恐竜の交尾、骨を折るほど激しかった? 尾の付け根周囲に骨折の痕

そのハドロサウルス類に何があったにせよ、想像を絶するような痛みだっただろう。尾椎骨から伸びる突起の多くが折れていたのだ。オロロティタン(Olorotitan)として知られるその恐竜が単に愚鈍だったからだろうと考えるには、あまりにも多くの骨が折れていた。

骨折は尾の付け根部分に強い下向きの圧力がかかったせいだと考えられる。もしも体長約8メートル、体重約3トンにもなるもう1頭のオロロティタンであれば、こんなケガを負わせられたかもしれない。

ベルギー王立自然史博物館の古生物学者フィリッポ・ベルトッツォ氏は、2019年にロシアのブラゴベシチェンスクにある古生物学博物館にオロロティタンの骨を研究しに来ていたときに、こうした奇妙な骨折に気がついた。

「自分の目の前にあるものがわかったとき、うれしさのあまり叫んでしまいました」と、ベルトッツォ氏は言う。以前から自身の研究や科学文献の中で、腰のあたりの椎骨が折れているハドロサウルス類の化石を見てきたからだ。

1989年、古生物学者のダレン・タンケ氏は、こうした骨折は交尾をするために1頭が相手に背後から覆いかぶさったことで起きたのではないかという仮説を唱えた。しかし当時、骨折痕が残るハドロサウルス類の化石はほとんどなく、骨折が交尾によるものなのか、あるいは例外的なケガであったのかを判断することはできなかった。

ベルトッツォ氏の発見はタンケ氏の説をよみがえらせた。骨折痕によって、恐竜がどのように交尾をしたかという長年の謎が明らかになる可能性が出てきた。

古生物学者たちは、恐竜が今の爬虫(はちゅう)類や鳥類と同じように交尾をしていたことを疑ってはいない。しかし、交尾の姿勢のままで保存された恐竜はこれまでのところ発見されていない。

「恐竜の求愛行動や交尾を再構築するのが本質的に難しいのは、そうした行動が短時間で、季節限定で行われており、化石に痕跡がほとんど残っていないからです」と、スペイン、カンタブリア大学の古生物学者イグナシオ・ディアス・マルティネス氏は説明する。

古生物学者にとって恐竜の交尾は、恐竜の模型をぶつけ合わせるだけでは解明できない難問だった。骨格を調査し、現生動物と比較するというこれまでの研究は、現生の陸生動物の中には、恐竜のように交尾を難しくさせるほど太く大きい尾を持つものがいないという事実に阻まれてきた。

そんな恐竜たちの交尾はおそらくアクロバティックなチャレンジだったに違いない。ステゴサウルスなど鎧(よろい)をまとったような恐竜が、どう交尾をしていたかは誰にも分からない。

鎧を持たないハドロサウルス類でさえ、どう交尾をしていたのか研究者たちを悩ませてきた。「ハドロサウルスのように大きく、長い筋肉質の尾を高く水平に保てる現生動物はいません」と、ベルトッツォ氏は言う。残っている骨からヒントを探るしかない。

他の恐竜に比べ、ハドロサウルス類の化石に骨折痕が多く見つかっているのは、ハドロサウルス類の化石が数多く発掘されているからでもある。単独の化石を見た場合、骨折を生じさせた理由としては、肉食恐竜にかまれたとか、あるいは転倒したとかさまざまな要因が考えられる。

ところが、それらをまとめると違った物語が見えてくる。

北米、ヨーロッパ、ロシアで骨折痕のあるハドロサウルス類の化石を数多く研究してきたベルトッツォ氏やタンケ氏らは、2025年11月21日付の学術誌「iScience」に、骨折の最も有力な原因は交尾であると考えられると発表した。「世界中で尾の骨を折ったハドロサウルス類が見つかるということは、事実上全てのハドロサウルス類に共通するパターンだということです」と、ベルトッツォ氏は言う。

尾の傷痕にかみ痕や他の恐竜の歯は残っておらず、肉食恐竜に襲われた可能性はまずない。また種、大陸、時代を問わず、傷ついた尾椎が主に腰近くに位置していた事実も、転倒や倒木の下敷きになるなどの事故ではない共通の原因を示唆している。

大型のハドロサウルス類は体重が非常に重い。神経棘の変形の状態は、横向きに寝ていたメスにオスが斜め上からのしかかる密接な身体接触があったモデルと最もよく一致した。ハドロサウルスたちが単に抱き合っていたとは考えにくいため、交尾が最も可能性の高い説明となる。

ハドロサウルス類が互いに強く寄りかからなければならなかった解剖学的理由は、つい最近、化石から発見された。恐竜は近縁である現生の鳥類と同様に、総排出腔を持っていたのだ。

総排出腔は鳥類の他、ワニ類などの爬虫類にもある。見た目は尾の付け根にある切れ込み程度だが、肛門管、尿管、生殖器の末端が一体となっている。近縁である鳥類やクロコダイル(大型のワニ)に総排出腔があることから、恐竜にもあると考えられてきたものの、その証拠となる化石は長らく発見されていなかった。

しかし、2022年にオーストラリア、ニューイングランド大学の古生物学者フィル・ベル氏らが、非常に保存状態のいいプシッタコサウルス(Psittacosaurus)という小型の恐竜の化石について報告した論文で事態は一変した。

化石には皮膚の痕も残っており、数種類のパターンのうろこを確認できた。そして保存された皮膚の中には総排出腔と見られるものもあった。現生のワニと同様に、腰のすぐ後ろにある切れ込みだ。

2頭の恐竜が交尾するには、互いの総排出腔を近づける必要があった。その姿勢は非常に窮屈なもので、その結果、ベルトッツォ氏らが指摘するとおり骨折が生じたことに間違いないだろう。しかし現在のところ、化石からそれ以上のことは分かっていない。

プシッタコサウルスの皮膚化石から確認できるのは総排出腔の外側の部分だけだ。クロコダイルや鳥類と同様に恐竜にも性別によって陰茎ないしは陰核があると、古生物学者たちは考えているが、そうした軟組織の痕跡はまだ化石から発見されていない。

発見されたとしても、恐竜の性別を判別するのは難しいだろう。ワニやヒクイドリなど多くの鳥類では、オスの陰茎もメスの陰核もよく似ていて、見分けられるのは専門家だけだ。そうした器官はまた種によって違いが大きい。

おそらく全ての恐竜が総排出腔を持っていただろう。しかしその構造や機能は、動物学者たちが現生の爬虫類で記録しているとおり、種によって異なっていたはずだ。

これまで古生物学者は恐竜の求愛行動について多くを学んできたが、それらの知見は特定の種やグループのみに当てはまるものだ。新発見があるたびに、恐竜の求愛行動について新たな疑問が浮かび上がる。

さらなる証拠は化石などに必ず残っているはずだ。極めてまれではあるが、足跡からも恐竜の交尾を特定できる可能性もある。

「重なり合う足跡、捕まれたときの爪痕、堆積物の局所的な変化など、交尾の際に特徴的な痕跡を残す体位が伴えば、それらは例外的な条件の下で保存される可能性があります」と、ディアス・マルティネス氏は言う。

踊る恐竜の足跡が求愛行動の痕跡として残っているが、それ以外の足跡やひっかき傷などは恐竜の交尾の瞬間を明らかにしてくれるだろう。

ベルトッツォ氏は今回の新たな研究によってこれまでに発掘された標本からも、交尾に関連する病理痕が発見されることを期待している。「私のいちばんの願いは、多くの研究者たちが自分のコレクションをもう一度見直してくれることです」と、ベルトッツォ氏は言う。

ひっかき傷から骨折痕まで、恐竜たちの交尾の証拠は増え続けている。彼らの出会いはおそらくほんの数秒、長くても数分で終わっていたはずだ。しかし岩石や骨はその親密な瞬間を何百万年もの間保管してきた。

文=Riley Black/訳=三好由美子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年3月28日公開)

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