ドルを武器化するトランプ氏、BRICSへの無用な挑発になる恐れ
トランプ次期米大統領が世界各国に対し米ドルを基軸とする金融システムにとどまり続けるよう新たな圧力をかけているが、裏目に出る恐れのある戦術だと市場ウオッチャーらは指摘する。
米財務省で40年間為替政策に携わったマーク・ソーベル氏は、ドルは予見される将来は世界経済を支配し続ける公算が大きく、新興国が独自の単一通貨を導入するという考えは「ナンセンス」だと指摘した。
それでもトランプ大統領の今回の口先介入は、ドルの価値を損ない、各国にドルの回避方法を模索するよう促してそうした協定が実現する可能性を高めるリスクはある。ロシア政府は2日、ドルの魅力はすでに損なわれており、各国にドルの使用を迫れば「ドル離れ」の傾向をさらに強めるだろうとの見解を示した。
外交問題評議会のシニアフェローで、オバマ政権時代の元米財務省高官ブラッド・セッツァー氏は「良い印象を与えない」と述べ、「ドルに対する信頼の欠如を示唆している」と指摘した。
トランプ氏は11月30日に自身のソーシャルネットワーク「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、主要新興国で構成される「BRICS」諸国に対し、貿易などで米ドルの代わりに使用する新たな通貨を創設しないという確約を求めると述べ、脱ドル化を進めれば100%の関税賦課も辞さない考えをあらためて示した。
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BRICS諸国は世界の中央銀行準備高の40%以上を占めており、ドル依存を減らす方法を議論してきた。その中には、BRICS諸国間で使用する単一通貨構想も含まれる。
南アフリカ共和国は12月2日、そのような競合通貨を創設する計画はないとコメント。「BRICS内の議論は、加盟国間の取引を各国の自国通貨で行うことに焦点を当てている」と説明した。
トランプ氏による週末の投稿は、選挙戦での発言を繰り返したものだが、今後4年間にわたり各国政府やトレーダーが、同氏のソーシャルメディア利用に常に警戒する必要性を浮き彫りにした。
ドルの基軸通貨としての地位を脅かすことは、口で言うほど簡単ではない。
国際決済銀行(BIS)が2022年に発表した3年に1回の調査結果によると、1日当たり7兆5000億ドル(約1100兆円)の外国為替市場取引におけるドルのシェアは約88%。
米経済は規模も強さも比類のないもので、米国債は依然として最も安全な資金保管方法の一つとされており、ドルは依然として資金逃避の動きの究極の受益者だ。
ナショナルオーストラリア銀行(NAB)のストラテジスト、ロドリゴ・カトリル氏は「ドルが引き続き支配的である状況には幾つかの理由がある。ドルは世界で最も流動性の高い通貨であり、自由に取引され、世界の貸し出し通貨でもある」と指摘。その上で、「トランプ氏がBRICS諸国に対する圧力を強めれば、ドル離れが加速する可能性もある」と付け加えた。
原題:Trump Weaponizing Dollar Seen as Needless BRICS Provocation (3)(抜粋)