「ティラノサウルス革」を作り出そうとする企業が登場するが専門家は問題点を指摘

サイエンス

ティラノサウルス(Tレックス)白亜紀末期の今から約7270万年~約6600万年前に生息していた大型肉食恐竜で、全長約13メートル、体重約9トンという巨体を誇っており、さまざまなフィクション作品にも登場します。新たに、複数のスタートアップが共同で、化石を基に「ティラノサウルス革」を作成するという野心的な目標を発表しました。

VML, Lab-Grown Leather Ltd. and The Organoid Company announce partnership to create world's first T-Rex leather

https://www.vml.com/news/vml-lab-grown-leather-ltd-and-the-organoid-company-announce-partnership-to-create-worlds-first-t-rex-leather

World's First 'T. Rex Leather' Is Claimed to Come From Dino DNA. Is This For Real? : ScienceAlert https://www.sciencealert.com/worlds-first-t-rex-leather-is-claimed-to-come-from-dino-dna-is-this-for-real

T. rex researchers eviscerate 'misleading' dinosaur leather announcement | Live Science

https://www.livescience.com/animals/dinosaurs/t-rex-researchers-eviscerate-misleading-dinosaur-leather-announcement

2025年4月25日に、オランダを拠点とするゲノムエンジニアリングのスタートアップ・The Organoid Company、イギリスを拠点に生体材料を開発するバイオテクノロジー企業・Lab-Grown Leather、アメリカのマーケティング企業・VMLの3社が、「ティラノサウルス革」の作成を目指してパートナーシップを結んだと発表しました。

ティラノサウルス革は化石化したティラノサウルスのコラーゲンを基に、The Organoid Companyが設計した合成DNAで細胞をエンジニアリングし、これをLab-Grown Leatherの製品ストリームに統合して作られるとのこと。Lab-Grown Leatherの技術によって、細胞は独自の自然な構造を作り出すことが可能であり、結果として従来の革製品と構造的に同様の素材が得られると説明されています。 VMLは声明で、ティラノサウルス革は先史時代の種から開発された史上初の革製品となり、森林破壊や環境汚染を引き起こしやすい伝統的な皮革製品と比べて持続可能だと主張。また、従来の皮革生産では動物虐待や希少な生物種の減少といった倫理的な懸念もありますが、すでに絶滅している古生物を皮革に利用することで、より倫理的な皮革生産が可能になるともアピールしています。

ティラノサウルス革を利用した最初の製品はアクセサリーになる見込みで、VMLは「2025年末までにフラッグシップのコマーシャル製品として、高級ファッションアイテムを生産するという野心を持っています」と述べています。 Lab-Grown Leatherのチェ・コノンCEOは、「VMLおよびThe Organoid Companyとのコラボレーションにより、私たちは有史以前の種から革を工学的に制作する可能性を、手ごわいティラノサウルスから始めて解き放とうとしています。このベンチャーは、革新的かつ倫理的に健全な素材を生み出す細胞ベースのテクノロジーの力を示すものです」とコメント。 The Organoid Companyのトーマス・ミッチェルCEOは、「古代のタンパク質配列を再構築し、最適化することで、太古の生物学にインスパイアされたバイオ素材であるティラノサウルス革をデザインし、カスタムメイドの細胞株でクローン化することができます。The Organoid Companyでは、合成生物学の最前線を押し進めることに情熱を注いでいます」と述べました。

ティラノサウルスの革を作り出すという目標はロマンにあふれていますが、今回の発表については専門家から疑念の声も上がっています。メリーランド大学の古生物学者であるトーマス・ホルツ氏は、「この会社がやっていることはファンタジーのようです」「ティラノサウルス科のDNAは保存されていないので、ティラノサウルスの遺伝子はありません」と科学系メディアのLive Scienceに語っています。

DNAは動物が死ぬとすぐに崩壊し始めてしまうものであり、一部の断片は最大で100万年以上維持される可能性があるものの、記事作成時点で保存されている最古のDNAはグリーンランドで採取されたマストドンなどを含む約200万年前のものです。ティラノサウルスが絶滅したのは約6600万年前であり、DNAを復元することは困難だというわけです。

3社は化石に含まれているコラーゲンをベースにするとしており、実際に一部の恐竜の化石からはコラーゲンが特定されています。しかし、化石に含まれるコラーゲンは復元するには断片化されすぎているそうで、研究者が持つティラノサウルスのコラーゲンに対する理解は不完全だとのこと。

カーセッジ古生物学研究所の所長であるトーマス・カー氏は、「ティラノサウルスに特異的なコラーゲン分子を正確に再構築するためのテンプレートは、実際のところ十分ではありません。次に、コラーゲンはすべての動物にとって非常に一般的な分子であるため、ティラノサウルス(または任意の恐竜)を最も近い生きている親戚と区別するような種特異的な配列があったとしたら、私はとても驚きます」と述べています。

一方でカー氏は、倫理的な観点から研究室製の皮革を追求することは理にかなっており、パートナーシップによる研究手法そのものは興味深いと認めています。しかし、その場合は恐竜ではなくウシやワニといった現代でも生きている動物に焦点を当てる方が簡単だとして、「残酷な動物製品を使わないという概念は、探求すべき正当な倫理的手段です。そのため、エキゾチックで『古代的』なひねりは必要ないと思います」と主張しました。

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