コラム:電力優位は追い風か、中国AI競争にも「内巻」リスク

写真は世界人工知能会議(WAIC)の海上で撮影された「AI」の文字。2023年7月、上海で撮影。REUTERS/Aly Song

[香港 7日 BREAKINGVIEWS] - 中国における人工知能(AI)分野の進歩が止まらない。米国の半導体規制にもかかわらず、中国は世界トップクラスのモデル、多数のアプリやチャットボットを誇り、さらには、安価かつ豊富な電力でデータセンターを稼働できるインフラがその基盤を支えている。老朽化した電力網に苦戦し、企業が新たな電力容量の稼働を何年も待たされている米国の電力事情とは対照的だ。

米半導体大手エヌビディア(NVDA.O), opens new tabのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)ら大手企業幹部が警鐘を鳴らすのも無理はない。フアン氏は昨年11月、「中国がAI競争に勝利する」と発言。米国に比べて低いエネルギーコストと規制の緩さを理由に挙げた。その1カ月前にはオープンAIが、米国の主導権を揺るがす「電力格差」について述べた。こうした危惧は大げさかもしれない。

フアン氏の指摘は一理ある。エネルギー分野の独立系シンクタンク「エンバー」によると、中国における発電量は2024年には1万テラワット時(TWh)を超えた。これは米国の発電量の2倍以上だ。米国の設備容量は中国の3分の1にすぎない。

両国の電力格差は、中国政府が化石燃料脱却を推し進める中で拡大し続けている。中国国内の風力・太陽光発電の容量はそれぞれ、30年までに現在の2倍、3倍近くにまで増加するとコンサルティング会社ウッド・マッケンジーは予測する。30年までに再生可能エネルギーが5500TWhの電力を生み、総発電量の40%を占めるだろうと推定しており、同年に想定されているデータセンター需要479TWhを十二分にカバーできる量だ。

米国の状況は大いに異なる。電力需要は数十年間横ばいで推移しており、新しい供給網に投資する動機が弱かった。そのツケが今、データセンターに降りかかっている。モルガン・スタンレーのアナリストは、データセンターで25-28年の間に44ギガワットの電力不足に見舞われると試算。送電網への接続を待つ発電プロジェクトが滞留し、最大のボトルネックになっている。その規模は24年末時点で米国の発電設備容量のほぼ2倍に達する。

理屈の上では、潤沢な電力は、アリババ(9988.HK), opens new tabやバイトダンスなどの中国企業が国内製の半導体をより多く投入し、AIモデルの学習に回すことを容易にするはずだ。国内品はエヌビディア製より性能が劣り、電力効率も悪いが、米国の輸出規制の影響を相殺する余地が広がる。バンク・オブ・アメリカのアナリストによると、中国では産業用電気代も米国より平均30%安いという。
しかしながら、この優位性はまだ、中国AI事業の成果には結びついていない。中国は新たなデータセンター建設やクラウドコンピューティング分野で米国に遅れを取っており、米国の半導体規制に依然として手を焼いていると資産運用会社バーンスタインは指摘する。同社は、中国企業の27年のAI設備向け投資額は1470億ドル(約23兆円)と予測。これは、ビジブル・アルファが推定した同年のアマゾン・ドット・コム(AMZN.O), opens new tab1社の設備投資総額にも満たない。

加えて、フアン氏らは重要なことを見落としている。増える電力需要に対応すべく、中国は新設備の建設に巨額投資を行っているという点だ。バーンスタインによれば、電力需要の伸びは過去5年間毎年、国内総生産(GDP)成長率を上回っており、30年までに1万3500TWhに達するとみられている。エネルギー集約型の産業部門が化石燃料からの転換を進め、電気自動車(EV)などの人気も急速に高まっている。データセンターの電力消費量は、全体の3%にすぎない見込みだ。

再生可能エネルギーは導入が容易でない限り、容量が大きくてもほとんど意味をなさない。需給バランスや送電線容量の制限により出力が抑制された割合を示す「出力抑制率」は、中国で25年上半期、前年の3.9%から6.6%へと上昇。チベットでは、太陽光と風力の抑制率が、それぞれ最大34%、30%に達した。

要因の1つは、再生可能エネルギーの多くが国内西部の遠隔地にまとまっていることだ。競争の激しいEV製造拠点やAI企業などが集中する東部などへの長距離送電が大きな課題となっている。

これに対処するため、政府は超高圧送電とエネルギー貯蔵への投資を強化し、30年までに420ギガワットを超える西部から東部への送電プログラムをサポートする新しい送電網システムの構築をを目標としている。

実現すれば電力抑制率が緩和されるはずだが、政府は当面の間、データセンターの西部移転でしのいでいる。21年に始まった野心的な「東数西算」プロジェクトの狙いは、光ファイバー網でデータを国内横断的に送る方が安く効率的だ、という発想にある。

これが内モンゴルや貴州省など、資源が豊富な地域での建設ブームに火をつけた。だが転送速度が遅すぎるという問題が浮上。多くの新設備はリアルタイムでの応答を必要とするAIタスクには適さないことが明らかになった。ロイターは昨年7月、関係者の話として、稼働率が20%にも満たない、存続不可能なデータセンターが乱立していると報じている。

データ・送電技術の向上は、もちろん役には立つだろう。だが、再生可能エネルギーとデータセンターを持て余している現状は、より広範かつ体系的な問題の一環と言えるかもしれない。AIモデルの学習に使用される高性能半導体が不足する一方で、モデルがユーザーからの入力に応答する際の計算処理に使用される、より性能の低いプロセッサーの国内供給は28年までに需要を上回ると、バーンスタインのチンユアン・リン氏はみている。

AIモデルやアプリを巡っては、アリババ、ディープシーク、バイトダンスなどが採算度外視の値下げ競争を繰り広げている。その傍らで「稀宇科技(ミニマックス)」や「智譜AI」といった小さな企業は赤字を垂れ流している。智譜AIは目論見書の中で、中国のAI市場が昨年の2190億元(約5兆円)から30年までに9930億元へと成長するとの見方を示した。

だが、その急成長にもかかわらず同社は、25年上半期に24億元の純損失を計上。同期間の売上高の12倍超にも上る。政府関係者は最近、ヒューマノイド(人型ロボット)産業で投資バブルが形成される可能性があるとも警告した。いまや150社超のメーカーが存在する中、技術が実証されていない上、規制が不透明で、需要も疑わしいことを理由に挙げている。

こうした「内巻」のシナリオは、中国政府がいま最も避けたいものだ。破壊的な競争と過剰生産は、中国企業がEVやバッテリー、太陽光パネルなどの分野で主導権を握るまでに押し上げた。だが、その代償として、デフレ的な価格競争、低い投資収益率、巨大資本の配分ミス、そして20兆ドル規模の経済における構造的不均衡の悪化をもたらしている。これらは全てはいずれ、技術革新と成長にも悪影響を及ぼすことになるだろう。

米中の電力格差は、オープンAIなど米企業の進歩を遅らせ、中国企業が半導体事業で追いつく時間を稼げるかもしれない。しかし同時に、中国の産業が長い間悩まされてきた好不況サイクルの舞台を整えることにもなり得るのだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください

Robyn Mak joined Reuters Breakingviews in 2013. Previously, she was a Research Associate for the Global Policy Programs at the Asia Society in New York. She has also worked at the Carnegie Endowment for International Peace in Washington DC and interned at several consulting firms, including the Albright Stonebridge Group. She holds a masters degree in international economics and international relations from the Johns Hopkins School of Advanced International Studies and is a magna cum laude graduate of New York University.

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