名門大学で“集団性的暴行”疑惑 米国で広がる「ジェーン・ドゥ」デモ
アメリカの名門コーネル大学で、2年前に女子学生が集団で性的暴行を受けたと訴えている事件をきっかけに、性暴力撲滅を求める声が全米に広がっている。被害を訴える女性「ジェーン・ドゥ(=米などでの匿名表現)」に連帯を示す動きも出ており、取材した学生は「大学やアメリカだけの問題ではなく世界的な問題だ」と強調した。
(NNNニューヨーク支局 櫻茜理)
■コーネル大“集団性的暴行”疑惑 大学の対応に疑問の声
ニューヨーク州にあるコーネル大学は、マンハッタンから車で約4時間半の場所にあり、アメリカ北東部の8つの名門私立大学「アイビー・リーグ」の一つとして知られる。そんな同大学のキャンパス内にある集会ホールに6日夜、約100人の学生たちが集まっていた。
テーマは「キャンパス内で性暴力が発生した際の大学の対応について」。集会が開かれた背景には、2年前にキャンパス内で起きたとされる“集団性的暴行”事件がある。
訴状などで、2024年、同大学に在学していた女子学生は、酒や薬物を強要された後、7人の男子学生から集団で性的暴行を受けたと訴えている。事件当時、女性の合意がなかったことを裏付ける十分な供述や証拠が得られなかったとして、男子学生らは刑事訴追されなかった。
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しかし、女性は今年9月、男子学生らに加え、適切な対応や処分を怠ったとして大学などを相手取り、民事訴訟を起こした。この訴訟を大学の学生新聞が報じたことなどをきっかけに、事件は全米で注目されるようになった。その後、検察当局は捜査を再開すると発表した。
学生たちの間では、男子学生らだけでなく、大学の当時の対応に対しても不満が広がっている。5日には約1000人が参加し、男子学生らへの処分や学長の辞任を求める抗議デモが行われた。
翌6日の集会では、学内で性暴力が発生した際、被害を訴える学生に対して大学が十分なサポートを行うよう求めることや、大学の対応や方針の決定に学生の意見を取り入れることの重要性を確認した。集会に参加した学生は次のように語った。
「これは非常に深刻な問題だったので、大学当局には状況を調査し対処する方法について、もう少し積極的に動いてほしかった。そして私たちが力を合わせて、被害を訴える女性を支えることができれば良かったのに、と思う」
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■性犯罪は「魂の殺人」 被害を訴えることの難しさ
筆者が日本で警察取材の担当をしていた際、性犯罪事件を担当する警察官や、性被害者支援を行うNPO法人から、性暴力の実情について話を聞いたことがある。
性暴力は、人の命を奪わなくても、人の尊厳や人間性を深く傷つける精神的な暴力であるとして、「魂の殺人」と表現されることがある。また、表面化している被害は、実際に起きている被害の「氷山の一角に過ぎない」とも指摘されている。
被害を訴える際には、捜査の過程で当時の状況を詳しく説明する必要がある。そのため、当時のつらい記憶がよみがえることへの恐怖心や、デリケートな内容を他人に明かすことへのためらいなどから、声をあげること自体に大きな心理的負担が伴う。
また、密室空間などで被害が発生した場合、客観的な証拠が十分に残っていないこともあり、被害を立証することが難しいケースもある。こうした事情が被害を訴えることへのハードルを高くし、「泣き寝入り」する人が増える要因ともなっている。
だからこそ、被害を訴える人が孤立しないように、周囲の適切なサポートが重要になる。
■被害を訴える女性との連帯を示す「ジェーン・ドゥ」
7日には、大学の食堂周辺に学生たちが集まり、被害を訴える女性への連帯と大学の責任を求め、座り込みの抗議活動を行っていた。学生たちの胸には「Justice for Jane Doe(ジェーン・ドゥに正義を)」と書かれたバッジが付けられていた。
「ジェーン・ドゥ」とは、英語圏で身元を明かさない女性を指す際に使われる仮名だ。今回の訴訟でも、被害を訴える女性は「ジェーン・ドゥ」と表記されている。
SNSでも「#IAmJaneDoe」というハッシュタグを通じて、連帯を示す運動が広がっている。
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今回、抗議活動を行った女子学生の一人は、筆者ら取材クルーが日本メディアだと認識したうえで「この事件に引き続き注目してほしい」と語った。
「性暴力はコーネル大学だけで起きるものでも、アメリカだけで起きるものでもない。これは世界的な問題だ。こうした恐ろしい出来事を繰り返さないために、私たち一人ひとりがそれぞれの役割を果たす必要がある」
■性暴力被害者を適切に守る社会へ
8日には大学のキャンパス内にとどまらず、ニューヨークやロサンゼルスなどでも性暴力の撲滅を求める抗議デモが行われた。「性暴力を決して容認しない」という声が、アメリカ各地で広がりを見せている。
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今回の事件は現在法廷で争われていて、事実関係の全容は明らかになっていない。一方で、今回の出来事をきっかけに性暴力撲滅への社会的な関心が高まっていることは確かだ。
性暴力の被害を訴えることは、被害を受けた人にとって大きな負担となる。しかし、声をあげることは、事実関係の解明や同様の被害を防ぐための取り組みにつながる可能性がある。筆者が以前取材した日本の警察官らは、「どんなにわずかな情報でも、いつでも相談してほしい」と話していた。
性暴力を未然に防ぐことはもちろん、被害が起きてしまった場合に、被害を受けた人が安心して声をあげて必要な支援を受けられるように--社会全体でのサポート体制のあり方が、改めて問われている。