「東大恋愛学部」の“青い方”あおいとは何者か 他人の恋愛を笑った東大卒社長、不同意性交容疑で逮捕
他人の恋愛を笑い、学歴のない相手を見下し、著名人の男女関係を上から品評する。そんな動画で知られた男が、今度は自ら事件記事の主役になった。
SNSチャンネル「東京大学恋愛学部」の“青い方”、あおい。東大卒の経営者を名乗り、青い服を着て動画に登場していた人物である。その正体が、不同意性交の疑いで逮捕された会社役員、古川湧一容疑者(30)だと報じられた。
容疑の舞台となったのは、東京都文京区の宿泊施設。「有名大学出身の経営者や医師が集まる会」と称する交流会だった。集まったのは男女5人ずつの計10人。参加した10代女性は酒を勧められ、酩酊状態になったとされる。
数時間後、女性は警察に被害を訴えた。
東大卒の若手経営者は、なぜこの部屋にいたのか。そして、「東大恋愛学部」のあおいとは、一体何者だったのか。
まず、当たり前だが、「東京大学恋愛学部」という学部は東京大学には存在しない。東大卒の男性2人が運営するSNSチャンネルの名称だ。登場するのは、赤を基調とした「いちご」と、青を基調とした「あおい」。2人はYouTubeやInstagram、TikTokで、恋愛リアリティー番組や芸能人、インフルエンサーの交際を題材に動画を投稿してきた。
売りは、東大卒の2人が他人の恋愛を分析するという設定だった。ただ、その内容は学術的な恋愛論とはほど遠い。
著名人の容姿や学歴、経済力を値踏みし、皮肉と冷笑を交えながら語る。ときには相手を露骨に挑発し、炎上そのものを視聴数につなげるような発信も目立った。
その“青い方”が、古川湧一容疑者だったとされる。だが、古川容疑者の顔は、SNS上のインフルエンサーだけではなかった。
古川容疑者は2015年、東京大学に入学した。在学中の2018年には会社を設立し、代表取締役に就任。2020年に東京大学経済学部を卒業すると、最初の会社の株式を売却し、新たに株式会社マイムを立ち上げた。
学生起業、会社売却、再起業。経歴だけを並べれば、スタートアップ界で好まれる若手エリート経営者の物語そのものだった。古川容疑者は自らのnoteで、株式会社マイムがデジタル広告事業を展開し、年商10億円を超えるペースで成長していると説明していた。
2025年には、千葉銀行がマイムに1億円を融資したことも公表された。同社は広告配信プラットフォームに加え、SEO対策やSNSコンサルティングを手がけていた。
単に東大の肩書を使って動画に出ていたわけではない。事業をつくり、金融機関から融資を受け、一定規模の会社を率いる経営者だった。だからこそ、「有名大学出身の経営者や医師が集まる会」という触れ込みにも、妙な現実味があった。そして、その会にもう一人、社会的信用の高い肩書を持つ男が参加していた。
警視庁滝野川署は、古川容疑者とともに、医師の河合秀紀容疑者(31)、職業不詳の綾部翔太容疑者(30)を逮捕した。逮捕容疑は4月19日未明、東京都文京区の宿泊施設で、酒に酔った状態だった女性にわいせつな行為をした疑いである。
河合容疑者は眼科医として医療機関に勤務する一方、美容医療にも携わっていた。公開情報では、東海高校から日本大学医学部へ進み、慶應義塾大学病院や名古屋大学医学部眼科学教室などを経た経歴が紹介されている。
東大卒経営者と医師。初めて会に参加する女性から見れば、少なくとも表面上は、素性の知れない男性だけが集まる酒席には見えにくかったはずだ。むしろ「医師や経営者が集まる」という説明は、警戒を解く材料になった可能性すらある。
交流会は4月18日午後9時ごろから始まったようだ。男性は容疑者3人を含む5人、女性も5人。被害を訴えた女性は友人に誘われ、初めて参加したという。そこで酒を勧められ、酩酊状態になったとされる。
その後、宿泊施設の一室で何が起きたのか。3人の説明は、大きく食い違っている。
河合容疑者は「性交はしたが、同意があった」と供述し、容疑を一部否認している。一方、古川容疑者は「性的な行為をした事実はない」と全面的に否認。綾部容疑者は「弁護士を通じて回答したい」と話しているという。
つまり、河合容疑者は行為自体を認めたうえで同意を主張し、古川容疑者は行為そのものを否定している。
女性は事件当日のうちに警察へ相談したとされる。今後は、飲酒量や当時の会話、スマートフォンの通信履歴、宿泊施設の防犯カメラ、3人の行動などが詳しく調べられることになる。
重要なのは、女性が酒を飲んでいたかどうかだけではない。自由な意思で性的行為に同意できる状態だったのか。拒否や判断が困難な状態ではなかったのか。それぞれの男が何を認識していたのか。そこが事件の核心となる。
ただ、古川容疑者の逮捕がここまで注目を集めたのは、容疑の内容だけが理由ではない。彼が、その直前までSNSで発していた言葉にある。
「東京大学恋愛学部」が広く知られるきっかけの一つとなったのが、人気YouTuberのヒカルとの応酬だった。2026年5月、同チャンネルはヒカルの恋愛を題材にした動画を投稿した。これにヒカルが反応。「東大に入ってやっていることがこんな活動なのだから、学歴で人は測れない証明だ」といった趣旨で批判した。すると「あおい」と「いちご」は、「低学歴成金YouTuberのヒカルさんへ」と題する動画で反撃した。
2人は自分たちを「教養のある東大生」、ヒカルを「非東の成金」と位置づけ、学歴と経済力を絡めて挑発を続けた。他人の恋愛を扱うというより、東大卒という肩書を盾に、人を上から格付けするような内容だった。
しかし、この騒動が起きた5月には、今回の容疑となった交流会はすでに終わっていた。女性が警察へ相談したのは4月19日だったとされる。つまり、あおいがカメラの前でヒカルを笑い、学歴を材料に相手を挑発していたころ、警察にはすでに女性からの相談が寄せられていたことになる。
古川容疑者がその時点で捜査の動きを認識していたかは分からない。それでも、この時系列が、世間に強い違和感を抱かせた。
逮捕報道後、SNSには厳しい言葉が並んだ。「あおいちゃん、もう他人を冷笑できる立場ではなくなった」「男3人で酔い潰れた女性と行為をしてはいけない」「学歴や肩書があっても、人間性とは別だ」
こうした反応が広がったのは、古川容疑者が単なる会社経営者ではなかったからだ。
他人の恋愛を笑い、著名人の失敗を品評し、学歴の低い相手を見下す。常に安全な場所から他者を採点する側にいた。その人物が、今度は捜査機関から自らの行動を調べられる側に回った。
しかも容疑の舞台は、「有名大学出身の経営者や医師が集まる会」だった。東大、経営者、医師。女性を安心させる材料になり得る肩書が、ここでも並んでいた。「東京大学恋愛学部」が動画の武器にしてきた社会的記号と、交流会の誘い文句は、不気味なほど重なっている。
もっとも、古川容疑者が過去に他人を冷笑していたからといって、今回の容疑が事実になるわけではない。逮捕は有罪判決ではないからだ。古川容疑者は性的な行為自体を否定しており、刑事責任は今後、証拠に基づいて判断される。河合容疑者の「同意があった」という説明も含め、3人の主張と女性側の訴えを慎重に検証する必要がある。
一方で、今回の事件は、恋愛を語ることと、相手の意思を尊重することが全く別の問題であることも突きつけている。恋愛を市場価値や勝ち負けで論じることはできる。誰がモテるか、誰の学歴が高いか、誰の年収が多いかを語ることもできる。
だが、酒に酔った相手が自由な意思で同意できるかどうかは、笑いや冷笑で処理できる話ではない。
カメラの前で他人の恋愛を裁いてきた“青い方”。その男が今、問われているのは恋愛論ではない。宿泊施設の一室で、10代女性の意思をどう受け止め、何をしたのか。古川湧一容疑者の本当の姿を明らかにするのは、東大という肩書でも、SNSのフォロワー数でもない。
これから積み上げられる証拠である。
これまでYouTubeで他人の恋愛や学歴、失敗をさんざん小ばかにしてきた「あおい」。だが今回、自らの経歴に消し難い汚点を刻んだのは確かだ。もちろん、逮捕は有罪を意味しない。それでも、これまでのように安全な場所から他人を笑い続けることは、もう難しいだろう。
ここで沈黙するのか。それとも、これさえも「人生の学び」として語り直し、再びカメラの前に戻ってくるのか。
他人を値踏みすることには長けてきた男が、今度は自分自身をどう見つめるのか。その答えは、司法の判断だけでなく、古川容疑者がこの先どのような言葉を発するかにも表れる。