「変質した特区民泊は廃止」反転目指す自民の明言を機に火が付いた大阪の外国人政策論争
参院選(20日投開票)で外国人政策が論点に浮上している。国家戦略特区制度に基づく民泊(特区民泊)施設が集中する大阪選挙区(改選数4)では、訪日客や外国人移住者が急増する現状に対し、特区民泊廃止や受け入れ規制を打ち出す主張がみられる一方、共生に重きを置く訴えもあり、各陣営のスタンスが分かれている。
言葉にできない不安
「特区民泊の問題点は(周辺)住民の同意を得る必要がない。廃止が一番好ましい」
自民党新人の柳本顕氏は5日夜に配信した動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画で、こう訴えた。同席した自民大阪府連の青山繁晴会長は「特区民泊が変質してしまって中国による移民に変わりつつあるのは、自由民主党とこの政権の責任だ。特区民泊は廃止すべきだ」と明言した。
大阪市では、全国の特区民泊施設の95%に相当する約6300件を認定。特区民泊は通年で営業できるため収益性が高く、大阪・関西万博開催に伴う「特需」も追い風になっている。
ただ柳本氏が指摘するように、開業要件に周辺住民への説明は含まれるものの、同意を得る必要はない。施設内の常駐管理者も不要で、施設の開業そのものに苦情が出ることも少なくない。
柳本氏は中国系などの外国人が「本国で経営管理ビザを取って大阪に移り住むケースが急増している」と指摘。「外国人が増えてきていることに嫌悪感はない」と断った上で「西成区の伝統文化が阻害され、どこに住んでいるか分からんという声が上がってきている。言葉にできない不安を感じている」と訴えた。
免税廃止で財源創出訴え
外国人による迷惑行為や犯罪が問題化していることを踏まえ、石破茂首相(自民総裁)は在留外国人問題に対応する司令塔組織を内閣官房に設置する考えを示した。もっとも参院選公示後の表明であり、他党からは「選挙対策とも思える」(日本維新の会の吉村洋文代表)などと本気度をいぶかしむ声もある。
大阪を本拠とし、いずれも新人の岡崎太氏と佐々木理江氏を擁立した維新は、外国人比率の上昇抑制などを含む人口戦略の策定を公約に掲げるほか、外国人旅行者を対象にした消費税免税措置の廃止を提唱する。
吉村氏は3日の大阪市内の演説で、免税廃止で3千億円を創出できると主張。維新と自民、公明両党が合意した高校授業料無償化にかかる4千億円の予算を引き合いに「海外の方に負担してもらうことで、国民の負担なく高校の授業料無償化ができる。ぜひ国政でやってほしい」と話した。
免税品を大量購入した訪日客が免税分を上乗せして不正転売する問題が横行している上、免税廃止による税収増への期待もあり、新人の渡辺莉央氏を立てた国民民主党も制度見直しを訴える。ただ消費税は物品を「消費する地」で課税するのが世界標準。海外へ持ち出す物品への課税はルールからの逸脱にあたるとして適切でないとみる向きもある。
「経済侵略」で都心住めず
「行き過ぎた外国人受け入れ反対」を打ち出すのは、日本人ファーストを掲げる参政党だ。
5日に新人の宮出千慧氏の応援のため、大阪市内で演説した神谷宗幣代表は「企業の収益も株主の配当も上がっている。国民の賃金が上がっていない。ここが問題」として「日本人の賃金を上げるためには外国資本を何でもかんでも入れちゃだめ。大阪も外資や外国人を入れすぎ」と声を張り上げた。維新が誘致を進めたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)には改めて反対の意向を示した。
日本人ファーストについて、神谷氏は「(外国人の)排除ではない。バランスを取れといっている」と強調した。
日本人重視の姿勢は日本保守党も同じ。百田尚樹代表は3日、大阪市内で新人の正木真希氏と並んでマイクを握り、東京23区で昨年の新築マンションの平均価格が1億円を超えたことに言及。中国系など外国人富裕層が投資目的で購入して高騰し、日本人が住めなくなっているとして、こう訴えた。
「放っておいたら大阪も経済侵略にやられる。10年後、大阪のどまんなかに日本人は住めなくなるという恐ろしい事態も想像できる。何とかしないといけない」
「排外主義」批判も
一方、在留外国人との共生を重視するのは立憲民主党。「多文化共生社会基本法」の制定を公約に掲げており、新人の橋口玲氏は10日、大阪府東大阪市での演説後、取材に「それぞれの文化とルールを守りながら共生することが、新たな文化の創生につながる」と述べた。応援に駆け付けた長妻昭代表代行も取材に応じ、外国人労働者の受け入れについて「きちんと生活できる環境を整備することが必要」とし、「法律違反は厳しく取り締まるのが大前提だ」と強調した。
共産党新人の清水忠史氏は大阪市内の演説で参政を念頭に「分断と対立を持ち込む排外主義と正面から戦う」と訴えた。「人間の価値は等しく同じ。みんなが豊かになれる日本をつくることこそ政治の役割だ」
低賃金の外国人労働者受け入れを「移民」とみなして反対するれいわ新選組。高井崇志幹事長は10日、大阪府吹田市で新人の椛田健吾氏の応援演説を終えた後、取材に応じた。参政の日本人ファーストについて「分かりやすさから共感を得ているが、裏の意図として外国人排斥もあると思う」と述べ、「既存政党に対する不満が参政やれいわに広がっている」と語った。
現職の杉久武氏が議席死守に奔走する公明は、社会保険料の未納情報を在留審査に反映させるなど在留管理の高度化などを公約としている。
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大阪選挙区には他に稲垣秀哉(諸派)、東修平(無所属)、橋口和矢(諸派)、上妻敬二(諸派)、吉野純子(諸派)、平理沙子(諸派)、武内隆(諸派)、瀬戸弘幸(諸派)、世良公則(無所属)の9氏が立候補している。