ゆがむ都市開発 ガスビルは延期、全国で計画見直し続出 資材高や人手不足…建築費が圧迫
建築にかかる資材費や人件費などの高騰が開発工事を圧迫し、計画を見直す事例が全国で相次いでいる。大阪では人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)で2030年秋ごろに開業予定のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の工事が本格化するなど、建設需要はふくらみ続け、都市全体の開発にゆがみが生じかねない。既存の古い建物を改修して生まれ変わらせるリノベーションの手法で、コストを抑える動きも出ている。
大阪・御堂筋沿いに建つ大阪ガス本社ビル「大阪ガスビルディング(ガスビル)」は昭和戦前期の建築様式を残し、市民に親しまれてきた。
大ガスはガスビルの大規模改修とともに、西側に33階建ての複合ビル(西館)を建設して本社機能を移転することを計画。まず西館の建設に24年ごろ着工し、27年ごろに完成させる予定だった。
ところが、大ガスは今年3月、複合ビルの着工延期を発表した。理由は建設資材価格の高騰だ。総事業費を約500億円超と見込んでいたが、大幅な上昇が判明した。「具体的なスケジュールなどは、関係先と協議のうえ検討を進める」としている。
建築費の高騰は大阪の都市開発を揺るがしている。大阪メトロは今年9月、大阪城東部の森之宮エリアの再開発を巡り、事業者選定入札での応募がなかったと発表した。予算が実際の建設費用と見合わなくなったことが背景にある。
大型開発計画の見直しは大阪にとどまらない。JR九州は9月、博多駅の線路上にオフィスやホテル、商業施設などが入居するビルを建設する「博多駅空中都市プロジェクト」の中止を発表。東京都中野区による複合施設「中野サンプラザ」の再開発計画も事実上、白紙化された。
今月12日には、名古屋鉄道が名古屋駅周辺の再開発で計画する新たな複合ビルの着工予定時期を「未定」にすると発表。入札の応募事業者が人手不足を理由に入札を辞退したためだ。
建設物価調査会(東京)がまとめた11月の大阪地区のマンション建築費指数(15年=100)は、1990年の調査開始以来で最高の144・0(暫定値)。担当者は「生コンクリートなどの資材費や人件費の上昇が背景にある」と話す。あるゼネコン関係者は「事業の縮小や一部見直し、工期の延長などは、どの案件でも起きているのが実情」と打ち明ける。
特に大阪で工事が本格化しているIRの規模は大きく、今後の都市開発に広く影響を及ぼしそうだ。大阪府市は今年9月、IRの初期投資額が従来から2430億円(約20%)増え、1兆5130億円になると発表した。不動産経済研究所の笹原雪恵・大阪事務所長は「IR工事は近畿中から人手を集めて実施しているのが実情。(近畿の広範囲で)施工費が上がり、人手も不足している」と分析する。
大阪ではIR以外にも大型再開発案件が目白押しだ。夢洲では大阪・関西万博会場の跡地開発の事業者募集が2026年春にも行われる。大阪市中心部を南北につなぐ新線「なにわ筋線」が31年に開業予定で、沿線の新駅周辺の開発も進む。
梅田周辺では、JR大阪駅北側の再開発区域「うめきた2期(グラングリーン大阪)」の全体まちびらきが27年度に予定される。複数の大規模計画が資材や人手を取り合い、水面下で予算の上昇が続いている可能性がある。
日本総合研究所の藤山光雄・関西経済研究センター所長は「(一連の開発延期などが)企業側の投資意欲に水を差す。経済的魅力が低い案件や、開発が困難な案件は、着手がさらに遅れて積み上がってしまう可能性が高い」と指摘し、相次ぐ計画の遅れが関西経済の先行きに否定的影響を与え得ると警鐘を鳴らす。
古い建物活用「リノベーション」でコスト抑制
建築費高騰を受けて、既存の古い建物を大規模改修して新たな価値を付け加える「リノベーション」で、コストを抑える手法も登場している。
関電不動産開発と積水化学工業は今年6月、積水化学が大阪本社として利用する「堂島関電ビル」(大阪市北区)のリノベーション工事を完了した。費用は周辺でオフィスビルを新築する場合の約半額だったという。
さらに、工事を1フロアごとに進める手法を取り、工事中に社員がほかのビルに移動する必要性も最小限に抑えた。新築するコストを避けつつ、愛着あるビルを利用し続けられる利点もある。
関電不動産開発の福本恵美社長は「今後のオフィス開発の一つのモデルケースにしたい」と話す。厳しい条件の中で、遺産を生かしながら新しい都市を生み出す試行錯誤が始まっている。(黒川信雄)
近畿大建築学部・寺川政司准教授(都市・地域計画)「柔軟性発揮し、知恵と工夫を」
建築費は社会的に相当上昇しており、契約時と完成時では、(当初想定した費用と)実際にかかった費用に大きな差が生まれてしまう事象が起きてしまっている。体力がある建設事業者はコスト上昇に対応できても、中小であれば大きな経営リスクとなってしまう。
費用の増大を見通して計画を立てることが必要だが、容易ではない。特に公共事業であれば、いったん計画が決まると再設定が困難という問題がある。無理に工事を進めると、万博の海外館で一部建設事業者への未払い問題が発生したように、誰かにしわ寄せが起こりかねない。
必要なのは柔軟な姿勢ではないだろうか。都市開発や計画を段階的に決めていく仕組みや、今はないものを新たにつくり上げる(新築する)と同時に、現存ストック(不動産など)で利用できるものを活用するなどの知恵と工夫が重要だ。
都市の開発は、住民を元気にするメッセージとしてはとても大事だ。すべてが計画通りいかなくても、コンセプトを活(い)かしながら現実と折り合える開発を進めるべきだ。(聞き手 黒川信雄)