コンサートのため香港に入境した女性、家族の生活給付金が打ち切りの危機に 中国
香港の中環地区に立ち並ぶ高層ビル群/Paul Yeung/Bloomberg/Getty Images
香港(CNN) 中国の低所得家庭出身のある女性が、コンサートへ行く目的で香港に入境した。女性はこのコンサートのために、数カ月間お金を貯めていた。
しかし、中国政府の巨大な監視システムはこの入境を見逃さなかった。現在女性の家族は、「贅沢(ぜいたく)な消費」をしたとして、政府からの給付金を失う危機に直面している。
この一件をきっかけに、中国のソーシャルメディア上では給付金受給者にもささやかな贅沢をする権利があるのかという議論が巻き起こった。一方で中国政府の監視システムの驚異的な規模も改めて浮き彫りになった。その機能は人工知能(AI)の進歩とデジタル決済の普及によって加速している。
今回の出来事は、人気SNS「小紅書」に寄せられた投稿で初めて明らかになった。投稿したユーザーは、当該の女性のいとこを名乗っている。
投稿によるとこの女性は、コンサートのチケット代と香港への旅費を捻出するため、「肉体労働で懸命に働き、補助金も貯金に回した」という。自宅のある江西省から香港までの距離は約380キロ。
投稿はその後削除されたが、中国当局は確かに女性のいとこが書いたものだと認めている。投稿のスクリーンショットは、この事件を報じる国営メディアでも使用されている。
香港は100年以上にわたる英国の植民地支配を経て、1997年に中国に返還された。香港は中国本土とは異なる法制度と政治体制で統治されており、中国本土の市民は現在も香港への入境許可を申請する必要がある。
小紅書の投稿によると、地元のソーシャルワーカーは女性に対し、香港との境界を越えると家族の福祉受給資格が見直される可能性があると事前に警告していたという。
「彼女が香港行きは海外渡航に当たらないと考えるほど愚かだったのか、それとも十分に承知の上で決行したのかは分からない」と投稿には書かれている。
女性の家族は「極度の貧困」状態にあり、給付金が打ち切られる可能性に「完全に打ちのめされている」と投稿は明かす。
そこまでのリスクを冒して、女性が誰のコンサートを見ようとしたのかは不明。
8月下旬、香港では2日間にわたる国際的な音楽賞の授賞式が開催され、人気K-POPグループを含む様々なアーティストがパフォーマンスを披露した。
9月7日、女性が暮らす地域に該当する江西省贛州市の社会事務管理局は、小紅書への投稿をめぐる激しい議論を受け、ウェブサイト上で公式声明を発表した。
同局によると女性とその家族は、女性がコンサートのために単身香港入りした後、調査の対象となっている。「当該の旅行を受けて、最低生活手当の受給者を監視するシステムがアラートを発動した」ためだという。
社会事務管理局は16日、CNNの取材に答え、調査は継続中だと述べた。
2020年までの40年間で、中国は人口の大部分を貧困から脱却させ、21年には習近平(シーチンピン)国家主席が極度の貧困の根絶を宣言した。しかし公式データによると、現在もなお全国で約4000万人が政府の生活給付金に依存している。
贛州市の政策によれば、世帯の1人当たりの収入が政府の定める最低生活手当の基準額を下回る場合、家族1人当たり月額1005元(約2万3000円)が支給される。
今回の一件は大きな議論を巻き起こし、中国の国営メディアまでもが介入する事態となった。
中国共産党機関紙「人民日報」は先週、論評の中で「もちろん、お金を使う自由は尊重されるべきだが、その自由には限界があり、公的扶助を受けている人々はなおさら規則に従う義務がある」と述べた。
さらに、「政府による生活保護は食料、衣料、住居、交通費といった生活必需品を賄うためのものだ。香港でコンサートを見るのは高額な娯楽であり、監視システムが警告を発するのも当然だ」と指摘した。
この件に関するオンライン上の議論は、中国のソーシャルメディアプラットフォーム「微博(ウェイボー)」で1億2000万回以上閲覧された。コメントの中には、この家族が生活保護を失うのは「残酷だ」という意見もあった。「低所得者だからといって、好きなことを楽しめないのか?」と疑問を呈する人もいた。
しかし、同情的な意見は少なかった。 「自分の家族がこんなにも苦しい状況なのに、彼女は稼いだお金を家族を助けるために使おうとは考えないのか?」と、別のユーザーは問いかけた。