「大きくて美しい法案」が米上院へ、市場は債務膨張を警戒

  大規模な減税の延長などトランプ米大統領の看板政策を盛り込んだ包括的な税制・歳出法案、いわゆる「1つの大きく美しい法案」が5月22日に議会下院で可決され、議論の舞台は上院に移る。ワシントンの米連邦議会前で19日撮影(2025年 ロイター/Nathan Howard)

[23日 ロイター] - 大規模な減税の延長などトランプ米大統領の看板政策を盛り込んだ包括的な税制・歳出法案、いわゆる「1つの大きく美しい法案」が22日に議会下院で可決され、議論の舞台は上院に移る。26日のメモリアルデーの休日明け以降に具体的な審議が始まるが、投資家が警戒しているのはこの過程で法案によって生じる債務がさらに膨れ上がり、米国債利回りがより長く高止まりする事態だ。

16日にムーディーズ・レーティングスが信用格付けを引き下げて以来、米国の財政状況悪化に市場が神経をとがらせる構図がより鮮明になっている。特に財政赤字拡大懸念で痛手を受けているのは長い年限の国債で、20年国債入札が低調に終わり、30年国債利回りは2023年10月以降の最高水準に跳ね上がった。国債利回り上昇は、家計や企業、政府の借り入れコスト増大を意味する。

ニューエッジ・ウエルスのブライアン・ニック最高投資責任者は「上院(での議論)を通じて法案の歳出削減規模が縮まり、景気刺激策が付加され、赤字がさらに拡大するのではないかと心配される」と語り、そうなると利回りは上がってイールドカーブはスティープ化が進むと予想している。

ナティクシスのチーフ米国エコノミスト、クリストファー・ホッジ氏は「上院は法案に大幅な歳出削減を入れるのに積極的ではなく、議論が長引くほど、その代償は大きくなりそうだ」と話す。

トランプ政権は、法案によって1兆6000億ドルの歳出が削減され、財政赤字を穴埋めできると強調。与党共和党指導部は、減税も経済成長押し上げと、それに伴う向こう10年の2兆5000億ドルに上る追加歳入によって自ら財源を生み出せると訴えてきた。

しかし、日興アセットマネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、フィンク直美氏は、減税が需要喚起を狙っているかもしれないが「減税による景気刺激のスピードが政府債務の調達コスト上昇ペースに追いつかなければ(この仕組みは)有効に機能しない」と警告する。

モルガン・スタンレーは、一連の関税措置で今後10年に2兆ドルの収入を得られる可能性に言及しつつも、各国との交渉が続く中でそうした収入見通しも変わってくるとくぎを刺した。

<今のところは失望感>

一部の投資家は、これまでにまとめられた税制・歳出法案の内容には失望している。

パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)のコア戦略最高投資責任者兼マネジングディレクター、モヒト・ミッタル氏は、歳出削減の面で投資家はもっと多くを期待していたと指摘する。ミッタル氏は「今後10年で、最終的な法案の下で市場の想定より(歳出規模が)年間500億-750億ドル増えるだろう」との見方を示した。

インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は22日付顧客向けノートに、世界の債券市場が最も望んでいなかったのは「世界一の経済大国でより多くの財政赤字を創出する恐れがある法案(が出てくること)だ」と記した。

これから投資家は上院の法案審議を注視し、市場の反応が議会に跳ね返って、今度は法案の最終版策定に影響を及ぼすという流れになるかもしれない。

スタイフル・ファイナンシャルのチーフ米国政策ストラテジスト、ブライアン・ガードナー氏は22日付の顧客向けのノートで、各議員は金融市場の動きよりも有権者や世論調査を重視するとしながらも、市場の動きが家計の借り入れコスト増大をもたらせば米金融市場からのシグナルにしっかりと目を向けるようになると主張した。

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