AIスタートアップが攻撃用ドローン開発-ウクライナで実戦活用か

欧州の新興企業ヘルシングは、ドローンやジェット戦闘機用の人工知能(AI)ソフトウエア開発により、この地域で有数の新興企業となった。そして今、独自の兵器を製造している。
弾薬を搭載しパイロットの指示や衛星利用測位システム(GPS)なしで航行できる攻撃用ドローン「HX-2」を開発した。軍事的緊張の高まりにより、ウクライナおよびロシアと国境を接する欧州諸国で最終的に、数千機もの無人航空機に対する需要が生まれると見込んでいる。同社は直近で50億ユーロ(約7900億円)と評価されている。
共同最高経営責任者(CEO)のトルステン・ライル氏はインタビューで、ソフトウエアを介してこれらの無人機を他の兵器、戦車、砲撃システムと接続することにより、「現在では実現不可能なレベルの抑止力を生み出すことができる」と語った。同社は、この新型攻撃用無人機に関する契約をまだ締結していない。
ヘルシングの攻撃用無人機開発への参入は、多数の小規模メーカーがひしめく市場で、同社が最も資金力のある新興企業の一つになることを意味する。同社の参入についてこれまで報道されたことはなかった。
欧州各国政府は米国がウクライナへの支援を取りやめるのではないかと警戒している。
ライル氏によると、ヘルシングはウクライナや北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して新型の無人機を売り込んでいる。「われわれには時間がない」と同氏は述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週、NATO加盟と引き換えにロシアとの停戦を受け入れる可能性を示唆した。
ヘルシングは年間数万機のHX-2ドローンを生産し、すでに市場に出回っている類似の攻撃用無人機よりも低価格で販売することを目指している。ライル氏は具体的な生産目標や価格を明らかにしなかったが、中国製の部品を使用せずに製造すると述べた。ヘルシングは2023年後半にドローン生産に着手し、今後はさらに多くのハードウエア機器を生産する予定だと説明した。
ビデオゲーム関連の起業家のライル氏はニクラス・ケーラー、グントベルト・シェルフ両氏とともに21年にヘルシングを設立した。以来、スポティファイ・テクノロジーの創業者、ダニエル・エク氏のファンドを含む投資家から7億7000万ユーロを調達している。ミュンヘン、パリ、ロンドンにオフィスを構え、NATOの東側面をより効果的に守るための取り組みの一環として、今夏エストニアに拠点をオープンした。
ヘルシングは技術や販売に関する詳細については慎重な姿勢を見せており、ドローンのデモの依頼も断っている。エアバスおよびサーブと契約し、「ユーロファイター」のアップグレード契約を含め、ジェット戦闘機の偵察および防御能力を向上させるためのレーダーデータ分析用AIシステムを開発している。
ウクライナへの展開
ドイツは6月に、攻撃用無人機を含む軍事物資、総額約5億ユーロ相当をウクライナに提供する計画を発表した。この契約の一環として、ドイツは12月からヘルシングのソフトウエアを使用する4000機の合板製攻撃用無人機の費用を負担する。
ヘルシングによると、これらの無人機のハードウエア製造パートナーはウクライナに拠点を置いている。同社はセキュリティー上の懸念からパートナーの社名を明らかにしなかった。「HF-1」と呼ばれるこの無人機はGPS妨害に耐性があることが、ウクライナ政府により認証されているという。
ドイツ国防省の報道官は政府が納入資金を調達していることを認めた。報道官は電子メールで「これらの無人機は広範囲にわたってテストされ、ウクライナによる使用が事前に承認されている」と説明したが、テストプロセスや契約の詳細については「軍事上の機密保持のため」明言を避けた。ウクライナ軍の担当者はコメント要請に回答しなかった。
爆弾を搭載した安価なドローンがウクライナの至る所で使用され、戦争の在り方と経済学を変化させている。ウクライナにとっての大きな問題は、ロシアによる電磁妨害だ。これにより、ドローンと遠隔操縦者間のGPS信号と通信が妨害される。
ヘルシングによると、同社はGPS座標を必要とせずに地形をマッピングするためにコンピュータービジョンとAIを使用するシステムによってこの問題を解決した。HF-1とHX-2の両モデルに、Altra(アルトラ)と呼ばれる新しいソフトウエアを搭載する予定だという。
Altraは、複数のドローンからのデータフィードを統合してより広範囲をスキャンし、標的を検出することができる。これにより、操縦者は「より多くの時間を意思決定に費やすことができると同時に、より正確に操縦できる」と同社の共同CEOであるシェルフ氏が述べた。「必要であれば、より大きな被害を与えることも可能だ」と付け加えた。
原題:AI Startup Helsing Is Now Making Attack Drones For Europe (1)(抜粋)