高市首相は減税をしている場合ではない…トランプのイラン戦争が招く「米国債売り→ドル危機」の最悪シナリオ(プレジデントオンライン)
■米国は引くに引けない状況に陥った 米財務省が8月24日、対イラン制裁を強化した。詳細はさておき、そのエッセンスは、いわゆる二次制裁のスキームをフル活用して、イランを追い詰めようというものである。もっとも、これは米国の焦りの表れに他ならない。6月21日に始まった停戦協議は、60日間の期限を過ぎても結局のところまとまらず、決裂することになった。 【写真をみる】トランプ大統領の尻ぬぐいをする政治家 モノとカネの両面でイランに勝る米国が、イランによる粘り強い抵抗を受けて、むしろ追い詰められている。開戦の直前、米国のドナルド・トランプ大統領やピート・ヘグセス国防長官(戦争長官)は、電撃戦による短期での勝利をもくろんでいたのだろう。その当てが外れた形で、事態は着実に泥沼化しており、米国は引くに引けない状況である。 こうした構図は、どこかロシアとウクライナの戦争に似ている。ロシアと米国の最大の違いは、ロシアが地域大国である一方で、米国が世界の覇権国だという点だ。それだけに、米国による戦争の動向はグローバル経済に大きな影響を与える。イランがホルムズ海峡の閉鎖に踏み切ったことも、グローバルなエネルギー需給に影響を及ぼした。 他方で、米国の財政であり金融市場は、諸外国からのマネーの流入によって支えられている。米国発のグローバル金融危機が生じた2008年以降、中銀である連邦準備制度理事会(FRB)が散発的に量的緩和政策を実施してきたことにともない、国外投資家の米国債保有比率はかつてより低下しているが、それでも30%を超える水準である(図表1)。 ■イラン戦争を評価していない金融市場 マクロ的にも、米国の経常収支赤字であり、その背後にある財政赤字は、金融市場を経由した諸外国からの資本流入によって支えられている(図表2)。
その金融市場がトランプ政権を評価していないから、米国の長期金利の上昇が止まらない(図表3)。直近で何が問題視されている要因は何かというと、それはイラン戦争に他ならない。 長期金利の上昇を抑制しようと、米国の財政政策を司るスコット・ベッセント財務長官は躍起となっている。そのための政策の一環として、8月19日、米財務省は長期・超長期国債の買い入れ消却(バイバック)につき、1回あたりの上限額を20億ドルから40億ドル以上に拡大する意向を表明した。言わば、財政による市場介入である。 この政策が発表された日の米国の金融市場では、国債が買われて長期金利が低下したが、翌日には長期金利が反発し、元の水準に戻ってしまった。バイバックを拡大せざるを得ないほど、米財務省が金利上昇に警戒感を高めている。しかし市場介入という小手先の手段を取っているのだから、金利上昇の主因である歳出の削減には踏み込まない。 ■ベッセント財務長官は後始末を余儀なくされている そう判断したからこそ、金融市場では投資家が再び国債を売ったため、低下した金利がすぐに上昇したわけだ。結果的に、ベッセント財務長官によるバイバックの拡大は米国債売りの“呼び水”となった形だ。これは日本の円買い介入とよく似ている。円安の主因である財政拡張を止めない限り、市場介入だけで円売りトレンドは変わらない。 ベッセント財務長官としては実につらい立場だろう。そもそも全ての原因は、第2次政権発足以来のトランプ大統領による非合理そのものの政権運営にあるのだから、それを覆さない限り、この状況が好転することなどありえない。一方、トランプ大統領という君子が豹変することはありえないため、いかにお茶を濁すかに腐心せざるを得ない。 そもそもトランプ大統領は、米国の財政と金融が世界に支えられているという現実を、非合理で利己的な観点から再編しようと画策したスティーブン・ミランFRB理事やピーター・ナバロ貿易・製造業担当上級顧問らの主張に囚われ過ぎている。それに金融市場が“NO”を突きつけた後始末を、ベッセント財務長官は余儀なくされている。 ■ドル不安からドル危機の様相に 要するに、状況はすでに財政危機の端緒を迎えつつあるという警戒感があるからこそベッセント財務長官はバイバックの拡大という奇策を表明したのだろう。日本の円買い介入をユーロ売りで支援したのも、円買い介入のために日本政府が米国債を売却し、それが自らの金利上昇につながるのを抑制するための措置だったと考えれば整合的だ。 財政への不安は、国債を主な裏付け資産とする通貨への不安にもつながる。ドル円レートだけを見ていると分からないが、円以外の通貨では世界的なドル安に拍車がかかっている。メジャーカレンシーで言えばユーロやポンドが強く、ドルは弱い。それ以上に円は弱いのだが、いずれにせよ事態は本格的な“ドル危機”に転じるリスクを持つ。