[検証・万博の現在地 開幕まで1か月]<1>万博・海外館は完成2割「間に合いますように、そう祈っている」…34棟駆け込み検査へ

 バウムクーヘンのような円筒形の建物が連なるドイツパビリオンの外観が仕上がっていた。2月末、大阪・ 夢洲(ゆめしま) の万博会場。昨年4月に着工し、最終盤に入った建設現場を視察した館長のクリストファー・ヘッカー(37)は「内装や展示も含めて完成度は90%」と話した。

ドイツパビリオンの建設状況について説明するクリストファー・ヘッカー館長(2月28日、大阪市此花区の万博会場で)=原田拓未撮影

 敷地面積3500平方メートルは、海外47か国が自前で建てる「タイプA」のパビリオン42棟で最大級だ。残る作業は館内装飾や庭の整備など。屋外では作業員が重機で地面を掘り起こし、カシなどの植栽を急いでいた。ヘッカーは「同時並行で作業している。3月中旬に完成する」と自信を見せた。

様々な事情

 日本と海外158か国・地域が参加する大阪・関西万博で、展示やイベントなどに使用されるパビリオンは日本の27棟を含めて計84棟。諸外国が使う57棟のうち、ドイツなどが独自に建設するタイプAは「万博の華」と呼ばれる。各国が威信をかけてデザインや工法などを競うためだ。その分、工期やコストは膨らみがちで、物価上昇など世界情勢のあおりも受け、建設が曲折をたどる国が相次いだ。

 西欧のある国は、母国からの資材調達にあたり、治安が悪化する中東を避け、アフリカ・喜望峰を大回りする航路を選んだ。中国の港でコンテナが1か月以上足止めになったこともあった。3月末に完成にこぎつけそうだが、担当者は「いろいろな事情でどんどん遅れ、計画通りにはなかなかいかない」と打ち明けた。

 当初タイプAには60か国が名乗り出たが、資材費の高騰に加え、日本での施工業者探しが難航したことでインドやブラジルなどが次々と自力建設を断念した。残った47か国42棟でも、万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)が完成期限の目安とした「1月中旬」までに、建築工事が終了した後に受ける検査を終えたのはアイルランド、フィリピン、韓国の3棟のみ。その後、オランダやハンガリーなどが加わり、3月10日時点で2割の計8棟が完成したが、ドイツを含む34棟は「検査未了」だ。

 背景には、建物ができた後も検査を先送りして館内装飾などを急ぐ国が多い事情がある。3月中の駆け込み検査で、万博協会は開幕までに全てが完成する見通しだとしている。

館内準備遅れ懸念

 建物の整備に加え、ここへ来て浮上しているのは、館内の準備が間に合うのかという懸念だ。展示品の日本への輸入や館内での陳列、装飾などに手間取れば、準備が整わないまま開館するかどうかの判断を迫られる。自前建設のタイプAに限らず、日本側が建物を用立てる他の3タイプの111か国・地域に共通する課題だ。

 万博協会は各国と連絡を取るチームを作り、工程管理に努めてきた。途上国の事情に詳しい協会理事は「『最初の1か月はウォーミングアップ』と言う国もある。展示品が開幕後に届く国は、たぶん出てくる」とみる。

 万博で開幕に間に合わなかったというケースは少なくない。2005年愛知万博で、南米4か国が出展した「アンデス共同館」では展示内容に関する各国間の調整に時間がかかり、開館は開幕50日目にずれ込んだ。リビア館は約1週間後、チャドがアフリカ28か国の共同館でブースをオープンできたのは108日目だった。当時の担当者は「開幕に間に合わせるという意識がどうしても低い国もある」と指摘する。

 10月13日まで半年にわたって行われる万博の開幕まであと31日。万博協会幹部は気をもむ。「スケジュールがぎりぎりの国がいくつかある。間に合いますように、不測の事態が起こりませんように。そう祈っている」

(敬称略。石見江莉加、大槻浩之)

 海外パビリオンの建設遅れや入場券の販売不振など様々な課題が指摘されてきた大阪・関西万博は、4月13日の開幕まで1か月に迫った。直前の準備状況を点検し、今後の展望を探る。

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