スターマー英首相、マンデルソン卿の駐米大使任命は誤りだったと表明 手続き文書の公開受け
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リチャード・ウィーラー政治記者、デイミアン・グラマティカス政治担当編集委員
イギリスのキア・スターマー首相は12日、与党・労働党の長年の重鎮だったマンデルソン卿を駐米大使に任命したことについて、自身が「誤りを犯した」と述べた。一方、任命に関する事実を「隠蔽(いんぺい)」していたとの指摘については、首相官邸が否定した。
スターマー首相は、両者の友人関係を把握しながら同卿を大使に任命した判断について、あらためて問われている。
イギリス政府は11日、大使任命に関する文書を公開。それによると、首相はこの任命が「評判上のリスク」を伴うと警告を受けていた。
文書の公開後、初めて公にコメントを出したスターマー首相は、「誤ったのは私であり、エプスティーンの被害者に謝罪を述べるのも私だ。その謝罪を行う」と述べた。
一方、最大野党・保守党は、公開された文書で、マンデルソン卿の任命について首相が意見を書く欄が二つ、空白だったことから「隠蔽」があったと主張。この文書が編集された可能性があると疑念を示した。
同党のケミ・ベイドノック党首は、自身の閣僚経験に基づき、スターマー氏が何を望んだのかを説明するメモが存在すると予想していたと述べた。
しかし関係者によると、この二つの欄は一切編集されておらず、スターマー首相が確認した後に首相官邸から返却された形式のまま、11日に公開されたという。
首相官邸の報道官は記者団に対し「隠蔽があったという指摘を否定する。政府は全面的に規則を順守している」と述べた。
ピーター・マンデルソン前駐米大使は、1980年代に労働党での活動を開始。トニー・ブレア元首相とゴードン・ブラウン元首相の労働党内閣で複数の閣僚ポストを務めた後、2008年に叙勲されて一代貴族の「マンデルソン卿」となり、上院議員となった。
さらにその後、閣僚時代の2009年に市場に影響を与える可能性のある政府情報を元被告に渡した疑いがあるとして、公務中の不正行為の疑いで逮捕された。のちに保釈されたが、捜査は現在も続いている。
だが、公開された文書によると、マンデルソン卿が大使に正式に任命される9日前の2024年12月11日に首相へ送付されたデューデリジェンス(適正評価)文書は、この任命について「評判上のリスク」をもたらしかねない複数の問題を指摘していた。
この文書は、米JPモルガン銀行の発注で作成された2019年の報告書を取り上げ、エプスティーン元被告がマンデルソン卿と「特に親密な関係を維持していた」ように見えると結論付けていた。
また、元被告が未成年者に対する売春の勧誘で有罪判決を受けて服役していた2009年6月、マンデルソン卿が元被告の家に滞在していたと報じられていることも報告していた。
英政府が公開した文書の第1弾には、首相官邸がマンデルソン卿に送った、エプスティーン元被告との関係についての追加の質問状が含まれていない。
スターマー氏は12日、同卿に追加の質問を送ったと認めたうえで、ロンドン警視庁が捜査を進めているため、その情報を公開できないと説明した。
公開された文書はこのほか、外務省が正式な精査手続きを完了する前に、マンデルソン卿に機密性の高い資料に関する説明を行う提案があったことを示していた。
外務省のアメリカ・カナダ部は、2024年12月23日にマンデルソン卿に送った電子メールで、2025年1月6日以降に「より高い階層(の情報)を含む」追加説明を対面で行うと伝えている。
また、2025年1月30日に交付された雇用通知書には、同卿が高度な審査を通過したと記されている。
同年2月4日に外務省がマンデルソン卿に送った電子メールには、この職務にはSTRAP(特別取扱及び制限区域アクセス手順)認可と呼ばれるより高い水準の審査が必要で、その取得のためには別の申請が必要と記されている。
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保守党のアレックス・バーガート影の内閣府担当相は、「適切な審査が完了する前に、スキャンダルにまみれた元閣僚に高度な機密情報へのアクセスを許したのは、まったく不用意だ」と述べた。
労働党政府は、安全保障審査制度を見直す方針を示しており、デューデリジェンス手続きの改善を図るほか、安全保障審査が完了するまで外交任命を発表しないようにするとしている。
野党・自由民主党は、スターマー氏がマンデルソン卿の任命過程で「完全な適正手続き」が取られたと議会に保証したことが、閣僚規範違反に当たるかどうかを判断するため、首相自ら、独立した倫理顧問の調べに応じるべきだと主張した。
同党のリサ・スマート報道官(内閣府担当)は、「議会をミスリードしたという証拠が積み上がっている」と述べた。イギリスでは、議会で閣僚がわざとうそをついたり、議会をミスリードした場合、辞職・解任理由になる。ミスリードとは、議会に虚偽の情報を事実であるかのように提示し、誤った方向へ導くことを意味する。
保守党は、マンデルソン卿関連文書をめぐる「隠蔽の可能性」に関する調査と、公開された資料に「不備」があるとして、スターマー氏への調査を求めた。
保守党のバーガート氏は、首相倫理顧問のサー・ローリー・マグナスに書簡を送り、スターマー氏が「潜在的な閣僚規範違反」を起こしたか調査するよう求めた。
野党・緑の党のザック・ポランスキー党首は、スターマー氏は首相に「ふさわしくない」と述べ、なぜイギリスの評判を危険にさらす「無謀な賭け」を行ったのか説明が必要だと主張した。
マンデルソン卿は、エプスティーン元被告とその弁護士の説明を信じてきたため、真相を知ったのは元被告の死後だったと長年にわたり主張している。
また、自身が首相にうそをついたとは考えておらず、審査面接の際にエプスティーン元被告について対面で質問された記憶はなく、有罪判決後の性犯罪者との接触についても書面での質問に真実かつ完全に回答したとの立場を維持している。
そのうえで、自身がいかなる犯罪行為にも関与しておらず、金銭的利益を得る動機もなく、警察に協力しているとの立場を取っている。
同卿への捜査は続いているが、先週、保釈条件は解除された。