沖縄の「気持ち」|広尾晃「野球のことを中心に、そのほかの話題も」

ここ15年ほど沖縄県には毎年行く。5年前からは3~4回は行くので、もはや「旅」と言う感覚はなくなっている。現地の人とも良く話すが「普天間基地の辺野古移転」に関して積極的に肯定する人に出会ったことはない。しかし沖縄県知事選挙の結果で見るように県民感情は、それほど単純ではない。

周辺住民の気持ち

辺野古地区は、名護市の日本ハムキャンプ地とは山をはさんで裏側にある。一度だけバスで行ったことがあるが、サンゴ礁になっていて、那覇市周辺とは海の色が違う。そもそも沖縄本島でも北部のヤンバルは、自然環境が那覇市など南部とは大きく異なっている。名護市はヤンバルの入り口にある都市だが、那覇市や浦添市など南部とは、文化もかなり異なる。辺野古の地に、巨大な米軍基地が移設されることに、名護市の住民は複雑な感情を抱いている。基地予定地の土地所有者は、基地ができれば莫大な賃料が期待できる。戦後、沖縄県には、基地の賃料で高収入を得た「基地成金」が出現した。沖縄では「基地成金」は嫉視されることが多いので、東京などでタワーマンションを所有して富裕層として生活する人もいた。ただ戦後80年を経て「基地成金」も様相が変わった。辺野古周辺の土地は、投機筋や投資家がすでに買いあさっているといわれる。また、基地ができることで新たな雇用が生まれるとの期待感もある。一方で、基地ができることでアメリカ軍兵士との様々なトラブルが起こることは、沖縄県の他地区で山ほど起こった事例によってよく知られている。基地成金や特需と無関係の近隣住民にとって、基地ができることで生活が一変するという危機感がある。また辺野古地区は、絶滅危惧種であるジュゴンの生息地であり、生息環境が脅かされる懸念もある。

沖縄県民の気持ち

今の普天間基地(MCAS FUTENMA)は宜野湾市の中央部にある。宜野湾市の土地面積の4分の1に相当する広大なエリアを米軍の空軍基地が占めている。沖縄市や名護市からバスで那覇に帰るときは、この基地を延々と眺めることになる。自転車で基地の横を走ったこともあるが、非日常的な光景が広がっていた。那覇市近郊のこの土地が返還されれば、一大経済圏ができるのは間違いない。1987年那覇市北部の米軍専用住宅地「牧港住宅地」が米軍から返還されたが、今この地区は「那覇新都心」として、整備され、新しい街になっている。この地区にある沖縄県立博物館、美術館は非常に充実しているが、通称「おもろまち」というこの地区が、沖縄経済を発展させた。そういう意味では普天間基地の移転は「経済発展」の期待が高く、沖縄県民としては「期待感」があるのだ。しかし同時に、沖縄県民は「沖縄は戦後、米軍基地を押し付けられてずっと我慢してきた。いい加減によその地方に基地をもっていってくれよ」という気持ちも強い。沖縄でタクシーに乗れば、こういう話を本当によく聞く。沖縄県民は明治維新以後、ずっと「二級市民」のような扱いを受けてきた。そうした怨恨もあって「今度はよその都道府県に」と思っているのだ。2019年の沖縄県民投票では、71.7%が「辺野古基地移転反対」だった。「いや、基地は地政学的に沖縄でないと」と言うお利口な意見は、沖縄県民の感情を逆なでするだけだ。

右だ左だ

沖縄県民と他の日本国民の「意識のギャップ」は、本来、右だ左だの政治論争とは別の次元だったと思うが、日本政府が「普天間基地の辺野古移転」を推進したことで、沖縄の左翼、さらにはそれと連帯する日本の左翼勢力が、辺野古基地反対運動を展開した。沖縄県民の多くも、この運動を応援していたと思うが、この手の左翼の反対運動は言論に訴えるのではなく「座り込み」「デモ」などワンパターンの実力行使に走りがちだ。自分たちの支持者以外を説得する「言葉」を持っていない、独りよがりの集団だからだ。成田基地闘争でもそうだったが、次第に自己満足的なものになり、政府や沖縄経済界は、この運動を無視して工事を進め、基地移転を既成事実化しようとした。辺野古基地反対運動は「タコつぼ化」しつつあった。ちなみにこうした左翼勢力が中国とつるんでいるというのはデマだ。中国は日本の経済界を篭絡しようとしているが、ちっぽけな日本の左翼など相手にしていない。そこへきて、今年3月、同志社国際高校の修学旅行の死亡事故が起こった。私は一昨年来、同志社国際高の投手、フォーク黒田レイモンド豪の取材をしてきた。同志社国際の指導者にも話を聞いたが、この事件以降、取材が難しくなった。事件はサンケイ新聞が大々的に書いたこともあり、あたかも政治問題のようになり、学校法人同志社の八田英二理事長が辞任する騒ぎになった。痛ましいことに教員が自殺したが学校側に「辺野古基地反対運動は正しい、だから生徒に現場を見せるべきだ」という独善的な思い込みがあったのだろう。八田英二は、先々代の日本高野連会長であり、野球経験がないなか「球数制限」などの改革を推進した人物だ。この事件が、決定的な要因となり、沖縄県知事選挙では、現職の玉城デニーが4選を阻まれ、自民や沖縄財界が推す新人の古謝玄太が大差で当選した。特に若者世代が新人を支持したことが大きいとされる。

政府は選挙結果を受けて、当初の概算要求(2897億円)から積み増し、3000億円超とする方向で調整に入った。玉城知事時代、沖縄振興予算は難癖をつけて毎年、100億円近くカットされていた。露骨な手のひら返しは、ポピュリスト高市政権らしい。

SNSの影響はそれほどでもなかった

今回の選挙は、県外からのSNSによる現職知事への誹謗中傷がすさまじかったといわれる。誹謗中傷の6割は東京からだったという。玉城デニーは訴訟すると言っている。一部に、兵庫県知事選挙と同じく、ネット民が選挙のハッキングをした、との声も上がり始めた。しかし日本ファクトチェックセンター(JFC)編集長の古田大輔は選挙を巡るSNSでの偽・誤情報の拡散について「SNSが勝敗を決めるほど影響を与えたとは言い難い」と分析している。私はJFCのレポートを毎週読んでいるが、いたずらに対立をあおったりしないJFCの冷静さは尊敬に値する。前知事の玉城デニーは「オール沖縄は辺野古基地反対」という固定観念に凝り固まっていたのだろう。「過信」ということになるか。

しかし日本における沖縄県の地位は依然として低い。現実はそう変わっていない。

「しっかりしないと」

辺野古基地問題がもたもたしている間に、トランプ二次政権ができた。トランプは米軍の基地負担を軽減させようとしている。沖縄県の基地も削減するか、その費用を「思いやり予算」以上に日本に負担させようとしている。中国は「沖縄は中国に朝貢していた。本来日本領土ではなかった」という言説を広める謀略を始めている。台湾問題も深刻になる中、古謝玄太知事になっても、基地問題が解決するかどうかは、明らかではない。沖縄の混迷は、そのまま「日本の混迷」へとつながっていく。我々は、無責任な言説にまどわされることなく「しっかりしないと」いけない。

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