ホンダの新型コンパクトBEV「スーパーONEプロトタイプ」初乗り! 高いコーナリング性能と低重心だから面白いし“BOOSTモード”も最高すぎた
ホンダの軽BEV(バッテリ電気自動車)「N-ONE e:」をひとまわり大きくし、あの「シティターボIIブルドック」のようなスタイルをしたこのクルマの始まりはどこか奇妙だった。
端を発したのはイギリスで行なわれたGoodwood Festival of Speed 2025。そこで「Super EV CONCEPT」というカモフラージュが施された1台が疾走。その後インドネシアで開催されたGIIAS 2025にも登場している。
そして日本で、まさに今開催されているジャパンモビリティショー2025で、「Super-ONE PROTOTYPE」として姿を現し、それと同時に2026年発売予定モデルであることが明かされたのだ。そのモビショーの会場に展示されていたプロトタイプには、海外で必須となるバックフォグランプを装備していた……。
つまりはこの「Super-ONE」、軽自動車ベースのクルマが海外に進出するという、ホンダにとってかつてないトライを始める1台。右ハンドルが通用する地域に限定されるだろうが、それにしたって新たなる試みだろう。
日本の軽自動車が海外で人気なことはあるが、現実的に考えると日本独自規格の660ccでは心許ない。その課題がBEVによってクリアされた格好だ。車幅をちょっとだけ拡大して安定性を高め、64馬力規制もクリアして登場する普通乗用車になる訳だ。
詳細なスペックはまだ明かされていないが、ショーカーの「Super-ONE PROTOTYPE」が装着していたタイヤ&ホイールサイズは205/45R16。そして今回、試乗するプロトタイプ(?)が装着していたのは185/55R15。ベースとなるN-ONE e:が装着しているタイヤは155/65R14だから、フェンダーまわりがかなり豊かになっていることは見た目からしても明らかだ。
やや小難しい課題にトライしている1台ではあるが、コンセプトはストレートに“FUNなEV”をプロダクトアウトすること。かつてない走りを実現しようという熱意は凄い。
まず前述したタイヤを収めるためのフェンダーの造り込みに合わせるように、シャシーはあらゆる部分がベースからは変更されている。フロントまわりはロアアーム、ナックル、ブレーキキャリパー&ローター、バネ&ダンパー、スタビライザーを変更。ブッシュの硬度も変えているし、一部補強も加えられているようだ。
一方リア側は、Hビームとハブの間にスペーサーを入れることでトレッドを拡大。また、コンプライアンスブッシュの変更も行なっているそうだ。これらにより前後トレッドを拡大。すべてはコーナリングの限界性能を高めたかったからだというから面白い。
パワーユニットも「BOOSTモード」なるギミックがある。エンジン車の振る舞いを再現したというそれは、仮想エンジン回転数とギア段を再現。7速DCTのようにキレのある変速ショックのようなG変化を与え、それと同時に室内には4気筒エンジンを模したサウンドを展開するという。
インテリアはブラック基調になりスポーティに。シティターボIIブルドックをオマージュしたバケットシートが与えられていることが印象的だ。また、ステアリング右側に備えられた「BOOSTモード」ボタンを押せば3連メーターが液晶モニター内に出現。バッテリ温度、タコメーター、そしてパワーメーターが並ぶ。
エクステリアは、まずフロントグリル左側にエアインテークが与えられていたことがベースモデルとは違っている。その奥にある高出力化したドライブユニットを冷却することがその目的だ。バンパー開口部もかなり大きくなり、下と上の両方から冷やそうということだ。
ちなみにフロント右側にはバッテリ水冷用のラジエターが備わっている。ボンネットはやや窪みが与えられているというが、カモフラージュされていたためどれほどベースと違うのかは不明。明確に理解できたのはラジオアンテナがシャークフィンになったことくらいか? リアは日本仕様前提(?)のバックフォグなしタイプになっていた。
ひと通り確認したところで、いよいよテストコースを走り始めることに。バケットシートに収まってみれば、日ごろの不摂生を再確認するタイトなサイズ。座面のサポートや腰まわりはかなりガッチリとホールドされている。それ以外はかなり平和な空間という感覚で、基本的にN-ONEシリーズと変わりはない。
けれども走り始めるとかなり違う。
ワイドトレッド化による安定感はゆっくり走っていても感じられ、しなやかに動く感覚に長けている。ステアリング初期の応答は程よくマイルドに感じる。ロールやピッチはかなり抑えられているが、スポーティすぎる感覚はなく、オトナな仕上がり。
タイプRのような仕上がりを想像していたら肩透かしを喰らうかもしれない。だが、コーナリングの限界は高く、しかも低重心ときているからおもしろい。程よいロールやピッチを利用しながらワインディングを駆け抜けることが可能で、どんどんペースが上がっていく。タイトなシートはこのためだったのか! なんて膝を打つ仕上がりだ。
また「BOOSTモード」に入れると車室内の雰囲気は豹変する。
野太いサウンドと豪快な加速感。そして7速DCT感覚でカクン、カクンとシフトアップしながら速度を重ねて行く。オートモードでそれを感じられるが、シフトパドルを使いマニュアルシフトも行なえる。その際、パドルを弾き忘れると、レブリミッターに当たったかのように加速が途切れるような演出も、逆にオモシロイ。あくまでもエンジン車のように振る舞う。ダウンシフトすれば当然のようにブリッピングを繰り返すところも心地いい。
ここまで作り込むならIパターンのシーケンシャルシフトノブとか、車外に向けて音を出すエキゾーストスピーカーなんかも欲しいかも……、な~んて楽しい想像が次々に浮かんできちゃうからたまらない!
試乗した他の人たちも常に笑顔で語りが止まらなかったのが印象的だ。こんなクルマは本当に久々。身近な世界を本気で楽しくしてくれる、“超ホンダらしい1台”、これなら海外だって喜んでくれるに違いない。