3000万円で死を凍結? ヨーロッパ初の人体冷凍保存ラボの取り組み
体を冷凍して未来へタイムスリップ?
まるでSFのような話に感じられるかもしれませんが、実話です。ドイツのスタートアップが死亡後の患者を冷凍保存して、いつの日か蘇生させることを目指しています。その費用は約20万ドル(約3120万円)。あなたはその体を冷凍保存してもらいたいですか?
人体の冷凍保存技術(クライオニクス)とは何か
クライオニクス(cryonics)とは、液体窒素などで冷凍保存する技術で主に現代で治療が困難な患者の延命を目的に行なわれます。ただし体の損傷なしに解凍する技術は今のところ開発されていません。そのため病気の治療も、解凍技術も開発を未来に委ねて体だけ冷凍保存をすることを指しています。
「Tomorrow.Bio」の取り組み
Tomorrow.Bioの共同創設者で元がん研究者のエミル・ケンジオラ氏。彼は、がん治療の進歩が「非常に遅すぎる」と感じたことをきっかけに、世界初の冷凍保存ラボを創設しました。
約半世紀前にミシガン州でオープンしたこの冷凍保存ラボは、人類の未来を担うものになると信じる人々と、実現不可能だと切り捨てる人々の間で意見が分かれました。これまでに「3~4人」と5匹のペットが冷凍保存され、さらに約700人が登録しています。2025年には、アメリカ全土への拡大を計画しています。
冷凍保存後に蘇生に成功した例はまだありません。また、仮に成功したとしても、重度の脳損傷を受ける可能性があります。人間のような複雑な脳構造を持つ生物が蘇生に成功したことがない現状では、このコンセプトは「途方もない」と語る人物もいます。
その一人がキングス・カレッジ・ロンドンの神経科学教授クライブ・コーエン氏です。同氏は、ナノテクノロジー(ナノスケールでの処理)やコネクトミクス(脳のニューロンをマッピングする技術)が理論上の生物学と現実の間のギャップを埋めるという主張も言い過ぎであると述べています。
じゃあ実際にクライオニクスってどうやるの?
Tomorrow.Bioは、患者が死亡したと宣告された後、冷凍保存の手続きを特製の救急車で行ないます。患者が同社と契約し、医師が余命が数日であると確認すると、会社は患者の所在地に救急車を派遣します。法律的に死亡が宣告された後、患者は救急車内に移され、冷凍保存手続きが始まります。
遺体は凍結保護剤で氷点下に冷却されます。体内の水分をすべて冷凍保護剤に置き換えます。この液体の主成分は、ジメチルスルホキシド(DMSO)とエチレングリコール(不凍液などに使用される物質)で構成されています。
体を直接凍結させてしまうと、体に氷の結晶が出来て組織が破壊されてしまうため、この作業を行ないます。
その後素早くに約-125℃まで冷却し、その後ゆっくりと-196℃まで冷却します。ここまで冷却した後に患者はスイスの保管施設に移送され、いつか解凍できるようになる未来を待つ状態になります。
何度も書いていますが、技術的には現代で体にダメージを与えず蘇生する方法は開発されていません。創設者のケンジオラ氏は
計画は、将来的に医療技術が進歩し、患者を死に至らしめた癌などの病気が治療可能になり、冷凍保存手続き自体が可能になることです。それが50年後、100年後、または1,000年後になるかは誰にも分かりません。最終的には温度さえ維持できれば、事実上無期限にその状態を保てるのです。
と語っています。
クライオニクスのこれから
冷凍保存に対する批判的な声も多い一方で、この技術は医学の未知の領域を探求する可能性を秘めています。例えば、2023年にラットの腎臓が最大100日間も冷凍保存され、再加温後に移植された研究結果が示されました。
しかし、こうした成功が人間に適用できるかは依然として不明です。 また、死後の蘇生が保証されるわけではなく、莫大な費用や倫理的な懸念も同時に問題視されています。それでもケンジオラ氏は、自分自身で選択する自由が他の倫理的な懸念に勝ると信じています。
難病や治療が確立されていない病気を治すために、多くの研究が行なわれていることは確かです。その治療を先延ばしにすることで助かる可能性はゼロではなくなります。病気の治療方法として、クライオニクスが選択肢として加わった時、それは永遠の命を私たちは手に入れたと言えるのでしょうか。
人類にとってそれがプラスに作用するのか、マイナスに作用するのかは今はまだ誰もわかりません。
Source: BBC, Thermo Fisher