すばる望遠鏡が迫った彗星の“素顔” アーカイブデータから彗星核表面の反射特性を精密測定
長い尾が印象的な彗星、その彗星核を直接観察できる機会は、実はそれほど多くありません。 国立天文台によると、彗星核の表面がむき出しになるのは、コマ(彗星の核から放出された物質でできた、明るいぼんやりとした領域)が消えるほど太陽から離れた場所に彗星があるときに限られます。そこまで離れた彗星は非常に暗いため、大口径の望遠鏡でなければ検出できません。 さらに、表面の性質を詳しく調べるには、太陽・地球・天体が一直線上に並んだ「衝(しょう)」と呼ばれる配置に近い、太陽と天体と地球(観測者)のなす角(位相角)が小さい状態での観測も欠かせないといいます。この2つの条件が同時にそろう機会は、極めて限られているのです。 それほど難しい彗星核の観測に研究者が挑むのは、水を含む小惑星や、小惑星に似た鉱物を持つ彗星核が見つかるなどして、彗星と小惑星の境界が近年曖昧になってきたからです。小惑星と彗星核の性質を比較できれば、太陽系の起源や進化を知る手がかりが得られるかもしれません。
研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HSC(ハイパー・シュプリーム・カム)」を用いた大規模サーベイプログラムの公開アーカイブデータを調べる中で、土星の公転軌道よりも遠く、太陽から約10.5天文単位離れた場所でコマのない状態にある28P/Neujminを発見しました。 その画像は、太陽・地球・彗星が一直線に並んだ「衝」のタイミングに非常に近い、位相角0.334度という好条件で取得されたものでした。解析の結果、28P/Neujminの表面の色は、水を多く含んでいて暗く赤みを帯びたD型小惑星によく似ていることが明らかになりました。 また、衝のタイミングにある天体を観測すると、表面の粒子が作る影がほとんど見えなくなることで普段よりも明るく見える「衝効果」による増光が観測されます。28P/Neujminの場合、光をよく反射する明るいタイプの小惑星に匹敵するほどの大きな増光がみられました。 ところが、D型のように暗いタイプの小惑星は一般的に、衝効果による増光はそれほど大きくないといいます。さらに、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の彗星探査機「Rosetta(ロゼッタ)」が観測した彗星「67P/Churyumov-Gerasimenko(チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星)」と比べても、28P/Neujminの増光はより急峻で強いものでした。 この結果は、色や反射率が似ていたとしても、表面を覆う粒子の微細な構造が大きく異なっている可能性を示しています。研究チームは、太陽に近づくたびに氷の昇華を繰り返す28P/Neujminでは、彗星活動の積み重ねによって小惑星にはない表面構造が作り出された可能性があると考えています。 大坪氏は、すばる望遠鏡のアーカイブデータには興味深い太陽系小天体のデータが眠っているとした上で、「今後さまざまな彗星について同様の観測を進めることで、太陽系の歴史の中で、彗星核の表面構造がどのように作られてきたのか、さらには太陽系の天体がどのように形成され、現在の姿になったのか、理解が進むでしょう」と期待を述べています。 参考文献・出典 すばる望遠鏡 - すばる望遠鏡のアーカイブから見つかった彗星の素顔 Ootsubo et al. - Opposition effect of comet 28P/Neujmin observed with Subaru Hyper Suprime-Cam (Publications of the Astronomical Society of Japan)
sorae編集部