石油危機に学び「いいもの安く」偏重から転換を 記事で振り返る物価
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中東発の原油高とインフレに直面する2026年。米国とイランの軍事衝突の終結は予断を許さず、石油と物価を巡る議論は尽きない。難局をどう力に変えていけるか。いまこそ第1次・第2次の石油危機の経験から解を探りたい。
第1次危機に突入した1973年10月。19日付から始まった朝刊1面連載企画「火がついた石油」は、産油国が原油の大幅な値上げを通告した衝撃を伝えている。「輸入に頼る石油に偏った日本の産業構造や国民生活に与える打撃は図り知れないほど大きい」
原油相場は3カ月で4倍に跳ね上がる。もともとのインフレ基調も重なり、日本経済は試練を迎えた。連載の隣のトップ記事は国民に節約を促し企業の便乗値上げを防ぐ施策を報じた。
鉄鋼や木材、農産物などの日々の市況を伝える日経商品相場も大きく動いた。原油由来の代表的な石油化学品ポリエチレンの相場をたどると、73年秋から74年夏にかけておよそ6割の急騰だったことがわかる。
「狂乱物価」ともいわれた急騰局面に田中角栄内閣は列島改造論を棚上げし、福田赳夫蔵相の提唱する総需要抑制による対策を進める。公共投資の伸びを抑え、金融を引き締め。石油の需給安定などを促す石油2法を制定し、灯油などの価格調整も強めた。
短期で狂乱の勢いをそぐべく腐心した。当時経済企画庁で物価に向き合い福田氏の長官時代は秘書官として支えた長瀬要石・元企画庁調整局長(88)は「物価抑制後の景気浮揚までブレーキとアクセルの踏み具合に配慮した」と振り返る。
78年秋から82年春の第2次危機は第1次の経験も生きて経済全体の動揺は比較的少なかったが、それでも商品市況は石油高に伴う上昇局面や需要停滞による下落局面を移ろう。ポリエチレン相場はピーク時で8割高騰した。景況や企業業績を伝える報道も好不調の色が入り交じった。
そして2026年。ポリエチレン相場は軍事衝突後の3カ月で3割上昇し、データを遡れる1973年以降の最高値となっている。食品包装材などの値上がりが生活に波及しつつある。
石油と物価が再び共鳴する難局に過去2度の危機の学びは生かせるか。「再試験」の問いは3つある。
1つは物価の動きを左右する原油の備蓄だ。第1次危機時に田中首相の秘書官を務めた小長啓一元通産次官(95)は「田中首相の石油確保の意識は強かった」と語る。75年に石油備蓄法が制定され、現在の備蓄にも役立っている。
2つめの原油の中東依存の分散については宿題を残す。依存度は70年代の8割から80年代に7割ほどに下がったが、現在は再び9割超だ。石油・化学産業の研究の第一人者、橘川武郎国際大学学長(74)は「中東以外の地域の輸出余力の課題もあって、中東依存度を下げるのは容易ではない。(原料の転換に比べると)燃料での脱石油が大事になる」と指摘する。
3つめの産業構造の転換やイノベーションはこれから解く問題だろう。
2度の危機では化学など素材産業の構造転換が課題となり、再編も促した。現在も化学業界は人口減少などを背景にナフサ(粗製ガソリン)を分解するエチレン生産設備の集約を進める。かたや今回の難局は供給網の重要性も再認識させた。「(集約とともに)供給をどう維持するかの議論も進めたい」(橘川学長)
一方、高度成長と石油危機を経て進化した省エネ技術やものづくりのイノベーションは日本の強みになった。力をつけたのが自動車や電機などだ。第1次危機時にトヨタ自動車は減産で在庫を整え、危機後半はカローラなどの増産で勢いをつけた。豊田英二元会長が84年9〜10月の朝刊「私の履歴書」で危機の経緯を語っている。
第2次危機時も欧米が停滞感を引きずるなか、運転・燃費性能や価格のバランスがとれた日本車は優位に。国際的な摩擦も伴いながらも世界をリードした。
第一ライフ資産運用経済研究所の熊野英生首席エコノミスト(58)は「いまは価値転換の機会にもなる」とみる。例えば原油由来のナフサに代わり、廃プラスチックから油をつくる技術を生かすなど「(コストはかかっても)付加価値に対価を払えるようになればデフレ意識も変わってくる」。長年の「良品廉価」の美徳に偏りすぎない新しい価値軸も加えるときにきた。
第1次危機に突入した直後の1973年11月6日付の朝刊の第2部特集「変容を続けるインフレ」の総論はこう締めくくった。「お題目として『物価安定』が最優先課題と繰り返すだけでなく、物価構造がどう変化しているか、今後どうなるのかを見極めたうえで実践的な施策に着手すべき時点にさしかかっている」。環境は違えども、いまにも通じる要諦だ。
(岡森章男)
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