アングル:トランプ減税法案、共和党は中間選挙にらみ「野合」でポピュリスト型支持
[ワシントン 15日 ロイター] - トランプ米大統領が目指す大型減税法案について、与党共和党は来年の議会中間選挙を意識して声高に支持を表明している。ただ、労働者階級への税控除を盛り込むポピュリスト型の同法案は、実際には富裕層に有利で、トランプ氏支持層が頼る社会保障を脅かすとの指摘もある。
法案はチップや残業代に収入を頼る労働者への税控除を盛り込むほか、米国製自動車のローンの利息を控除対象とし、2025年から28年生まれの子どもに1000ドルの「MAGA貯蓄口座」を政府資金で開設することを提案している。
米下院共和党はトランプ氏を支持するMAGA(米国を再び偉大に)層から何週間にもわたって圧力を受け、この法案を推進している。
それには理由がある。年収3万ないし10万ドルの世帯は、昨年11月の大統領選でトランプ氏支持に大きくシフトした層であり、野党民主党が多数派奪回を狙う来年の議会中間選挙で共和党はこの層の支持を必要とするからだ。
下院歳入委員会のジェイソン・スミス委員長(共和党)は「私の優先課題は労働者階級と労働者家庭に報いることであり、この法案は実際にその目的を果たすものだ」と語る。
こうしたメッセージは、10年前に共和党が誇りとしていた自由市場優先の方針とかけ離れている。トランプ氏の関税政策や、薬価引き下げの大統領令と併せると、同氏のポピュリズムが党全体を左右するようになったことは明白だ。
下院議席は現在、共和党220に対して民主党213、上院議席は共和党53に対して民主党47と、共和党が過半数を握っている。共和党議員は、来年の中間選挙で過半数を維持する上で労働者階級の支持が鍵を握ると認めている。
マークウェイン・マリン上院議員(共和党)はロイターに「彼ら(労働者)は決定的に重要だ。彼らが中間選挙で決定的な役割を果たしてくれると期待している」と明言した。
ただ民主党は、この法案がどの程度労働者層を支えるかは疑問だとしている。超党派の租税合同委員会の分析に基づく民主党の計算では、年収5万ドル未満の人々が受ける減税は263ドルなのに対し、年収100万ドル超の人々は8万1000ドル以上の減税になる。
<「北極星」の不在>
独立系アナリストからは、下院で浮上している法案は共和党がポピュリスト政策で団結した結果というよりは、さまざまな派閥から支持を寄せ集めるための苦肉の策だ、との指摘もある。また、労働者層に焦点を絞った政策を講じると、3兆7000億ドル余りの減税分を補うのに必要な経済成長がないがしろにされ、36兆2000億ドルに上る米国の債務がさらに増えると警告する声もある。
ケイトー研究所で税制研究をつかさどるアダム・マイケル氏は「彼らは、北極星が不在のトランプ時代の政策にとらわれている。だから急ごしらえで『野合』しようとしている」と指摘。「低い税率、広い課税ベースという伝統的な共和党の政策ではなく、特権を与えて票を買うという正反対の方向に進んでいる」と言い切った。
下院歳入委員会が14日に可決した減税の条項についてアナリストは、恩恵のおよそ3分の2が所得上位20%の層に向かい、所得最下位層の税金は実際には増えると分析する。また、一部の労働者層は期待したほどの税控除を得られない可能性がある。
トランプ氏は大統領選挙戦で、貧しい人々への課税撤廃を公約していたが、法案ではチップや残業代で暮らす層と、社会保障に頼る高齢者層には一時的な税控除を適用するにとどまり、暮らしはたいして楽にならないだろう。
中道右派のシンクタンク、タックス・ファウンデーションの推計では、法案は長期的に経済を0.6%成長させる可能性がある。この効果は、成長志向の政策を含めて期限切れになる条項全てを恒久化した場合の1.1%を下回る。
そして0.6%程度の成長は、トランプ氏の関税政策による景気下押し圧力で完全に相殺されてしまうという。しかもこの試算は、貿易相手国による報復措置を勘案していない。
タックス・ファウンデーションの連邦税制担当バイスプレジデント、エリカ・ヨーク氏は「これは税制改革法案とは言い難いし、成長志向の法案でもない。単に財政赤字を財源とする減税法案だ」と切り捨てた。
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