認知症の原因「完全除去」 進行抑制効果を確認 ドナネマブ投与

 金大附属病院は1日までに、アルツハイマー型認知症の新治療薬「ドナネマブ」(商品名ケサンラ)の投与を1年間続けた女性患者の脳内から、発症原因と考えられているタンパク質「アミロイドベータ」が消失したことを国内で初めて確認した。病気の進行を抑える効果が目に見える形で示されたことに、同病院脳神経内科の小野賢二郎教授は「良好な結果を得られ、患者や医療関係者にとって福音となった」と力を込めた。

 ●治療1年金大病院で国内初

 ドナネマブは米製薬大手イーライリリーが開発し、昨年11月に保険適用となった。軽度認知障害(MCI)と軽度の認知症患者が対象で、アミロイドベータを除去し、症状の進行を抑えることが期待されている。投与期間は原則18カ月だが、アミロイドベータが十分に減った場合、12カ月時点で完了できる。

 日本初の投与となったのは白山市内の70代女性で、1時間前に電話で伝えられたことを忘れてしまうなどの症状が見られ、軽度認知障害の診断を受けた。昨年11月、実用化されたばかりのドナネマブによる治療が始まり、4週間に1回、金大附属病院など県内の医療機関でドナネマブの点滴を受けてきた。

 11月28日に検査機器「アミロイドPET(陽電子放射断層撮影)」で脳内のアミロイドベータの蓄積具合を測った結果、アミロイドベータの蓄積が多いことを示す赤色の部分が大きく減っていた。画像のアミロイドベータの量を数値化したところ、マイナスに振り切っており「完全に除去されている」(小野教授)と判断し、ドナネマブによる治療が完了した。

 1日は金大附属病院で、小野教授が女性患者と50代の長女にドナネマブの投与が終わったことを報告。体調や近況について尋ねた後、治療完了を示す確認証を手渡した。女性には特に副作用はなく、今後は3カ月に1回、脳の血流の検査などの経過観察を行う。

 同病院脳神経内科は現在までに、認知症治療薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)とドナネマブの治療を130例実施した。小野教授は「これからも症例を積み上げ、有効性を確かめたい」と話した。

 ★ドナネマブ アルツハイマー病の原因の一つとされる「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質にくっついて取り除く薬。患者には4週間の間隔を空けて、点滴で投与する。投与期間は最長1年半。費用負担は70歳以上の患者(自己負担2割)で1回1万8千円。70歳未満だと3回目まで約4万円、4回目以降は約8万円になる。

●「変わらない」は進歩 望月秀樹氏(国立病院機構大阪刀根山 医療センター病院長

 アミロイドベータがたまっていた状態から、1年で改善された脳の画像を見て大変驚いた。認知症はどんどん進行する病気であり、軽度のまま変わらないだけでもとても大きな進歩だ。今回の症例は、元の病態が良くなっている第一例として非常に有意義であり、治療結果を見ることができてうれしい。

 この結果は、早期の認知症患者を発見し、薬を的確に使うことで有効な治療が可能であることを示している。消火活動も、焼け焦げてから放水しても意味がないが、ぼやのうちに消火できれば被害は少なく済む。日本初の成功例として大変素晴らしい。(談)

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