凄惨写真でトラウマも 刺激証拠見せる?見せない? 悩む裁判官たち
圧迫されたような痕が残る首のアップ、拘束されて内出血した手首――。
裁判員に選ばれた飲食店経営の市川裕樹さん(47)は法廷で遺体の証拠写真と向き合った。後悔しない判決を導きたいと、しっかりと目に焼き付けた。
一方で、こうした「刺激証拠」を見てトラウマを抱えた人もいる。
感受性が異なる人たちが集まる裁判員裁判。裁判官たちも現場で苦悩する。
裁判員裁判と刺激証拠を巡る現状を2回にわたり報告します 15日午前5時公開 「誰のための裁判?」消えた遺体写真
娘の遺体写真を見つめる遺族
2011年7月、千葉地裁の法廷。市川さんは他の裁判員5人とともに、法服の裁判官3人と並んで法壇に座った。
審理の対象は英国人女性が被害者となった殺人事件。被告の男性は、全国に指名手配されながら2年半を超える逃亡生活を続けた末に逮捕された。
「殺意はなかった」
被告は初公判で起訴内容を否認した。その後、法壇のモニターにさまざまな角度から撮られた遺体の写真が映し出された。
女性は、男性の自宅マンションで手首を縛られた上で性的暴行を加えられ、首を圧迫されて殺害された。遺体はベランダにあった浴槽に遺棄され、土で埋められていた。
市川さんは同時に女性の両親が視界に入った。両親は、検察側の席で苦渋の表情を浮かべながらモニターに映る同じ画像を見つめていた。
「自分が目を背けることはできない」
市川さんは写真に改めて目をやった。他の裁判員たちも同じように凝視していた。
合議の末、約2週間後に出された判決は求刑通り無期懲役だった。被告は控訴したが、2審も裁判員裁判の判断を支持し確定した。
「検察側、弁護側どちらの言っていることが正しいかを判断するために遺体の写真を見る必要があったし、見て良かったと思う」。市川さんは振り返る。
刑事訴訟法上、証拠の採否の決定は裁判官の専権事項だが、こうも加えた。「裁判官と裁判員が話し合って決められてもいいのではないか」
裁判員は「苦役」か
市川さんが参加した裁判から2年後の13年。制度のあり方を揺るがす出来事が起きる。
福島地裁郡…