ニューヨーク富裕層、子供は欧州名門校に-「トランプ要因」で脱米国
5月初旬のある涼しい夜、米ニューヨーク・セントラルパークの向かいに建つ古典主義風のボザール様式の建物プラット・マンションズでは、欧州屈指の私立学校11校の代表者らが、アッパー・イースト・サイドの人々と交流を深めていた。
そこには、英国の名門ミルトン・アビー・スクール、ベネンデン・スクール、ウェストミンスター・スクールからの出席者もいた。学校関係者は2時間にわたり、ニューヨークの裕福な親たちに、10代の子供たちを大西洋の向こう側に留学させるメリットを語った。テムズ川での朝のボート、ハリー・ポッターに出てくるホグワーツ魔法学校さながらの食堂での朝食、アルプスでのスキー旅行など、そのすべてが、マンハッタンの私立学校の費用約7万ドル(約1040万円)をわずかに上回る費用で実現できる。
背景には、トランプ大統領の問題もある。より具体的には、トランプ氏から逃れるということだ。教育界ではトランプ政権に対する恐怖心が強く、この問題を公然と話す者は誰もいなかった。だが、個別の会話では、海外の学校への関心が急上昇した主な理由として、「トランプ要因」が繰り返し挙がった。
一定の投資をした人が市民権を得られる「ゴールデンビザ」をポルトガルで取得する方法や、コスタリカで退職後の貯蓄でどれだけ暮らせるかを調べる米国人が増えているのも、トランプ氏の世界観に対する嫌悪感によるものだ。
その夜のプラット・マンションズでは、ベネンデン・スクールのレイチェル・ベイリー校長が最も率直だった。ベイリー氏は、今秋に米国人学生の増加が予想される要因として、「政権の交代」と「地政学的な動向」を挙げたのだ。
もっとも、こうした動向には両面がある。近年、保守的な米国人の間では、「社会的不正義に対する意識が高過ぎる」とみなした学校から、子供たちを退学させる動きが続いた。このテーマは昨年、トランプ氏が大統領選で勝利する一助にもなった。教育の政治化については、支持政党を問わず多くの人が不満を述べている。
少なくとも14世紀に創設されたウェストミンスター・スクールの登録担当、ガイ・ホプキンズ氏は「さまざまな理由で教育に不満を持っている米国人がいると耳にする」と話す。
プラット・マンションズでのイベントを主催したロンドン拠点の「ネクストステップ・エデュケーション」にとって、米国での「学校フェア」は初めての試みだった。この団体は普段、ドバイやシンガポールなどの富裕層を対象としているが、ここ2-3年でニューヨークの親たちからの問い合わせが増えたため、開催に踏み切ったという。
同団体のデビッド・ウェルズリー・ウェズリー理事会長は、トランプ氏に関する質問に明言は避けつつ、「政治への不安は、確かに要因の一つだ」と認めた。同氏は、英国の学校の「構造、厳格さ、伝統」が、米国からの関心の高まりの主な要因と分析する。テクノロジーが子供たちの成長に与える影響を懸念するニューヨークの親たちにとって、こうした要素はますます魅力的に映ると考えている。
英国の学校には、多くの外国人学生を勧誘する大きな動機がある。このフェアでも、参加した11の教育機関のうち、10校が英国からだった。昨年政権に復帰した労働党は、私立学校の授業料に20%の付加価値税を課す措置を延長した。この措置が、一部の学校の入学者数に打撃を与えている。
ウェストミンスター校の寄宿生部門と上級生部門のディレクター、タソス・アイドニス氏は課税前には「専門職の親2人でも、名門校の費用をほぼ賄えた」と振り返る。だが「現在では、現実的に可能な範囲を超えている」という。
だが、ニューヨークの富裕層で、子供のために地元のトップ私立高校に年間約7万ドルを支払う用意がある人にとっては、英国での1年間の学校費用(食事と住居費を含む)に1万ドル程度を追加で支払うことなど、さほど大きな負担ではない。
フェア会場では、数十人の家族連れが、学校が設置したテーブルの間をゆっくりと歩き回っていた。シャナ・クーパー・サイラスさんは、2人の娘、テイラーとコーリーを連れて訪れた。娘のために北東部の学校を探していたところ、インスタグラムで欧州の学校フェアの広告を見たという。
サイラスさんは、「米国で高まる社会的・政治的緊張」と、それが子供たちに与える影響について懸念しているという。「教育を受けた黒人の家族として、娘たちに優れた勉学の場と、感情面の安定の両方を提供できる選択肢を探している」と電子メールで胸の内を明かした。
ウェルズリー・ウェズリー理事会長は、今回の参加人数に満足しているという。同氏はすでに、ニューヨークで来年春に開催する次回フェアの計画を立てている。「ニューヨークでの取り組みを2倍に強化するつもりだ」と意気込んだ。
原題:Rich NYC Parents Who Oppose Trump Are Lured by Posh UK Schools(抜粋)