品を多く摂取するパターンが多かった。血清アルブミン、クレアチニン、尿比重の上昇といった指標は、特定の食習慣パターンと関連していた。また水分を多く含む食品の摂取が少ないパターンは、水分不足と関連している可能性が示唆された。これらの知見は、アスリート一人ひとりに合わせた栄養ガイドラインの開発に役立ち、コーチ、スポーツ栄養士、そしてトップスポーツに携わる医療専門家にとって実用的に応用できる可能性がある。
文献情報
原題のタイトルは、「Dietary Patterns and Nutritional Status of Polish Elite Athletes」。〔Nutrients. 2025 Aug 19;17(16):2685〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
0.001)は男性で多くみられ、野菜と果物(p=0.001)、乳製品(p=0.033)は女性に多くみられた。<>Page 25
オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)のスポーツサプリメント分類で、カテゴリーAに位置づけられているサプリメントについて、そのエルゴジェニック効果と生理学的な影響をレビューしたスペインの研究者らの論文が発表された。
オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)のABCD分類のカテゴリーAのエビデンス
スポーツサプリメントは多くの国で「食品」として扱われているため、医薬品に課せられているような厳格な臨床試験を経ずに市場に流通している。現在、アスリートのスポーツサプリ利用率は、報告により40~100%とされており、インターネットを利用した購入の台頭によってさらに身近な存在になってきている。これを背景に、安全性、有効性、流通の慣行等の評価がより重要となりつつある。
スポーツサプリの有効性等を判断する一つの基準として、オーストラリア国立スポーツ研究所(Australian Institute of Sport;AIS)のABCD分類が挙げられる。このABCD分類では、有効性を示すエビデンスのあるものをA、有効性のエビデンスはあるもののカテゴリーAほどには強固でないものをB、エビデンスが十分でないものをC、禁止物質をDとしている。今回取り上げる論文の研究では、これらのうちカテゴリーAに該当する、カフェイン、クレアチン、β-アラニン、硝酸塩/ビート根ジュース、重炭酸ナトリウム、グリセロールについて、それらのエルゴジェニック効果と生理学的な影響を総括することを目的としたレビューが行われた。
2015年以降のエビデンスの総括
PubMedを用いて、2015年以降に報告された、スポーツサプリの効果を検討したメタ解析、スポーツサプリに言及している、英語またはスペイン語で執筆されたポジション/コンセンサスペーハーなどの文献を収集した。2015年以降に限定した理由は、最近の10年間でアスリートに対する栄養の推奨事項が大きく変化してきたため。2名の研究者が独立して、事前に設定されたテンプレートに沿って採否を検討し、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。データ抽出に際しては、主として実用的かつエルゴジェニックなアウトカムを重視している文献に絞り込んだ。
最終的に、7件のシステマティックレビューと5件のポジションスタンドを抽出。論文ではこれらについて、詳細な解説とともに、摂取方法、適用されている競技、期待される効果、流通形態などを一覧表にまとめている。ここではその一覧表の内容を抜粋して紹介する。
- 一般的な摂取量
- 3~6mg/kg
- エビデンスのある競技
- 持久系競技、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、ボート、筋力スポーツ
- 摂取プロトコル
- 運動の60分前に摂取
- 有効性のエビデンス
- 有酸素運動と無酸素運動のパフォーマンスを向上。運動中に要する努力の自覚を軽減する。持久力を高める
- 流通形態
- カプセル、飲料、ジェル、ショット、チューインガム、粉末
- 一般的な摂取量
- ローディング期;1日20~30gまたは体重あたり0.3gを5~7日間、主食中に4回に分けて摂取。維持期;1日3~5gまたは体重あたり0.03g
- エビデンスのある競技
- 持久系競技、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、ボート、筋力スポーツ
- 摂取プロトコル
- クレアチン一水和物として、トレーニング前またはトレーニング後に50gのタンパク質・炭水化物と一緒に摂取
- 有効性のエビデンス
- スポーツパフォーマンスの向上。短期間の高強度運動を継続的に行うことで身体能力が向上する。毎日クレアチンを摂取すると、55歳以上の成人の筋力トレーニングの効果が向上する
- 流通形態
- カプセル、錠剤、粉末
- 一般的な摂取量
- 1日4~6gを分割摂取する
- エビデンスのある競技
- 短時間スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技
- 摂取プロトコル
- 4~10週間摂取
- 有効性のエビデンス
- スポーツパフォーマンスの向上
- 流通形態
- 錠剤、粉末、カプセル
- 一般的な摂取量
- 300~600mgまたは5~8mmol
- エビデンスのある競技
- 持久系スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技、持続時間が40分未満のスポーツ
- 摂取プロトコル
- 運動の2~3時間前に摂取
- 有効性のエビデンス
- スポーツパフォーマンスの向上
- 流通形態
- 粉末、ジェル、ショット、液体、錠剤、カプセル
- 一般的な摂取量
- 体重あたり0.2~0.4g
- エビデンスのある競技
- 持久系スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、体重階級のある競技、短時間スポーツ
- 摂取プロトコル
- 運動の60~120分前に1回摂取。競技の2~4日前に1日3~4回に分けて摂取
- 有効性のエビデンス
- スポーツパフォーマンスの向上
- 流通形態
- 粉末、錠剤
- 一般的な摂取量
- 1~1.2g/kgを25mL/kgの液体と一緒に摂取する
- エビデンスのある競技
- 持久系スポーツ、長期スポーツ、高温条件でのスポーツ
- 摂取プロトコル
- 運動の1~2時間前に摂取
- 有効性のエビデンス
- スポーツパフォーマンスの向上。脱水症状の予防
- 流通形態
- 粉末
文献情報
原題のタイトルは、「Ergogenic and Physiological Effects of Sports Supplements: Implications for Advertising and Consumer Information」。〔Nutrients. 2025 Aug 21;17(16):2706〕 原文はこちら(MDPI)
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【 スポーツ栄養Web編集部 】
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世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)は、先ごろ、2026年の禁止表国際基準を発表した。この基準は2026年1月1日に発行される。一部のトップアスリートが行っていると報道されている一酸化炭素吸入も、診断目的を除いて禁止される。
主な変更点は、以下のようにまとめられている。ここでは一部を抜粋し翻訳しているため、正確な情報は原典を参照のこと。なお、日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency;JADA)のサイトに、「専門家を含めた翻訳作業の後、当機構から2026禁止表国際基準(日本語版)を公開」すると記されている。
常に禁止される物質と方法(競技会検査と競技会外検査)
禁止される物質
蛋白同化薬
禁止ステロイドのエステルも禁止対象であることを明記。
ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質
Pegmolesatide(ペグモレサチド)を、新たなエリスロポエチン模倣薬の例として追加。
ベータ2作用薬
サルメテロールの投与間隔を、治療効果を超える潜在的なエルゴジェニック効果を回避するため改訂。最大投与量は変更なく、24時間で200μg。
ホルモン調節薬および代謝調節薬
2-Phenylbenzo[h]chromen-4-one(2-フェニルベンゾ[h]クロメン-4-オン)〔別名ɑ-naphthoflavone〈α-ナフトフラボン〉または7,8-benzoflavone〈7,8-ベンゾフラボン〉〕を、アロマターゼ阻害薬の例として追加。この合成物質はサプリメント中に存在することが確認されている。
5-N,6-N-bis(2-fluorophenyl)-[1,2,5]oxadiazolo[3,4-b]pyrazine-5,6-diamine(5-N,6-N-ビス(2-フルオロフェニル)-[1,2,5]オキサジアゾロ[3,4-b]ピラジン-5,6-ジアミン)〔別名BAM15〕を、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化薬の例として追加。この合成物質はサプリメント中に存在することが確認されている。
禁止される方法
血液および血液成分の操作
血液または血液成分の採取は、1)医療検査やドーピング検査を含む分析目的、または、2)当該国の関連規制当局によって認定された採取センターで行われる献血目的を除き、禁止されることが明確化された。ただし、多血小板血漿(PRP)および関連処置は引き続き禁止されていない。
一酸化炭素(CO)の非診断目的の使用が、禁止方法の新たなセクションとして追加された。一酸化炭素は、特定の条件下で赤血球造血を促進する可能性がある。総ヘモグロビン量の測定や肺拡散能の測定など、診断目的での一酸化炭素の使用は禁止されていない。
遺伝子および細胞ドーピング
細胞成分(例:核、ミトコンドリアやリボソームなどの細胞小器官)が、既存の正常細胞または遺伝子組み換え細胞の使用禁止に加えて、新たに追加された。
競技会(時)に禁止される物質と方法
禁止される物質
興奮薬
2-[Bis(4-fluorophenyl)methylsulfinyl]acetamide(flmodafinil/2-[ビス(4-フルオロフェニル)メチルスルフィニル]アセトアミド)、2-[bis(4-fluorophenyl)methylsulfinyl]-N-hydroxyacetamide(fladrafinil/2-[ビス(4-フルオロフェニル)メチルスルフィニル]-N-ヒドロキシアセトアミド)が、非特定興奮薬リストに追加された。これらの未承認物質は、modafinil(モダフィニル)およびadrafinil(アドラフィニル)の類似体であり、サプリメントとして販売されている。
グルココルチコイド
グルココルチコイドのウォッシュアウトに関する表の脚注として、「徐放性グルココルチコイド製剤の使用は、全身吸収の遅延により、ウォッシュアウト期間後もグルココルチコイド濃度が検出可能なレベルに達する可能性がある」と追記された。
関連情報
2026 Prohibited List(WADA) 2026禁止表国際基準(英語版)が公開されました(日本アンチ・ドーピング機構)
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