中山美穂が愛され続ける理由 『ザ・ベストテン』出演映像で振り返る、トップスターになるまでの軌跡

 昨年末、突如飛び込んできた中山美穂とのお別れには、筆者のようにリアルタイムで彼女の音楽や映画/ドラマと接してきた世代はひどく驚いたのではないだろうか。若い世代には女優としてのイメージが強いかもしれない彼女だが、1980年代から90年代にかけて数々のヒット曲を生み出しており、2000年代以降こそ音楽活動を休止状態だったが、コロナ禍前後からは再びリリースやライブ活動を再開。今年2025年には歌手デビュー40周年という大きな節目を控えていたこともあり、昨年も全国19都市21公演におよぶライブツアー『Miho Nakayama Concert Tour 2024 -Deux-』を開催したばかりだった(この模様は昨年11月27日に同タイトルのBlu-ray作品としてリリース)。

 そんな中山の40周年を祝して、3月19日にBlu-ray BOX『〜Miho Nakayama 40th Anniversary〜 中山美穂「ザ・ベストテン」永久保存版』がリリースされる。1980年代に中山が出演した音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)での貴重な歌唱シーンを中心に、デジタルレストア&サウンドマスタリングされた映像が5枚のBlu-rayディスクに収められている本作は、彼女の追悼作品として制作されたものではなく、一年前から中山とスタッフが発売に向けて準備を進めていたという肝入りの作品集だ。

 詳細な内容に触れる前に、まず『ザ・ベストテン』という音楽番組について説明しておきたい。『ザ・ベストテン』は1978年1月から1989年9月まで、毎週木曜21時から1時間の生放送で届けられた音楽番組。シングル売り上げと有線放送やラジオ放送のリクエスト、番組にハガキで寄せられたリクエストから算出されたポイントをもとに、上位10曲をカウントダウン形式で発表し、ランクインしたアーティストが楽曲披露していくという内容だ。毎回趣向を凝らした独特なセットを背に、ほとんどのアーティストが生演奏で歌い、時には地方からの生中継で歌唱するなど、今では考えられないような豪華なセッティングで毎週放送。最高視聴率41.9%という数字からもわかるように、昭和時代の国民的音楽番組として愛されてきた。

 1985年6月、15歳の時にシングル『「C」』で歌手デビューした中山だが、このBOXセットには同曲で『ザ・ベストテン』に初登場した初々しい映像から、1989年夏にヒットした16枚目シングル『Virgin Eyes』まで、中山がトップスターへと登り詰めていく過程を余すところなく収録。まさしく「初期の“歌手・中山美穂の成長譚”の決定版」と断言できる内容だ。

 各曲5〜10数テイクが用意されており、ディスク5枚でトータル461分(約7時間40分)というボリュームはいささかトゥーマッチさも否めない。が、たとえばデビュー曲『「C」』では『ザ・ベストテン』にランクインする前の「今週のスポットライト」(ランク外の注目曲)で歌唱するシーンや、ザ・ドリフターズの冠番組『8時だョ!全員集合』での歌唱(コントのエンディングからそのまま転換〜生歌唱という、今では貴重な映像だ)、『第27回 輝く!日本レコード大賞』最優秀新人賞受賞時の歌唱と、『ザ・ベストテン』のみならず同じTBS系で放送された番組での歌唱映像もピックアップされており、デビュー当時の中山の立ち位置を確認することもできる。

 また、3rdシングル『BE-BOP-HIGHSCHOOL』(1985年12月発売)以降は『ザ・ベストテン』常連アーティストとなり、同じ曲でも順位の変動はもちろん、衣装の変化、黒柳徹子をはじめとする司会者とのやりとりなどを楽しむことができ、不思議と飽きることはない。また、先に触れた「毎回趣向を凝らした独特なセット」に関しても、たとえば『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で初ランクインした週は巨大な色鉛筆を模したセット(しかも、色鉛筆の着ぐるみが曲に合わせて踊り出す)、翌週はクリスマスを彷彿とさせるファンタジックなセットと、中山のために用意された特別なセットからはスタッフの気合いが十分に伝わる。なお、その翌週と翌々週は当時彼女が出演していたテレビドラマ『毎度おさわがせします』(TBS系)の収録スタジオからの中継となっており、ここでは当時の彼女の人気ぶりや忙しさを垣間見ることができる。

 中山と世代の近い筆者は、ここに収録されている『ザ・ベストテン』の模様はほぼ目にしており、「初期は緑山スタジオからの中継が多かったなあ」なんてことをこの映像集を観て思い出したりもした。また、なかには「あ、これはインパクト強かったよね」と強く印象に残っているシーン、「これ覚えてなかったけど、強烈だなあ」という演出もいくつかあった。たとえば、「色・ホワイトブレンド」では桜満開の江戸時代の長屋で町民たちの前で歌い、「WAKU WAKUさせて」ではサイケな色彩の“謎の生物”がリズムに合わせて舞うなかで歌唱。「Witches ウィッチズ」では中山を囲む複数の白い銅像が実は生身の人間で、途中からダンスを始める。こういった曲の世界観を飛び越えた謎演出も、『ザ・ベストテン』ならではの見どころではないだろうか。

 そして、本作を視聴していてあらためて驚いたことだが、中山はスタジオ歌唱と同じくらい中継での歌唱が多かった。思えば10代後半の中山はトップアイドルとして人気がうなぎ登りだったタイミングで、毎年数本の連続ドラマや主演映画に出演。さらに自身のコンサートツアーなどもあり、毎週木曜夜に都内にいるとは限らないわけだ。こうした中継にも興味深い場面が多々あり、ドラマや映画の収録現場では共演者のなかに若き日の名優たちの姿を見つけることもできる。また、ある時には新幹線移動で途中停車の駅ホームで歌唱したり、ある時にはしっかりと雪が積もった北海道の野外で歌ったりと、今ではちょっと考えられないようなシチュエーションも登場する。かと思えば、レコーディングスタジオからの中継で、中山がレコーディングブースのなかで歌う最中、ブースの外ではスタッフがそばを食べていたりタバコをふかしていたりというシュールな映像もあり、昭和という時代のおおらかさを感じずにはいられない。

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