絶滅したダイアウルフの復活に成功したというニュースは本当なのか?

この画像を大きなサイズで見る遺伝子工学技術で復活したとされるダイアウルフの赤ちゃん Colossal Biosciences / Youtube

アメリカ大陸にかつて生息し、約1万年前に絶滅したとされるダイアウルフを、遺伝子工学で現代に“復活”させたというニュースが世界を驚かせている。

 この発表を行ったのは、マンモスの復活計画などで知られているアメリカのバイオテクノロジー企業「コロッサル・バイオサイエンシス(Colossal Biosciences)」だ。

 しかし、科学者たちの間ではこの主張に対する疑問の声が相次いでいる。白い毛を持つ3匹のダイアウルフとされる子どもたちは、本当に太古の絶滅種なのか?その正体と論争の行方を探っていく。

 2025年4月、アメリカのバイオテクノロジー企業「コロッサル・バイオサイエンシス(Colossal Biosciences:以下コロッサル社)」が、「絶滅したダイアウルフを現代に復活させた」と発表した。

 アメリカ国内の約8㎢に及ぶ極秘の自然保護区で、3匹のオオカミたちが誕生した。 3匹はただのオオカミではなく絶滅種のダイアウルフだという。

 最初に誕生したのはオスのロムルスとレムスで、2024年末に生まれた。その後、2025年初頭に妹のカリーシが誕生し、現在は3匹とも極秘保護区で暮らしている。

 そこは氷河期の生態系を模した環境で、ダイアウルフがかつて生きた更新世の景観を再現しているという。

この画像を大きなサイズで見る生きたタイリクオオカミの細胞を遺伝子操作して作られた、生後6ヶ月のダイアウルフとされるロミュラスとレムス Colossal Biosciences

 ダイアウルフは30万~1万年前までアメリカ大陸に生息していたネコ目(食肉目)イヌ科の絶滅種だ。HBOのドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にも登場したことで一般にも知られている。

 頭からお尻までの体長が約125cm、体高約80cmほどで、骨の形態の似たタイリクオオカミと近縁と考えられていた。

 現代に甦ったとされる白いダイアウルフの子供たちは、これまでの遺伝子配列解析の研究成果を踏まえ、タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)の遺伝子を改変することで誕生したという。

 コロッサル社のプレスリリースでは次のように説明されている。

2024年10月1日、人類史上初めて、コロッサルは”脱絶滅”の遺伝子工学によって、一度は姿を消した種を種を復元することに成功しました

 コロッサル社は、古代のDNAと高度な合成生物学を用いて、絶滅種の復活に挑戦している企業で、これまでもマンモスタスマニアタイガーの復活を目指していることで知られている。

 2025年1月には、企業価値が約1兆5600億円(10億ドル)に達した。

この画像を大きなサイズで見るColossal Biosciences / Youtube

 しかし、この“復活”に対して専門家からは厳しい意見も出ている。

 ニュージーランドのオタゴ大学の動物学者フィリップ・セドン教授は、「コロッサル社が生み出したのは遺伝子操作されたタイリクオオカミにすぎない」とBBCに述べた。

 古代DNAの研究を行う同大学の古遺伝学者ニック・ローランス博士も、「化石から抽出されたダイアウルフのDNAは非常に劣化しており、完全なコピーやクローン作製には使えない」と説明した。

 「古代DNAは、現代のDNAを摂氏500度のオーブンで一晩焼いたようなもので、断片化して粉のようになってしまっている」と例えた。

 コロッサル社は、古代DNAから特徴的な遺伝子配列を特定し、それを現存するタイリクオオカミのDNAに組み込むという合成生物学の手法を用いた。

 タイリクオオカミの生殖系列細胞に存在する25億塩基対のうち、20か所を編集し、頭蓋骨を大きくしたり、白い毛皮にするなど、ダイアウルフの特徴に近づけた胚をつくり、それを代理母となる犬のお腹で育てたのだ。

この画像を大きなサイズで見るColossal Biosciences

 だがタイリクオオカミの遺伝子から作られた動物が、本当にダイアウルフそのものなのか?

 前出のローランス博士は、「ダイアウルフとハイイロオオカミは、250万年前から600万年前の間に分岐し、そもそも異なる属に分類されている」と指摘している。見た目は似ていても、学術的にはまったく異なるという。

 2021年1月に発表されたダイアウルフのゲノムを解析した論文によると、ダイアウルフはタイリクオオカミとはそれほど近縁ではないことがわかっている。

 また、コーネル大学のアダム・ボイコウ氏は、白いオオカミの子が復活したダイアウルフだとは思わないと、New York Timesに語っている。

 確かにダイアウルフとタイリクオオカミは親戚ではある。だが北米に生息するタイリクオオカミと遺伝的に交わった形跡がまったくないのだという。

 オーストラリア古代DNAセンターのジェレミー・オースティン氏は、Science Alertに対して、この子たちは単なる遺伝子改変タイリクオオカミであるに過ぎないと述べている。

 「コロッサル社は、同社がダイアウルフと思う姿に似せた遺伝子改変タイリクオオカミを作り出したに過ぎません」

 そもそも種とは何のだろうか? それは科学的に厳密な基準によって分類されるものではないのだろうか?

 少なくともコロッサル社の進化生物学者ベス・シャピロ氏は、そもそも種の定義には、人それぞれの正解があると考えているようだ。

 シャピロ氏がABC Newsに語ったところによると、同社にとっての種とは、「その種のように見え、その種のように行動し、その種の役割を果たしていること」なのだという。

 それは人為的な概念で、誰もが異論を唱えることができ、誰もが正しい可能性があるという。

 だが、これについてオースティン氏は「裸の王様」だと批判する。

 コロッサル社がダイアウルフを復活させたと主張し、大勢の人々がそれを信じたとしたら、それが学術的な種になるのだろうか? 少なくともオースティン氏はそう考えていない。

 ダイアウルフとされる子供たちは、見た目が似ている”かもしれない”だけの可能性だってある。

 今回の復活にあたってはほんの20ヶ所(うち5ヶ所は毛の色に関連する)の遺伝子だけが編集された。

 だが、もし本気でかつて存在したものと同じ見た目で、同じ行動をする動物を復活させようと思うのなら、数万から数十万もの重要な遺伝子を編集する必要があるだろうとオースティン氏は話す。

この画像を大きなサイズで見る コロッサル社が遺伝子工学で復活させたと主張するダイアウルフの子 Colossal Biosciences / Youtube

 確かに科学的な偉業には違いないが、このニュースが示すのは「本物のダイアウルフの復活」ではない。「絶滅という事実の重み」だ。

 オースティン氏も、コロッサル社の取り組みがまったく無意味だと考えているわけではない。

 実際、同社の研究は生物の保全に役立つほか、遺伝学的・進化学的な理解を深めるうえで貴重なものだろうことを認めている。

 ただ遺伝子や生物について熟知しているはずの専門家が「白いからダイアウルフだ」と言うのにはあまりにも無理があるというのだ。

 それではコロッサル社の脱絶滅の取り組みの信頼性を損ねる結果になりかねない。

 だが仮に、種としても完璧な絶滅種を復活させることが可能になったとしたら、人間はいとも簡単に環境を壊し、復活させるを繰り返してしまうのではないかという懸念もある。

 現代科学が可能にする「種の再構築」は、未来の選択肢になり得るのか、それとも自然の摂理への挑戦なのか。今回の“ダイアウルフ復活”をめぐる議論は、今後ますます注目を集めるだろう。

追記:(2025/04/011)本文を一部訂正しました。

References: Sciencealert / Bbc.com

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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