【米国市況】株が反発、金融緩和で業績改善との思惑-円は下げ渋り
8日の米株式市場ではS&P500種株価指数が小反発。史上最高値に近づいた。連邦公開市場委員会(FOMC)が来週の会合で利下げを実施するとの見方が強まっており、景気が減速しつつあるが、崩壊には至っていない局面での金融緩和が米企業の業績を下支えするとの期待が高まっている。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6495.15 13.65 0.21% ダウ工業株30種平均 45514.95 114.09 0.25% ナスダック総合指数 21798.70 98.31 0.45%今後発表される経済指標では、インフレ抑制の進展が鈍っていることが示されるとみられているが、市場では年内3回の利下げを織り込む動きが広がっている。
モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのクリス・ラーキン氏は「先週の弱い雇用統計を受けて、来週の利下げを覆すには、今週のインフレ指標で相当な上振れが必要になるだろう」と述べた。「利下げはすでに予測にかなり織り込まれており、市場は今後しばらく、経済減速を示す追加の兆候を見過ごしにくくなるかもしれない」と語った。
米金融当局は懸念の対象が関税によるインフレ懸念から労働市場の弱さに移りつつあることを示唆している。インフレ期待が落ち着いているため、関税がたとえ経済に浸透するまでに数カ月かかったとしても、一時的な価格ショックにとどまる可能性がある。
来週のFOMC会合を前に、11日に発表される8月のコア消費者物価指数(CPI)は、前月に続いて前月比0.3%上昇が見込まれている。9日には、労働統計局(BLS)から雇用統計の年次改定値が発表される予定で、再び下方修正され、利下げの論拠となる可能性が高い。
インベスコのグローバル・マーケット・ストラテジー・オフィスは「5日の統計では雇用の伸びが鈍化したものの、リセッション(景気後退)を示唆しているようには見えない」と指摘。「成長の減速や安定したインフレ期待、利回りの低下、利下げ観測の広がりは、株式にとって楽観的な見通しを示している」と述べた。
ネーションワイドのマーク・ハケット氏は「足元の雇用統計は軟調に見えるかもしれないが、連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを開始するとの見通しがある。経験則では市場のパフォーマンスは利下げ局面の時が最も良い。平均で20%上昇する傾向があることを踏まえると、全体的な環境は前向きだ」と述べた。「総じて、消費者が雇用と資産に安心感を持っている限り、強気の見方の方が弱気を上回り続けるだろう」と語った。
例年9月には株式相場は季節的な弱さを示すが、今年はそれを覆す可能性がある。ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、S&P500種は1971年以降の平均で9月に1%下落しているが、FRBが利下げを実施し、かつ景気が後退していない局面では、9月のパフォーマンスは平均で1.2%上昇している。
ドイツ銀行のジム・リード氏によると、リセッションを伴わない利下げサイクルの開始から2年間で、S&P500種は中央値で最大50%上昇してきた。これに対し、利下げがリセッションと重なる場合のリターンは大幅に鈍る傾向がある。リード氏は「そうした背景から、9カ月ぶりに利下げ観測が浮上する中で、株式市場はこれを概ね好感している」と指摘。「リセッション入りの可能性は依然として比較的低いものの、雇用の伸びがほぼ停滞している現状を踏まえると、最新の労働市場データは一定の慎重姿勢を促す内容となっている」とも述べた。
同氏によれば、市場が期待しているのは、今回の利下げが景気の悪化を未然に防ぎ、ソフトランディングの道筋を維持することだという。
国債
米国債相場は続伸。前週末の流れを引き継いで買いが優勢になり、利回りは全般に低下した。2年債利回りは2022年以来の低水準にとどまった。投資家の関心は今週発表されるインフレ指標に移っており、これがFRBの利下げ方針にどう影響するかが注目されている。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.69% -6.7 -1.42% 米10年債利回り 4.04% -3.6 -0.89% 米2年債利回り 3.48% -2.5 -0.71% 米東部時間 16時58分ペッパーストーン・グループのシニアリサーチストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は「今のところ、リスクバランスは弱気に傾いている。特に11日発表のCPIの前年比の伸びが3%超となれば、関税によるインフレ圧力が再び市場の関心を集めるだろう」と指摘。「5日の雇用統計はかなり失望される内容だったが、インフレには依然として上振れリスクが存在する」と述べた。
今月の0.25ポイントの利下げは、すでに市場で完全に織り込まれている。年末までに合計で0.75ポイントの利下げがあるとの見方が強まっており、今月17日の会合で0.5ポイントの大幅利下げが実施される可能性もわずかながら織り込まれている。
為替
外国為替市場では、ブルームバーグ・ドル・スポット指数が続落。雇用統計を受けた米国債の上昇に連動し、ドルは下落基調を維持した。
TJM FXの戦略責任者アルバロ・ビバンコ氏は「米経済指標におけるシグナルとノイズの比率が大きく変化し、ソフトデータ(先行指標)の方向性をハードデータ(実体経済指標)が裏付ける形となっている」と指摘。「こうした状況を踏まえ、ドル売りポジションを維持する確信がより強まった」と語った。
円相場は石破茂首相の退陣表明を受けて下落したが、下げ幅を縮小した。一時は147円34銭まで戻した。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1198.55 -3.63 -0.30% ドル/円 ¥147.52 ¥0.09 0.06% ユーロ/ドル $1.1763 $0.0046 0.39% 米東部時間 16時58分ノムラ・インターナショナルの通貨ストラテジスト、宮入祐輔氏は、仮に高市前経済安保相が自民党の新総裁となれば、海外投資家を中心に日本政府の財政拡張観測が強まり、円が対ドルで瞬間的に150円超に下げる可能性は拭いきれないと指摘。ただし、「日本で物価上昇圧力が続いていることに照らすと、新首相は最終的には財政拡張的な政策をとりづらいだろう」との見方を示した。
ユーロは対ドルで上昇。フランスのバイル首相は国民議会(下院)で行われた信任投票で敗北したが、ユーロを売る動きにはならなかった。
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原油
ニューヨーク原油先物相場は小反発。 石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが小幅増産で週末に合意したこと、およびサウジアラビアが代表油種のアジア向け価格を引き下げるという2つの材料を見極める展開だった。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は先週、増産観測を背景に週間ベースで3%余り下落した。OPECプラスは7日、10月に日量13万7000バレル増産することで合意。増産ペースが直前2カ月の規模を下回ったことで、弱気なポジショニングが巻き戻された。
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一方、サウジは8日、代表油種のアジア向け10月価格を引き下げた。サウジが需要減退を見込んでいることが示唆され、原油相場の上昇幅は縮小した。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「市場は先週の段階で増産を織り込んでおり、現在は在庫が積み上がり始めるかどうか、余剰生産能力の縮小が今後何を意味し得るのかに注目している」と指摘。
「この日の相場は安心感からの上昇と思われ、弱気シナリオを一時的に抑えるかもしれないが、恐らく1日か2日持つだけだろう」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物10月限は、前週末比39セント(0.6%)高い1バレル=62.26ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント11月限は0.8%上昇して66.02ドル。
金
金スポット相場は過去最高値を更新。先週末5日に米雇用統計が市場予想より弱い内容となり、利下げ観測が強まったことで相場は上昇し、この日もその流れが続いた。
スポット価格は一時、前週末比1.7%上げ、1オンス=3646ドルを超えた。
借り入れコストの低下は通常、利息を生まない金の投資妙味を高める。FRBの将来を巡る懸念も、金への逃避需要を押し上げている。
トランプ大統領は5日、金地金を含む一部金属を国別関税の対象から除外する大統領令に署名した。米税関・国境警備局(CBP)は数週間前、金地金を関税対象にするとの見解を示し、市場に混乱を招いていた。
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中国人民銀行(中央銀行)が現地時間7日に公表したデータによれば、同中銀は8月に金の保有量を10カ月連続で増やした。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時7分現在、49.41ドル(1.4%)高の3636.10ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、24.10ドル(0.7%)高い3677.40ドルで終えた。
原題:Stocks Near Record as Fed-Cut Trade in Full Swing: Markets Wrap(抜粋)
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