海図なき世界 二つの戦争 秩序再建へ中堅国連携を

ウクライナ軍のドローン攻撃で煙を上げる倉庫=ロシアのモスクワ州で2026年8月16日、ロイター

 大国が安易に始めた戦いの出口が見えず、世界に混乱を広げている。暴走に歯止めをかけなければならない。

 2022年に軍事侵攻を開始したロシアは、ウクライナ領の2割を占拠した。だが人工知能(AI)を取り入れたドローン(無人機)による反撃に手を焼く。両国の死傷者が推計200万人に上っても、和平協議は進まない。

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 2月にイランへの攻撃を始めた米国も手詰まりの状態だ。応酬がやまず、戦闘終結に向けた覚書はないがしろにされている。危機は周辺地域に飛び火し、イランに支援される武装組織がイスラエルや他の親米諸国と衝突する。

ロシア軍の攻撃で起きた火災を消火するウクライナの当局者=キーウで2026年8月16日、ロイター

 あらわになったのは、横行する「力の支配」とその限界だ。

「力の支配」の限界示す

 米露は短期決戦による相手国の政権崩壊を狙ったが、力ずくで屈服させようとする姿勢が抗戦の意思を強めた。国際法を無視した攻撃は世界から批判された。

 米国は自国内で支持を得られず、犠牲者を出すことを恐れて地上部隊を派遣していない。高額なミサイル頼みになっているが、イランの安価なドローン戦術に消耗させられている。

 米露が泥沼に陥ったのは、過去の「成功体験」に引きずられたからだ。ロシアは14年にウクライナ南部クリミアを1週間程度で占領した。米国も今年1月にベネズエラのマドゥロ大統領を数時間の軍事作戦で拘束した。

 想定外の苦戦を強いられた米露の指導者は核の使用までちらつかせ、脅威の高まりに直面した各国は軍拡競争に走る。力を過信した愚行が、ドミノ倒しのように国際秩序を壊している。

 米露は戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所(ICC)への圧力も強め、第二次大戦後に築かれた法規範の危機が叫ばれる。

 世界経済への影響も甚大だ。

 農業大国のロシアとウクライナが船舶や輸出施設を攻撃し合い、穀物価格が急騰している。肥料なども高止まりしたままだ。

 米国の攻撃はイランを追い詰め、「禁じ手」に走らせた。海運の要衝ホルムズ海峡を支配下に置こうとして、通航料徴収を試みる。国際海峡の自由航行が脅かされ、原油価格の上昇も招いた。

 中国の横暴も目立つ。南シナ海や東シナ海で海洋進出を続け、レアアース(希土類)の輸出規制などで威圧する。

 大国が身勝手な行動に突き進む中、揺らいだ秩序を修復する上で鍵となるのがミドルパワー(中堅国)の役割である。

 連携を呼びかけたのはカナダのカーニー首相だ。1月の国際会議で「(大国以外の)国々は無力ではない。新たな秩序を構築する能力を持つ」と述べた。人権尊重、連帯、主権、領土の一体性という価値観の重要性を訴え、支持が広がった。

問われる日本の主体性

 大国が意のままに振る舞えば、弱肉強食の世界に逆戻りしてしまう。経済力や軍事力で劣る国々にとって、「法の支配」に基づく国際ルールの徹底が自らを守るセーフティーネットとなる。

 オーストラリアのラッド元首相は、10カ国程度が集まって国際的な枠組みや規範の再建を主導すべきだと提案する。

 急がれるのは、気候変動対策や自由貿易体制の立て直しに向けた取り組みだ。トランプ米政権のパリ協定脱退や高関税政策が打撃となっている。

 米国が手を引いた世界保健機関(WHO)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)に中堅国連合が資金を出せば、グローバルサウス(新興・途上国)の支持も得られる。

 唯一の同盟国である米国との関係に重きを置いてきた日本外交も岐路に立つ。今後は欧州諸国、韓国やオーストラリアなどとの関係深化がより重要となる。

 アジアでは資源の確保や地域安定のための連携が課題である。日本が軸となって協力体制を築くこともできるはずだ。慶応大の添谷芳秀名誉教授は「中堅国自身の強じんさを確かなものにする」と意義を説く。

 「私たちは集団として自分たちの能力に自信を持つべきだ」とラッド氏も指摘する。

 まず有志の中堅国が秩序の補修や補強に着手するのが現実的だろう。少しずつ成果を出しながら、テーマに応じて大国を引き込むことも求められる。そうしたしたたかな戦略が必要だ。

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