金正恩は海外に「専用トイレ」を持参、では習近平は…会談終了と同時に警備員が突入し"抹消する情報"(プレジデントオンライン)

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy(株式会社プレジデント社)

インテリジェンスの世界では、何を情報源としているのか。東京工科大学教養学環教授の落合浩太郎さんは「国家の命運を左右する最高指導者の健康状態は、各国の情報機関が喉から手が出るほど欲しがる情報だ。そのため海外訪問では北朝鮮の金正恩総書記は『専用トイレ』を持参し、習近平国家主席も会談後に徹底していることがある」という――。

【写真を見る】歩き方、声、表情…わずかな変化も見逃さない

 ※本稿は、落合浩太郎『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界』(三笠書房)の一部を再編集したものです。■海外訪問で生体情報を残さない習近平 インテリジェンスの材料は、盗聴した通信や極秘文書だけではない。実は、人間の「身体」そのものも重要な情報源となる。 とりわけ国家の命運を左右する最高指導者の健康状態は、各国の情報機関が喉から手が出るほど欲しがる情報だ。病気の進行具合や服薬状況、精神状態、さらには余命の見通しまで把握できれば、外交交渉や安全保障戦略に大きな影響を与えうる。 そのため世界の指導者たちは、自らの生体情報を守るために日々、驚くほど神経を尖らせているのだ。 北朝鮮の金正恩総書記が、海外訪問の際に「専用トイレ」を持参していると複数のメディアで報じられているのも、その象徴的な例だ。仮に排泄物が第三者の手に渡れば、現代の分析技術によって、持病や服薬状況まで推測されかねない。 こうした姿勢は、中国の習近平国家主席についても同様だ。外国訪問の際には、会談終了と同時に警備員が室内に突入し、彼が触れた椅子やテーブルをすべて消毒して、生体情報を残さないようにしているという。

 たとえ表向きは同盟国であっても、裏では互いの情報を探り合う。インテリジェンスの世界では、それが当たり前なのである。


Page 2

■顔ではなく印象を変え、敵を欺く「変装術」 映画やドラマの変装といえば、特殊メイクで顔そのものを作り変える大掛かりなものを想像しがちだ。しかし、現実のインテリジェンスの世界では、そのようなハリウッド的変装が使われる場面は意外なほど少ない。 なぜなら、工作員が変装を必要とするのは、敵の防諜機関に尾行されている最中など、一刻を争う状況であることが多いからだ。与えられる時間は、街角のトイレに駆け込んで出てくるまでの数分程度しかないこともある。 かつてCIAには、変装技術の開発で名を馳せたロバート・バロンという専門家がいた。映画業界の特殊メイク技術も研究しながら、現場のオフィサーたちに数多くの偽装ノウハウを提供した人物である(退職後は、その高度なシリコン技術を活かし、事故や病気で顔の一部を失った人々のためのリアルな義耳や義鼻を製作する医療分野で活躍している)。 だが皮肉なことに、変装のプロであるバロン自身が「顔を作り変えること」には限界があると理解していた。そこで彼が追求したのは、顔ではなく「印象」を変える技術だった。■眼鏡、帽子、歩き方…「小さな変化」が効く 現場で効果的とされるのは、意外にもごく小さな変化だ。元CIA職員らは、服装や髪形だけでなく、眼鏡や帽子を変えることでも、短時間で人物の印象を変えられると説明している。 さらに重要なのが、歩き方や姿勢の変更だ。防諜捜査官は顔だけを見ているわけではない。歩幅、肩の揺れ方、猫背の癖、腕の振り方といった身体の特徴も無意識に記憶している。 そのため、背筋を伸ばしたり、歩幅を変えたりするだけでも、印象は大きく変わるのだ。中には靴の中に小さな異物を入れ、意図的に歩き方を変えるといったテクニックも語られている。 こうした変装術の目的は、美しく化けることではない。周囲の景色に溶け込み、「さっき見たはずなのに思い出せない人」になることだ。 こうした人間は、俗に「グレーマン(Gray Man)」と呼ばれる。 誰の記憶にも残らない普通の人間になることこそ、最高の変装なのである。----------落合 浩太郎(おちあい・こうたろう)東京工科大学教養学環教授1962年、東京都生まれ。1995年、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。東京工科大学専任講師、同コンピュータサイエンス学部准教授を経て現職。専門は国際関係論、安全保障、インテリジェンス。ドラマ『VIVANT』では監督から企画段階で相談を受ける。著書『CIA 失敗の研究』(文藝春秋)、編著『インテリジェンスなき国家は滅ぶ 世界の情報コミュニティ』(亜紀書房)などがある。

----------

関連記事: