真相・ニュースの現場から:「スパイのまねごと」所属隠して接触、陸自・現地情報隊員の目的
今から10年ほど前の4月、東京都内で海外事情に関する学会があった。責任者を務めた国立大の教授はある男性に目を留めた。
白っぽいシャツの制服姿だった男性。会合後、手持ち無沙汰にしているように見えた。参加者の輪に入れようと思い、声を掛けた。
差し出してきた名刺には「陸上自衛隊朝霞駐屯地」と書かれていた。学会に入会したことを明かした男性は、教授の研究分野について質問を重ねた。
数十分ほどの雑談で別れた2人。教授は会話の内容から参加の目的を察した。「自衛隊の海外派遣となると、即席で勉強するのは大変。普段から情報収集しているのだろう」
41項目からなる報告書
この男性は既に自衛隊を離れている。元隊員として毎日新聞の取材に応じた男性は、教授に接触する際に自らの所属を明かさなかったと証言した。
当時、所属していたのは陸上自衛隊現地情報隊。隊の拠点は朝霞駐屯地(東京都練馬区)にある。
元隊員は取材に対し、教授の関連情報は、隊が当時まとめていた報告書「ベーシック・ソース・データ(BSD)」に記載したとも話した。
報告書には勤務先や学歴、職歴など41項目が設けられている。埋められたのは2割程度。思想・信条、性的嗜好(しこう)の項目もあったが、空欄のまま。元隊員は「常に疑問を感じながら、項目を埋める作業をしていた」と明かす。
現地情報隊は、自衛隊の派遣先となりそうな海外の国や地域の情報を集める部隊だ。隊員が担当の国をそれぞれ割り当てられ、担当国の事情に詳しい大学教授や団体関係者らに接触していく。
「埋めることが目的化」
この教授は「自衛官らが被害に遭うことは避けなければならない。できる限り情報提供したいし、普通に教える」と話すが、疑問も呈した。「所属を隠すのは違うと思う」
元隊員は、担当国に生息する羊の皮を使った小物販売店を訪ねたことも明かした。身分や名前は伝えないまま、名刺入れを購入したと証言。店のインターネット上の情報を手がかりに「皮を使った製品を作っている」とBSDに記載したという。
現地情報隊は対外的に公表されている部隊で、今も隊員が海外情報を集める活動を続けている。ところが、取材に応じた元隊幹部の口調は厳しい。
「BSDの項目を埋めることが目的化していた。やっていることはスパイのまねごと、情報収集ごっこだった」
これまで明かされてこなかった隊の実態が浮かんできた…
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