〈目撃〉ホホジロザメ狩るシャチの群れ、肝臓分け合う驚きの光景「信じられない映像です」(ナショナル ジオグラフィック日本版)

 シャチの群れが若いホホジロザメを追い詰め、動けなくした後、体にかみついて肝臓を取り出した。研究者らはこの珍しい行動を2025年11月3日付けで学術誌「Frontiers in Marine Science」で報告した。シャチが若いホホジロザメを狩る事例は、カリフォルニア湾では初めての報告であり、世界でも2例目だという。 【動画】ホホジロザメ狩るシャチの群れ、肝臓分け合う驚きの光景  シャチがホホジロザメを狩る行動については、現在、世界中で研究が進められている。 「信じられない映像です」とオーストラリア、フリンダース大学の捕食生物学者イザベラ・リーブス氏は言う。特に珍しいのは、シャチが獲物を分け合う映像だ。「ここまで記録した高品質の映像はほとんどありません」。なお、リーブス氏は今回の研究に参加していない。  バハ・カリフォルニア半島とメキシコ本土を隔てるカリフォルニア湾では、海洋生物学者のエリック・イゲラ氏、フランチェスカ・パンカルディ氏らが2018年からあるシャチの群れを詳細に研究している。チームはこの群れを「モクテスマの群れ」と呼ぶ。アステカの皇帝にちなんだ名前で、1992年に初めて確認された群れの一頭がそう呼ばれていたことに由来する。  チームは長年にわたり、これらのシャチが多様な戦略を用い、エイからジンベエザメ、オオメジロザメまで、さまざまな獲物を狩る姿を観察してきた。

 2020年8月、研究チームが海上で群れを追っていたとき、シャチたちが狩りを始めた。イゲラ氏はすぐさまドローンを飛ばし、その様子を記録した。 「ドローンのモニターで、彼らがサメを狩っているのを見ましたが、サメの種類まではわかりませんでした」とイゲラ氏は振り返る。狩りは約30分続き、群れは2頭のサメを仕留めた。  数日後、映像をダウンロードしたイゲラ氏は、群れが予想外の獲物を狩っていたことに気付いた。体長2メートルほどの若いホホジロザメだ。  シャチは若いホホジロザメを追い詰め、かみつき、ひっくり返そうとした。この姿勢になると、サメはまひ状態になり、シャチはかみ返されることなく、獲物を簡単に捕食できる。  群れのシャチは順番にサメをあおむけにして押さえ付け、攻撃の終盤には深く沈めた。約2分後、再び姿を現すと、シャチの1頭が、脂肪が多くカロリー豊富なサメの肝臓をくわえていた。  シャチたちは食事を仲間に渡し、狩りの成果を分かち合った。  2022年8月、チームはモクテスマの群れを再び記録した。最初の2回の捕食を目撃した同じ場所で、1頭の若いホホジロザメを狩っていたのだ。シャチがサメをひっくり返して殺す様子は確認されなかった。 「この映像は、捕食者と被食者の関係がどのように展開するかを明確に捉えています。こうした行動を直接記録できた場所は、世界でもごくわずかです」と語るのは南アフリカ、ローズ大学の海洋生物学者アリソン・タウナー氏だ。タウナー氏は今回の研究に関与していない。

ナショナル ジオグラフィック日本版

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