夏に向け「トコジラミ」に要警戒 宿泊先で簡単にできる対策は?
気温が上がり、夏に近づくにつれて増えるのが、害虫による被害だ。
中でも近年、駆除業者や業界団体への相談が増えているのが、トコジラミだ。血を吸われると、強いかゆみを引き起こす。
知らないうちに旅先から持ち帰ることもあるというが、被害に遭わないための注意点とは。
栄養は人間の血
<めちゃくちゃかゆいと思ったら、布団にトコジラミ>
<(駆除のために)じゅうたんやら捨てた>
X(ツイッター)では被害を訴える投稿が相次ぐ。
温かい場所を好むトコジラミにとって、春から夏は最も「暮らしやすい」時期。繁殖も活発になる。
トコジラミは体長5~8ミリの茶褐色の昆虫で「南京虫」とも呼ばれる。
明るさを嫌い、寝室など暗い場所に多く現れる。
昼間はベッドマットのふち、カーテンのひだ、コンセントの中などのすき間に潜んでいる。
厄介なのは、トコジラミの栄養源は主に人間の血だということだ。
ウイルスを媒介した例はないとされるが、血を吸われると、赤い発疹となり、激しいかゆみを伴う。かゆみで眠れなくなったり、まれにひどいアレルギー症状になったりすることもある。
Advertisement完全な駆除難しく
日本では昭和後期にはほとんどなくなったトコジラミ被害だが、2000年代に入って再び報告されるようになった。
人や物の移動がグローバル化し、海外から持ち込まれるケースが増えたためとみられる。
しかも、昆虫としては寿命が数カ月~1年と長く、1匹500個前後の卵を産む。
高温処理できるスチームや凍らせるタイプの殺虫剤は有効だが、繁殖力が高いため、完全な駆除が難しい。宿泊先などから家に持ち帰らないようにする「予防」が肝心だ。
業者への相談増加
ホテルや旅館といった宿泊施設も、トコジラミ対策に乗り出している。
「シーク(探せ)!」
合図とともに、10歳の雄のビーグル犬、ビートがふた付きの六つのカップのにおいを嗅ぎ始めた。
数分もたたないうちに一つのカップの前に座り、首を縦に振った。
犬を操るハンドラーがカップのふたを開けると、中からトコジラミが入ったケースが出てきた。
害虫駆除業者「アサンテ」(東京都新宿区)では、10年からトコジラミ探知犬を導入し、訓練を続けている。
新型コロナ禍をのぞけば、ホテルなど年間約2900室を調査している。昨年度はさらに依頼が増え、約3900室に上った。
害虫・害獣駆除や防止に詳しい業界団体「日本ペストコントロール協会」の調査によると、14年度以降の相談件数は約500~700件で推移してきたが、23年度は1176件とほぼ倍増した。
「肌感覚ですが、被害が急増している、というよりも、周知され関心が高まった結果だと思います」
アサンテで犬のハンドラーとして活動する下山当さんはそう指摘する。
宿泊先で気をつけたいこと
被害を防ぐにはどうしたらいいだろうか。
下山さんによると、宿泊先に到着したらまず、ベッドの周りに、黒い小さなシミがないか確認することが第一歩だという。トコジラミが排出する「血糞(けっぷん)」の可能性がある。
また、光を嫌う性質を利用して、電気をつけたまま就寝することも有効だ。
「『寝たふり』をすることも効果的なんですよ」
15分ほどたつと、ベッド周りに生息するトコジラミをおびき出せるらしい。もし見つけたら、すぐに施設に報告しよう。
宿泊先では荷物をバスルームに置くといい。タイルなど滑りやすい素材が使われているバスルームは、爪が強くないトコジラミにとって侵入しにくい場所で、荷物に付着することを防げる。
自宅に持ち込まないために
旅先から自宅に持ち込まないためには、帰宅直後の対策が肝心だ。
スーツケースは寝室やリビングには持ち込まず、玄関先に置いておくと被害に遭う確率は低くなる。
スーツケース内にトコジラミが付着している可能性もあるので、衣類など洗えるものは自宅ではなく、高温の乾燥機能がついたコインランドリーの洗濯機で洗うとより安心だ。
万が一、持ち帰ってしまった時には粘着テープなどで捕獲し、専門業者に相談しよう。
すぐに業者が手配できない場合は、粘着剤でゴキブリを捕獲する駆除用品を部屋の四隅などに設置すると、駆除に役立つことがあるという。【田中理知】