ドル円見通し|ドル円は年末140円台へ?中東情勢の改善がもたらす大幅な円安修正の可能性【伊藤忠総研レポート】

●サマリー

米国とイランの合意が報じられ、日銀が利上げを決めたにもかかわらず、ドル円相場の反応は限定的であり、ドル円相場と日米金利差の相関関係が喪失したようにも見える。ただ、イラン情勢悪化のほか、高市政権の金融緩和志向や拡張的な財政政策、トランプ関税による影響を取り除いた計量的な分析では、日米の金利動向が足元までドル円相場に有意な影響を与えていることを確認。また、この結果からは、中東情勢の鎮静化により、年末には1ドル=140円程度まで円安修正が進む可能性が示唆された。

ドル円相場と日米金利差の相関が喪失

ドル円相場と日米10年債利回り差の関係(2023年)

一般的にドル円相場の変動要因として筆頭に挙げられるのが日米の金利差であることは間違いない。2023年のデータでは日米の金利差が大きいほど円安となる傾向が確認でき、両者の間に比較的強い相関関係があった。

ただ、両者の関係は必ずしも安定していない。2024年前半には相関関係が弱まったものの、6月初から米国大統領選(11月3日)までの間は再び相関が明確となり、さらにトランプ大統領就任から2025年4月の相互関税発表前日までは相関関係がより鮮明になった。

ドル円相場と日米10年債利回り差の関係(相互関税発表から自民党総裁選)

ところが、相互関税発表後は両者の相関関係が大きく崩れている。2025年4月の相互関税発表から10月の自民党総裁選までの間は、経済理論に反して日米金利差が拡大するほど円高が進む傾向となった。これは金利差以外の要因の影響が強過ぎて、金利差の影響が埋没していた可能性を示している。

続く自民党総裁選から米国・イスラエルによるイラン攻撃を経て、直近までの関係を見ると、ドル円相場と日米金利差はほぼ無相関となった可能性を示すに至っている。

日本の金融財政政策やイラン戦争が円安圧力に

そこで、ドル円相場に強い影響を与えたと思われる①トランプ関税の導入②高市政権が志向する緩和的な金融政策と拡張的な財政政策③イラン情勢の悪化、という要因を取り除いたうえで分析すると、この間も日米の金利差は引き続きドル円相場に明確な影響を与えていることが確認された。具体的には、日本の長期金利1%Pt上昇で4円弱の円高、米国の長期金利1%Pt上昇で6円近い円安となる。

また、日本の貿易収支は1兆円の改善で12円程度の円高圧力となることが示された。中東情勢の悪化は「有事のドル買い」に代表される不確実性の高まりにより15円近い円安要因、高市政権の拡張的な財政政策・金融緩和志向は11円強の円安圧力となっている可能性が示された。

中東情勢の鎮静化などから大きく円安修正が進む可能性

この結果に従うと、今後のドル円相場は円高へ、言い換えれば行き過ぎた円安が修正される可能性が高い。まず、日本の政策金利が中立金利まで引き上げられる一方、米国の政策金利は米国・イランの合意を受けて引き上げが見送られる可能性もあり、日米金利差は縮小、円高圧力となることが見込まれる。

さらに、イラン情勢の改善自体が円安圧力を緩和する要因となる。加えて、原油価格の下落が日本の貿易収支を改善させるため、これも円高要因となる。トランプ関税については影響が維持される見込みだが、以上のような円高要因を踏まえれば、円安修正圧力は徐々に強まっていこう。そのインパクトは、中東情勢の改善で約15円、日本の貿易収支が月5千億円改善するとして約6円、日本の長期金利が0.5%上昇すれば2円程度、合計で20円を超える円安修正となる。このまま中東情勢が沈静化し、ホルムズ海峡の交通が正常化すれば、年末に1ドル=140円程度まで円安が修正される可能性があることは念頭に入れておきたい。

●伊藤忠総研・武田淳氏のレポートはこちら👇

中東情勢の改善がもたらす大幅な円安修正の可能性

伊藤忠総研のレポートはこちら ▶

伊藤忠総研・チーフエコノミスト武田淳(たけだ・あつし)

1990年大阪大学工学部応用物理学科卒業。2022年法政大学大学院経済学研究科修了。1990年第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、第一勧銀総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)、みずほ銀行総合コンサルティング部などを経て、2009年伊藤忠商事入社。マクロ経済総括・チーフエコノミストとして内外政経情勢の調査業務に従事。2019年伊藤忠総研設立に伴って出向。2023年より代表取締役社長を兼務。「ESPフォーキャスト」フォーキャスター、テレビ東京「モーニングサテライト」レギュラーコメンテーター、日経新聞「十字路」レギュラー執筆者。

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