温暖化止めても氷河戻らず 科学者80人が警告、アジアの水資源に迫る危機
地球温暖化(沸騰化)によって世界各地の氷河が融(と)けまくっています。では、温暖化を止めて気温を下げれば、失われた氷河は元に戻るのでしょうか。この疑問に対し、80人以上の科学者が参加した新たな報告書が、厳しい警告を発しました。
11月2日、国際雪氷圏気候イニシアチブ(ICCI)は、国連環境計画(UNEP)と連携した報告書「一時超過と雪氷圏:地球規模の融解を避けるために(Overshoot and the Cryosphere: Averting Global Meltdown)」を公表しました。
報告書は、地球の平均気温がパリ協定の目標である産業革命前からの上昇幅1・5度を一時的に超え、その後に気温を下げたとしても、氷河や氷床の融解による影響の多くは簡単には元に戻らないと強調しています。
「オーバーシュート」
今回の報告書では、各国が現在の気候変動対策を続けた場合、今世紀中の気温上昇が約2.8~3度に達する可能性があると指摘。こうした気温上昇が1・5度の目標を一時的に超えることを「オーバーシュート(overshoot)」といいます。
オーバーシュートの後、温室効果ガスの排出削減や大気中の二酸化炭素の除去によって、地球の気温を再び下げることは可能です。ところが、今回の報告書は、こうした方法だけでは氷河や氷床の損失を十分に回復できないと指摘しています。なぜか。
氷河が再び成長するには、長期間にわたって雪が蓄積し、氷となる必要があります。グリーンランドや南極の巨大な氷床では、いったん融解が進むと、その影響が数百年から数千年にわたって続きます。報告書によると、グリーンランドと南極の氷床はすでに、1990年代と比較して約6倍の速さで氷を失っています。
ヒマラヤ氷河、最大約6割減少
今回の報告書で、アジアの水資源問題を考えるうえで特に重要なのが、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ地域の氷河に関する予測です。この地域には、インダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川など、アジアの巨大河川の水源となる氷河や積雪が広がっています。
報告書によると、このままいけば、同地域の氷河の氷の質量は最大で現在の約41%まで減少します。つまり、現在の氷の約6割が失われる計算になります。
一時的に水が増えることも
氷河が融けると、短期的には河川へ流れ込む水の量が増える場合があります。しかし、融解が進んで氷河そのものが小さくなれば、やがて氷河から供給される水が減少します。
これは「ピークウォーター(Peak Water)」と呼ばれる現象です。特に問題となるのは、雨が少ない乾季に、氷河や積雪の融解水が河川流量を支えている地域です。
例えば、インダス川流域では、山岳地域の雪や氷河から供給される水が重要な役割を果たしています。
氷河の減少が国際河川の対立に
ヒマラヤの氷河が減少することは、自然環境だけの問題ではありません。アジアの巨大河川は複数の国を流れており、その水は農業、飲料水、水力発電などに利用されています。例えば、国際河川のインダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川などでは、それぞれ国際紛争を抱えているので、さらに厄介な問題となります。
重要なのは、将来の河川流量に不確実性が高まるなかで、上流国と下流国がどのように協力するかです。河川流量や積雪、氷河の観測データを共有し、干ばつや洪水に共同で対応する仕組みが、これまで以上に検討材料に上がらなくてはなりません。
<参考文献>天野健作『アジアの水覇権 中国・インドの資源紛争を解く』(博論社)
大和大学社会学部教授。記者として20年間、国内外を取材してきました。専門は地球環境で、東京大学で博士号取得、京都大学で修士号取得。報道の現場で培った取材力を基盤に、環境問題を社会構造や国際関係の文脈から多角的に分析しています。とりわけ、資源をめぐる国家間の緊張や利害対立、エネルギー政策の意思決定過程などを主要テーマとしています。加えて、ラーメンなどの食文化、アイドルなどの推し活、生成AIなど幅広く現代社会が直面する課題に対し、実証的かつ批判的な視点から研究を行っています。主な著書に『アジアの水覇権 中国・インドの資源紛争を解く』(博論社)、『原子力規制委員会の孤独』(エネルギーフォーラム)。