アングル:欧州が脱米国依存「ソブリンAI」始動、エヌビディアに旨味
欧州はAIの利用を米国の一握りのハイテク企業に依存しているためだ。フランスや英政府などはこうした状況から脱却を図る一環として、ソブリンAIの理念に耳を傾けており、行動に移し始めた状況だ。
また、欧州連合(EU)や英国は厳しいデジタル法制がトランプ氏の激しい反発を招いたという経緯もあり、ソブリンAI推進の姿勢を強めている。
同理念は、言語や知識、歴史、文化が地域ごとに異なるという考え方に基づいている。ただ、先端AIにはエヌビディアのGPUを搭載した機器が用いられるだけに、欧州が独自のAI開発を急ぐことにより、エヌビディアには自社の商機が広がるメリットもある。
フアンCEOは先週、ロンドンやパリ、ベルリンを相次いで訪問し、多数のプロジェクトや提携関係を発表するとともに、欧州のAIインフラの不足の強調に余念がなかった。
「当社はここ(欧州)に数十億ドル規模で投資する方針だが、欧州に必要なのはAIへの迅速な取り組みだ」と言い切った。
英国のスターマー首相は9日、世界で起きているのは「AIの開発サイドに回り、利用者にとどまらない」という競争だと指摘。英政府は対応策としてコンピューターの処理能力の強化向けに10億ポンド(13億5000万ドル)の財政措置を行うと発表した。
フランスのマクロン大統領は、世界最大級の最先端技術イベント「ビバテクノロジー」でAIインフラの構築を「主権のための戦い」と呼んだ。
しかし、ミストラルAIのアーサー・メンシュCEOは「ビバテクノロジー」でフアンCEOの隣席で、「最先端技術の覇者が欧州にいてはならないという理由はない。(欧州での自前のAIインフラ構築は)壮大な夢だ」と述べた。
<ギガファクトリー計画が始動>
フランスでは、ミストラルがエヌビディアと提携し、欧州企業のAI需要に応える欧州自前のデータセンターを建設する。第一段階ではエヌビディアの最新のAI半導体を1万8000個使い、2026年には拠点を複数に拡張する計画だ。
EUは今年2月、米企業依存を減らすため、200億ドルを投じて域内4カ所に「AIギガファクトリー」を建設する計画を発表済みだ。
こうしたソブリンAI推進の動きは欧州で最先端技術の勢力図を再編する可能性がある。欧州のクラウドサービス事業者やAI新興企業、半導体メーカーは新たな政府の財政支援や域内でのデータインフラへの移行によって恩恵を受けそうだ。
自社製AI半導体需要を着実に取り込みたいエヌビディアにとっては好都合だ。欧州各国がAIでの自立を図る際は依然としてエヌビディアの技術に頼るためだ。
<電力コスト>
ただ、取り組みに課題がないわけではない。電力コストの上昇と需要の急増によって、データセンター向けの電力調達は支障が生じる恐れがある。データセンターはEUの電力需要の3%を占めるが、AI普及によって、今後10年間で消費電力は急速に膨らむと予想されている。
また、巨額資金の工面でも欧州は依然不利な状況にある。ミストラルAIは10億ドル強を調達した。これを梃子に欧州でAI開発の牽引役になる構えだが、その程度の規模の金額は米巨大データセンター(ハイパースケール・データセンター)の事業者が毎月費やす資金のわずか一部に過ぎない。
ITコンサルティングなどを手がけるフランスのキャップジェミニのパスカル・ブリエ最高イノベーション責任者(CINO)は「ハイパースケール・データセンターの事業者は自社のインフラ(管理・運用)に四半期当たり100億―150億ドルを費やしている。欧州でそれほどの資金を出せる企業はあるのだろうか」と疑念を投げかけた。
その上で「何もするべきではないという意味でないが、常にギャップが存在するという事実を認識しておく必要はある」と話した。
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Supantha leads the European Technology and Telecoms coverage, with a special focus on emerging technologies such as AI and 5G. He has been a journalist for about 18 years. He joined Reuters in 2006 and has covered a variety of beats ranging from financial sector to technology. He is based in Stockholm, Sweden.