アングル:日米関税協議、投機の円買い呼び込む 先高観に拍車

 4月16日、米国でまもなく始まる日米の関税協議が、海外投機筋による円の買い仕掛けを呼び込んでいる。写真は円と米ドルの紙幣。2017年6月、シンガポールで撮影(2025年 ロイター/Thomas White)

[東京 16日 ロイター] - 米国でまもなく始まる日米の関税協議が、海外投機筋による円の買い仕掛けを呼び込んでいる。ドル/円相場は年初から下げトレンドを描き、投機筋はドル売りの保有コストを上回る収益を確保、円買いの回転が効いている状況だ。「米国からの円安是正圧力」というシナリオは分かりやすいだけに円の先高観は当面、収まりそうにない。外資系金融機関の間ではドル相場の見通しを引き下げる動きが出ている。

<投機の円買い2兆円弱、介入とほぼ同規模>

米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業部門の取組状況によると、投機筋の円の買い持ちは最新の今月8日時点で、差し引き14万7067枚まで積み上がり、3月上旬に記録した過去最大を再び上回った。

IMMの買い越し14万枚は、円換算で約1.8兆円。1日50兆円超とされるドル/円の取引高から見れば小さな額だが、1日あたり2─3兆円前後だった昨年7月の円買い介入額に劣らない規模と考えれば、円高効果はあなどれない。

収まる気配のない円買いに「海外勢は本腰を入れてドル売り/円買いを仕込んでいる。円高に対する確信度はかなりのもののようだ」(りそなホールディングスのシニアストラテジスト、井口慶一氏)と驚きの声が上がっている。

<高リスクの円買い戦略、年初来のドル大幅安で結実>

対ドルで円を買い仕掛けるには、金利の高いドルを売り持ちにし、低金利の円を買い持ちにするため、金利差損が発生する。値動きがなくても保有しているだけで損失が発生する、リスクの高い投資法となる。

そのため市場では、短期決戦が必定となる投機の円買いは長持ちせず、やがて持ち高解消のドル買い/円売りが活発になるとの予想が少なくなかった。だが予想に反し、IMMのデータで投機が円買いへ転向してから、すでに2カ月以上が経過した。

投機筋が高リスクの円買い戦略を継続できている最大の要因は、リスク回避的な急速な円高地合いが長続きし、金利差損を上回る収益を確保できていると見られることにある。

ドル/円は今月も含めると、年始から4カ月連続して下落し、下げ幅は最大で17円近くに達した。4カ月続けてドルが下落するのは、新型コロナが広がった2020年9月以降以来、約4年ぶりのことだ。

しかも、当時のドルは104円付近と水準が低かったこともあり、最大値幅は4円にも満たなかった。大きな値動きで相次ぎ利益を確定させたファンド勢が少なくなかったことは、想像に難くない。

<日米関税協議で円高誘導の可能性、介入も選択肢との思惑>

このタイミングで関税に関する日米交渉が始まることも、円高進行の思惑の火種となっている。

ベッセント米財務長官が先に、交渉では為替も議題になると発言したのに対し、赤沢亮正経済再生相は「為替は加藤勝信財務相とベッセント長官との間で引き続き緊密に議論していく」との認識を繰り返し、関税交渉と通貨は切り離すとの姿勢を強調している。

ただ、トランプ米大統領が米国の貿易赤字やドル高に不快感を示し続ける中、日本側の意向がそのまま受け入れられると見る市場参加者は少数派だ。

シティグループ証券のチーフFXストラテジスト、高島修氏は「トランプ政権の通貨政策がアグレッシブに動き出した時、日本は中国と並ぶ焦点となり、安全保障を米国に依存する日本は、交渉に乗り出さざるを得なくなる」と予想する。もちろん、その影響は「ドル/円の下落方向」に現れることになる。

みずほ証券チーフ為替ストラテジストの⼭本雅⽂氏も「2月の首脳会談で日本が示した対米投資増などだけでは、トランプ氏を満足させることはできなかった。メインシナリオではないが、日銀利上げはもちろん、介入のような円高誘導策を提示する必要性が出てくるかもしれない」と警戒する。

<ドル見通し下方修正、円高の追い風に>

大手金融機関の間では、ドルの相場見通しを引き下げる動きも出てきた。JPモルガンは、今年の年末に148円としていたドルの予想水準を140円へ下方修正。145円付近への下げを見越してドル売りを推奨していたモルガン・スタンレーも、ターゲットを135円へさらに引き下げた。いずれも、トランプ氏の高関税政策が米国経済に暗く大きな影を落とすとの見方で、JPモルガンは政策金利見通しを従来の4%から3%へ変更した。

JPモルガン証券為替調査部の斉藤郁恵氏は、トランプ氏の強硬的な政策運営が「米国に対する信認を低下させて資金流出が発生し、ドルを押し下げる」圧力にもなり得るとみている。

(基太村真司 編集:平田紀之、橋本浩)

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